原題 ; ANTONIETA(1982)
 監督 ; カルロス・サウラ
 脚本 ; ジャン=クロード・カリエール
 音楽 ; ホセ・アントニオ・サヴァラ
 出演 ; ハンナ・シグラ、イグナシオ・ロペス・タルソ、エクトル・アルテリオ
自殺したメキシコ人女性の人生を、ルポライターの調査という形式をとって描くドラマ。
Imdbにはバイオグラフィーとしてジャンル分けされているので、アントニエッタは実在の人物らしい。
料理番組を司会していた女性が料理を終え、カメラの前で拳銃自殺する。
そのビデオを見ていたアンナ(ハンナ・シグラ)は自殺に関する本を執筆しようと調査中のルポライター。
アンナは、1931年2月11日に拳銃自殺したリバス・アントニエッタ・メルカード(イザベル・アジャーニ)というメキシコ人女性の存在を知り興味を持つ。
アンナは記録を調べに行くが、保管所は改装中だった。彼女はメキシコへの調査旅行に出る。
アントニエッタの父親は建築家、恋人は画家のロザノ。彼女の家庭は裕福で、自宅は当時の芸術家たちのサロンだった。
アントニエッタの父はディアス大統領の依頼で塔を設計する。
大統領が塔の模型を見に来たとき、銃撃事件が起きた。人民は蜂起(ほうき)し、大統領はパリへと亡命する。
米国から帰国したマデロが政権を握った。しかし、南ではサパタ、北ではオロスコの率いる反乱軍が国軍のウエルタ将軍と戦う。
ウエルタはマデロを暗殺、1913年には彼に対抗して州知事カランサが立ち上がる。
カランサはパンチョ・ビヤ、サパタに支援されウエルタと戦った。
戦乱の中でカランサ、サパタ、オロスコ、パンチョ・ビヤたちが命を落とし、50万人のメキシコ国民も犠牲となった。
アントニエッタは短期間だけ結婚していたが、すぐに別れる。
アンナはアントニエッタ本人を知る作家のバルガスに面会する。
1927年に父が死に遺産を相続すると、アントニエッタは家族を捨てて家を出た。
アントニエッタは勇んで劇団を設立する。彼女はパーティーで画家のマヌエル・ロザノ(ゴンザロ・ヴェガ)と出会い、激しい恋に落ちた。
ロザノの妻カルメンは大砲の発明者モンドラゴン将軍の娘で気性が荒い。
ロザノの子供が死に、アントニエッタはお悔やみを言いに行く。ロザノは、カルメンが子供を水の中に沈めて殺したのだという。
アントニエッタは、一度も抱かれることなくロザノに87通の恋文を出した。
バルガスはアンナに、アントニエッタが死んだのは手品のように世界を完全に変えることができると信じていたからだと語る。
ホテルに戻ったアンナは、アントニエッタがロザノに宛てて書いた恋文の書簡集を読む。
アンナの脳裏に、空のプールに身を投げて死んだというロザノの恋人だった青年の死に様が浮かぶ。そして、その死体にプールの淵から冷たい視線を注ぐカルメンの姿。
メキシコでは血なまぐさい内戦が続き、牧師は教会を捨てて反乱軍を率いた。
戦争は4年続き、国は荒廃する。
礼拝は地下で続けられ、コンチータという男は家に信者を集めた。信者の一人ジョゼ・デ・レオン・トラルは狂信者であり、1928年大統領となったオブレゴンを暗殺、彼自身も銃殺刑に処せられる。
そして文部大臣の経験を持つバスコンセロスが登場した。軍政を嫌いアメリカに亡命していた彼が、大統領選に立候補したのだ。
アントニエッタは芸術家たちを引き連れて、バスコンセロスの選挙運動に協力を申し出る。
権力者カイエスは激しい妨害活動を行い、バスコンセロスの選挙運動中に銃撃されることもあった。
農民が地主を裁きたいというので賛同すると、すでに死刑にした後だったり、銃に弾を込めてテーブルに放り暴発するまで続けるゲームを見せられたり、いろいろな意味で選挙活動は楽ではない。
基本的に学者であるバスコンセロスは悩む。アントニエッタが彼を励ますうちに深い仲になっていく。
アントニエッタは自分に恋人が出来たらどうするかロザノに手紙を書く。二人は2度と会わなかったが、手紙のやり取りは続けられた。
北部出身のバスコンセロスは選挙活動を北部に限定し人気を集めた。
アンナが取材テープを聞いていると一人の老人が声をかけてきた。リセンシアードというその老人はバスコンセロスについて話したいことがあるという。
アントニエッタにとってバスコンセロスの戦いは絶望的なものだった。勝利しても暗殺が待ち構えているのである。
バスコンセロスとアントニエッタに米国大使館から派遣されたロイドが接触する。立候補を取りやめれば、大統領が中断した著作の執筆を依頼し、文部大臣に起用すると持ちかける。
ロイドは2大政党制を提案するが、バスコンセロスは却下した。
リセンシアードは、バスコンセロスを愚かではないがうぬぼれ屋の誇大妄想狂だったと評する。
不正が横行したことも手伝いバスコンセロスは大敗した。
武器を取って戦うことを進言する者もいたが、バスコンセロスは二の足を踏む。
アントニエッタの資産も尽きていた。
アントニエッタはノートルダム寺院で自殺したと伝えられているが、それが事実かは確認できなかった。過去にノートルダム寺院で自殺があったという記録は残っていないという。
アンナはノートルダム寺院で自分の胸に銃を押し付け引き金を引くアントニエッタの姿を見るのだった。
結局、何が言いたかったのか分からない作品。
ヒロインであるアントニエッタについて掘り下げが足りないし、激動期のメキシコ史も駆け足でなぞっただけの印象。
イザベル・アジャーニも、きれいに撮れている場面はあるものの、演技力を発揮する見せ場には欠けている。
ヒロインをめぐる二人の男、ロザノとバスコンセロスの人となりも伝わってこない。
自殺をテーマに取材するルポライターの目を通して描いているにも関わらず、アントニエッタが精神的に追い詰められていく描写が弱く、ラストも説得力が感じられないまま終わってしまう。
アンナを登場させずストレートな伝記映画にした方が、まとまりのある映画になった気がする。

アントニエッタ