死への逃避行

ストーリーは基本的にラストまで
紹介してあります。
この作品はDVDが発売されているので
鑑賞が可能です。御注意ください。

 原題 ; MORTELLE RANDONNEE、DEADLY CIRCUIT、DEADLY RUN(1983)
 監督 ; クロード・ミレール
 脚本 ; ミシェル・オーディアール、ジャック・オーディアール
 音楽 ; カーラ・ブレイ
 出演 ; ミシェル・セロー、ギイ・マルシャン、ステファーヌ・オードラン、マーシャ・メリル
マルク・ベームのサスペンス小説を映像化した異色作。
犯罪者からタカの目と呼ばれる探偵(ミシェル・セロー)は娘マリーの死を知って悲観し、自殺未遂をしていた。彼は長い間娘に会っておらず、元妻から貰った集合写真を見ても、どれが娘か分からない。
タカの目は探偵事務所の女所長から、富豪ユーゴ夫妻の息子ポールが付き合っているフランス人女性の身元調査を依頼された。
さっそくタカの目はポールを尾行。ポールは銀行で大金を引き出し公園へ行く。
公園でタカの目は「また公園で遊ぼうね、マリー」と独り言をはじめてうわの空。声をかけてきた少年と手をつないで散歩をしてしまう。
少年が父親の元に帰ったので、タカの目は仕事を再開。ポールと恋人の学生ルーシー・ブレンタノ(イザベル・アジャーニ)を尾行する。
二人は別荘で一夜を過ごす。
翌朝、タカの目はルーシーが湖にボートを出し、黒いビニールに包まれた死体らしきものを沈めるのを見とがめる。
タカの目が別荘に駆け込むと浴槽が血まみれだった。
さらにルーシーを追うタカの目。彼女は髪型を変えホテルに行く。そこではモデルのイヴ・グランジェと名乗っていた。
タカの目はルーシーをかばい、ポールが一人でモントリオールに旅立ったと所長に嘘の報告する。
タカの目は、ルーシーの父親が立派過ぎたため劣等感を持ったポールが逃げ出したのだと、自分の妄想を所長に語る。彼はルーシーを追ってニースに旅立つ。
またしても髪型を変えたルーシーはドロテア・オルティスという名でミシェルという青年と付き合っていた。
ミシェルは富豪マイヤーガンツ家の息子。エメラルドの装飾品が贈られ二人の婚約式が華々しく行われる。
ルーシーが出て行ったので部屋を調べるとクローゼットにミシェルの死体があった。
タカの目はミシェルの死体を引きずり出して海岸の下水口に捨ててしまう。
次にルーシーはモロッコのマラケシュに飛ぶ。そこではアリアーヌと名乗っている。
タカの目は彼女の隣室を借り、ベランダから覗きこむ。今度の相手はレスビアンのコーラだった。
タカの目はルーシーがプールサイドでコーラの顔と喉をカミソリで切り刻み殺すのを目撃した。
空港に行こうとするルーシーを、彼女に気があるジェリーは送っていくと無理に車に乗せる。
タカの目が精肉配達車を盗んで追うと、途中の路上にジェリーの死体が転がっていた。
次は髪をブロンドに染めてシャルロット・バンサンと名乗り盲目の金持ちを引っかける。彼はスイス人の建築家ラルフ・フォルブス(サミー・フレイ)だった。
ルーシーに娘をダブらせているタカの目は、フォルブスに嫉妬を感じる。
指紋からルーシーの本名がカトリーヌ・レリスと判明した。2年前から消息不明の女性だという。
一方、新聞にはフォルブスと芸術家シャルロット・バンサンとの婚約記事が掲載されていた。
彼女の個展会場にカトリーヌ・レリスの過去を知る男女が現れる。タカの目は二人を脅して追い返した。
カトリーヌは貧乏だった子供時代をフォルブスに告白する。母親は逃げ、父親はホテルのドアマンが勤まらず地下トイレの管理人をさせられていた。
誕生日には隣のおばさんがくれた梨をかじって過ごす。父親はプレゼントのセーターを万引きしようとして捕まり、留置場で死んだ。
カトリーヌは初めて身の上を語る。どうやらフォルブスには特別な感情を抱き始めているらしい。
