原題 ; PHANTOM DER NACHT(1978)
 監督 ; ヴェルナー・ヘルツォーク
 脚本 ; ヴェルナー・ヘルツォーク、F・W・ムルナウ
 音楽 ; ポポル・ヴー
 共演 ; クラウス・キンスキー、ブルーノ・ガンツ、ローランド・トパー
F.W.ムルナウ版ドラキュラの「ノスフィラトゥ」をヴェルナー・ヘルツォークがリメイクした作品。
ジョナサン・ハーカー(ブルーノ・ガンツ)の妻ルーシー(イザベル・アジャーニ)は悪夢に悩まされていた。
ジョナサンは雇い主のレンフィールドからトランシルヴァニアのドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)が家を購入する言ってるので商談に行くようにと指示される。
ルーシーは不吉な予感がすると止めるが、ジョナサンは旅立っていく。
ジョナサンは途中の村で食事に立ち寄る。ドラキュラ城に行くと知った宿の主人は彼を止めようとする。
翌朝、ジョナサンは馬車を仕立てようとするが断られてしまう。馬を買うことも出来ず、仕方なく徒歩でドラキュラ城を目指す。
ようやくドラキュラ城に辿り着いたジョナサンは、青白い顔で全く頭髪のないドラキュラ伯爵に面会する。
ジョナサンが食事中にナイフで指を切ると、伯爵がむしゃぶりつく。驚いて後ずさるジョナサン。
一方、ルーシーは窓のカーテンにとまったコウモリに怯えていた。
朝になってジョナサンが目覚めると、城内は無人だった。彼はルーシーに宛てて手紙を書く。
夜になるとドラキュラ伯爵が姿を現す。世の中には死よりも恐ろしいものがあると伯爵は言う。
伯爵が購入した家はジョナサンの家の近くだった。
真夜中、ジョナサンがベッドに横たわっているとドラキュラ伯爵が襲いかかってきた。
同じころ、ルーシーは夢遊病者となって歩き出し、寝室に連れ戻されるとジョナサンの名を叫ぶのだった。
再び朝が来てジョナサンは城内をドラキュラの姿を求めて走り回る。伯爵は棺(ひつぎ)の中に横たわっていた。
思わず逃げ出したジョナサンは柩が運び出されるのを見る。
ルーシーに危険が迫ると察したジョナサンはシーツを裂いてロープを作り窓から逃げ出すが、墜落して気を失ってしまう。
柩は川を下り、港で船に運び込まれていた。検疫で柩の一つを開けると中味は土くれとネズミだった。
レンフィールドは発狂してハエを食べ精神病院に収容されていた。彼は船が近づいていると言う。
船では5名が病死、2名が行方不明になっていた。
やがて船が入港すると、レンフィールドはご主人が来たと喜ぶ。
舵には船長が縛りつけられて死んでいた。他には無人で船倉にはネズミがあふれている。
航海日誌を調べた人々はペストの発生を知った。
夜、船から家に柩を運び込むドラキュラ伯爵。
衰弱したジョナサンが担ぎ込まれるが、彼は記憶を失っていた。ヴァン・ヘルシング医師は高熱で脳を侵されたと診断する。
ドラキュラはルーシーを見つけ出し、彼女に愛を分けてほしいと懇願する。ルーシーは夫は自分で助けるとドラキュラを追い返した。
ルーシーが書物を調べると、吸血鬼の弱点は十字架と聖餐(せいさん)用のパン。そして女性の献身に朝の到来を忘れてしまうこととあった。
市街にはネズミがあふれ、ペストも広がっていた。
ルーシーはヘルシング博士に協力を求める。だが、博士は信じない。
街をさまようルーシー。広場では民衆が狂ったように踊っている。ネズミの群れが走り回る中、最後の晩餐と称して道端に食卓を出して食事する人々もいた。
近くのシュレーダー家で死者が出た。首には傷がある。ヘルシングは死因がわからないと言う。
決心したルーシーはドラキュラ伯爵をおびき寄せる。ルーシーの首筋に噛みつくドラキュラ。
夢中になったドラキュラはルーシーの寝室で朝を迎えてしまう。
朝日をあびたドラキュラは息絶えた。ルーシーとドラキュラの死体を見つけたヘルシング博士は、ルーシーの警告を聞かなかったことを悔い、ドラキュラに杭を打って止(とど)めをさす。
ジョナサンが役人を呼び、ヘルシングは殺人罪で逮捕されてしまう。残されたジョナサンの前歯はネズミのように尖っていた。
ラストはジョナサンらしき男が、馬に乗って砂漠を駆け抜けていく場面になっている。
ムルナウは、ヴェラ・ルゴシやクリストファー・リーに代表される貴族的イメージとは全く異なるドラキュラ像を作り上げていた。
これまで日本でリリースされていたムルナウ版はアメリカで編集された短縮版で、どうやら今回発売されたものがオリジナル・ヴァージョンらしい。
ヘルツォークは、ムルナウ版にかなり近いイメージの扮装をクラウス・キンスキーにさせている。
やはり白塗りメイクのイザベル・アジャーニを含めて、カラー、トーキー版としては少々大げさかという気もした。
モノクロ、サイレントであるオリジナル版へのオマージュかと思ったが、わざわざ日本人のメークアップアーティストを採用したという話もあり、もしかしたら歌舞伎のような様式美を追求する試みなのかもしれない。
冒頭で叫ぶイザベル・アジャーニの表情は特に印象的。
ホラー映画としてはあまり恐くないためかオクラ入りしてしまい、結局映画祭で上映された。
しかし、序盤の荒涼としたトランシルヴァニアの光景とか、ペストに侵された街のシュールで退廃的な様子など、映像的には完成度が高く見所が多い。
ドラキュラはネズミをイメージしてデザインされており、牙も犬歯が発達したものではなく、前歯二本が飛び出したネズミ男風。いかにも闇に潜む呪われた存在らしく描かれている。
個人的には、クリストファー・リーの威風堂堂としたドラキュラが一番好きなのだが。
ストーリーは基本的にラストまで
紹介してあります。
この作品はDVDが発売されているので
鑑賞が可能です。御注意ください。

ノスフェラトゥ