原題 ; L'HISTOIRE D'ADELE H.(1975) |
監督 ; フランソワ・トリュフォー |
脚本 ; フランソワ・トリュフォー、ジャン・グリュオー、シュザンヌ・シフマン |
音楽 ; モーリス・ジョベール |
共演 ; ブルース・ロビンソン、ジョゼフ・ブラッチリー、シルヴィア・マリオット |
フランセス・V・ギール著の「アデル・ユーゴーの日記」をもとに、文豪ヴィクトル・ユーゴーの次女アデルの狂おしい愛情を描いた力作。 イザベル・アジャーニの出世作。今でも一般的な代表作というと、この作品になると思う。 名匠フランソワ・トリュフォーにとっても、代表作の一つとなった。 1863年、南北戦争で分裂したアメリカに南部の独立を支持したイギリスは、カナダのハリファックスに軍隊を送り込んだ。 そこに商船で渡航した乗客たちが上陸する。その中に若く美しい女性(イザベル・アジャーニ)の姿があった。 検問をすり抜けて馬車の乗った彼女は、御者のオブライエンにサンダース家の下宿を紹介される。 彼女はミス・ルーリーと名乗って下宿した。 彼女はパリの医師ルノルマンの妻と名乗って公証人ルノワールを訪れる。姪の婚約者ピンソン中尉(ブルース・ロビンソン)について内密に調査してほしいというのだ。 本屋でピンソン中尉を見かけた彼女は、店主のホイスラー(ジョゼフ・ブラッチリー)から借金が多いなどピンソンに良くない噂が多いことを聞かされる。 サンダース家の主人が英軍のパーティーに出席すると聞いた彼女は、主に恋文を託す。 彼女の姉レオポルディーヌは19歳のときに、ヨットが転覆し、助けようとした新婚早々の夫ともども水死していた。 帰宅した主人から、彼女は夢中になってピンソンの様子を聞く。だが、手紙に返事はなかった。彼女は思わず涙ぐんで部屋に戻った。実はピンソンは手紙を読みもしなかったのである。 彼女の本名はアデル。彼女はピンソンを追って両親の元を飛び出し、単身カナダの渡った。そして両親からの送金で食いつないでいる。 アデルは一人でピンソンへの想いを書き綴って暮らしていた。 ある日、アデルの元にピンソンが訪れてくる。 あわてて身支度して出て行くアデル。ピンソンは、アデルと結婚するつもりはなかった。もう会う気もないので両親のいるガーンジー島に帰るように言う。 別れ際、アデルは借金の足しにと、なけなしの金をピンソンに渡す。 それでもアデルの想いはつのる一方だった。 アデルはピンソンをつけまわして女と密会する現場を覗く。アデルの行動は、さらに狂的になっていく。 心労のたまったアデルは手紙用の紙を購入する本屋の前で倒れてしまう。 病床でアデルは両親にピンソンと婚約したと手紙を書く。 サンダース夫人に手紙の投函を頼まれた医師は、宛先が文豪ヴィクトル・ユーゴーであることに気づく。アデルはユーゴーの侍女だった。 サンダース夫人は身元を隠すには事情があるに違いないと、医師と二人だけの秘密にして、とりあえずユーゴーの住所を控えておく。 ピンソンが宿舎にもどると上着のあちこちに恋文が入れられていたりする。 ある日、父からの結婚同意書が届いた。 アデルは男装してパーティーに潜り込む。同意書を見てもピンソンに結婚の意志はない。アデルは、これでお別れだからと涙ながらに訴えピンソンにキスさせる。 アデルは両親にピンソンとの結婚を報告した。手紙を受け取ったユーゴーは娘が結婚したという記事を新聞に掲載する。 この記事が英軍で問題になるが、ピンソンはシラを切る。日頃から行いが悪いピンソンは、これ以上問題を起こすと軍法会議だと忠告された。 ピンソンからの手紙で結婚が偽りであり可能性もないことを知ったユーゴーは、アデルに帰国するよう連絡する。だがアデルにピンソンから離れる意思はなかった。 アデルに想いを寄せる本屋の店主ホイスラーは、彼女に父の著作「レ・ミゼラブル」をプレゼントする。 アデルは、つまらない噂を信じたのね、と怒り出し受け取らなかった。 奇矯な行動をエスカレートさせるアデルは、売春婦をピンソンの元に行かせる。 催眠術師の舞台を見たアデルは、ピンソンを心変わりさせるよう依頼しようとするが、これは事前にインチキと分かった。 自分は名のない父親の子だから父の名を知らないと言い出したり、夫婦一緒に埋葬された姉のことを夢に見てうなされたりしてサンダース夫人を心配させる。 ピンソン中尉が判事の娘アグネスと結婚すると知ったアデルは、判事と面会して自分はピンソンと結婚して妊娠していると話し婚約を解消させる。 アデルは帰国の準備を始めていた。しかしサンダース家を出ても実際に去ることはできず御者に頼んで浮浪者向けの無料宿泊所を紹介してもらう。 服装もボロボロになったアデルに、父から母が病気療養に移転して一人ぼっちだから帰って来てほしいと手紙が届く。それでも彼女はカナダの町をうろつき続ける。 やがて母親の訃報が新聞に掲載された。 ピンソンの隊はバルバドス島に移動。後を追ったアデルは黒人地区で倒れ、地元の黒人女性に助けられれる。 ピンソンは倒れて看病されているアデルがピンソン夫人と名乗っていることを知らされた。 やがて街を徘徊するアデルの姿を見つけたピンソンは後を追う。だが、アデルはピンソンが目の前に立って声をかけても、彼を見止めることはなく歩んでいってしまう。 精神を病んだアデルは黒人女性に連れられて帰国し、約40年を精神病院で暗号による日記を書いて過ごす。 父ヴィクトル・ユーゴーは1885年に「黒い光が見える」と言い残して死んだ。誰よりも長く生きたアデルが死んだのは1915年4月のことだった 死の50年前、旅立つアデルは日記に記していた「若い娘が古い世界を捨て海を渡って新しい世界に行くのだ。恋人に会うために」。 時には冷静な言動をしながらも、自分の行動が抑えられず狂気に陥っていくヒロインをイザベル・アジャーニが見事に演じ切っている。 凡百の監督と演技者の手にかかったら、単なるストーカー物になってしまうような内容を、究極の愛を描いたドラマに昇華させている。 トリュフォー監督は、本作の2年後に女を片っ端からナンパする足フェチを主人公にした「恋愛日記」を撮った。一見両極端な印象の2本だが、相手に関係なく愛を貫き、愛に殉じていくという行為に崇高さを見いだしている点で共通しているように感じた。 音楽には1930年代に活躍した「舞踏会の手帖」のモーリス・ジョベールによる既成曲を使用している。 事前に使用する曲を決めて撮影現場で流し、ムード作りに利用したエピソードを読んだことがあり。トリュフォーは、本作から「トリュフォーの思春期」「恋愛日記」「緑色の部屋」までの4作でモーリス・ジョベールのスコアを使用、「逃げ去る恋」から従来のジョルジュ・ドゥルリューとのコンビに戻った。 |
アデルの恋の物語