娘を他の男に渡したくないとタカの目は乱心した。彼は偶然出会ったフォルブスにカトリーヌの父親だと名乗り、娘はやれないと激昂する。
タカの目はフォルブスを車道に誘導してバスにはねさせ殺してしまう。
再びカトリーヌの殺人行脚(あんぎゃ)とタカの目の追跡の日々が始まった。
カトリーヌはヒッチハイクの少女ベティにナイフで襲われ、逆に銃を突きつけたが、なぜか殺す気にならなかった。
ベティはカトリーヌの子分になると言い出す。子供のころ淫売の母は、客にベティが裸で遊ぶところを覗かせて金を取っていたという。
タカの目は個展に来た男女に車を奪われてしまう。二人とも乗って行ってしまうので、どうやってそこまで来たかは謎。
やがて二人組の女の方が男に捨てられたとタカの目の元にやって来た。タカの目は男の居場所を聞き出して部屋に忍び込むが、見つかって銃を突き付けられてしまう。
男はカトリーヌを脅迫していた。
タカの目は、車ごと盗まれた娘の写真を取り返そうとするが、すでに破り捨てられていた。
タカの目は女に男がカトリーヌに惚れ込んだと嘘をつく。
女は男とカトリーヌの取引現場に乗り込んで男を撃ち殺してしまう。すかさずカトリーヌは女を撃ち殺す。
カトリーヌが持ってきたカバンの中身は新聞紙で作ったニセ紙幣だった。
カトリーヌはベティと強盗を働くようになる。
銀行強盗の時にはタカの目が人質の一人だった。このときベティは警官に射殺されてしまう。
タカの目はカトリーヌが非常線を突破する手助けをする。
すでに殺人で手配されていたカトリーヌは強盗事件の共犯であることもばれてしまった。
追いつめられたカトリーヌは混乱し独り言で父親に助けを求める。
さらに逃亡するカトリーヌをタカの目が追う。彼女はホテルに忍び、夜にひっそりと外出するだけの生活を始めた。
カトリーヌは誕生日にキャバレーに行く。彼女は出会った男に誕生日だからと酒をおごらせる。
タカの目は梨を注文して誕生祝いのメッセージとともに出させる。カトリーヌは驚いて帰っていく。
カトリーヌは安食堂のウエイトレスになった。タカの目が泊まったホテルにはカトリーヌの手配写真が回ってきていた。
直接カトリーヌと話をすることにしたタカの目は、彼女が働く食堂で声をかける。
すでに警察が動き始めていた。
カトリーヌはタカの目に本名を名乗り、父親は有名な泥棒で誕生日にはダイヤを持って来たと話すが、すぐに全部嘘だと訂正する。
シャワーを浴びようとしたカトリーヌは、タカの目のカバンに銃と現金が入っているのに気づく。彼女はタカの目を撃って金を奪う。
銃は空砲だった。起き上ったタカの目はカトリーヌの車を追う。
あちこちに検問所が設けられ、カトリーヌは逃げ場を失う。
立体駐車場の上階に逃げ込んだカトリーヌはアクセルを踏み込みビルからダイブする。路面に激突した車は爆発炎上するのだった。
やがて元妻マドレーヌとともに娘マリーの墓参りをするタカの目の姿があった。彼は死期を悟っていた。望みはドアを開けて写真の中に入っていくことだった。
かなりエキセントリックなノワールに仕上がっている。
幼い頃の悲惨な生活がもとで狂気に陥り殺人を繰り返すヒロイン。その女に死んだ娘の面影をダブらせて錯乱していく探偵。
ヒロインの神出鬼没ぶりを含めて、説得力のあるストーリーとは言いがたい。
正統派のサスペンス映画としては、かなり無理がある印象を受ける。特にヒロインの生い立ちと、連続殺人がうまく結び付かず、納得のいく動機になっていない。
にも関わらず主役二人の演技と、フランス製サスペンスらしい独特の雰囲気で描かれるひねった人物描写が相まって、けっこう見ごたえのある作品に仕上がっている。
次々と違う女になっていくイザベル・アジャーニの千変万化ぶりも堪能できる。
ユアン・マクレガーとアシュレイ・ジャッドが共演した「氷の接吻」は、同じ原作のハリウッド版リメイク。主人公の捜査官が若く設定されて死んだ娘と混同していくという展開が使えなかったこともあり、奥行きの感じられない作品になっていた。