原題 ; THE LOVED ONE(1965)
 監督 ; トニー・リチャードソン
 脚本 ; テリー・サザーン、クリストファー・イシャーウッド
 音楽 ; ジョン・アディソン
 出演 ; ロバート・モース、ジョナサン・ウィンターズ、アンジャネット・カマー
イヴリン・ウォー原作、人の死まで商業化するアメリカ資本主義を皮肉ったブラック・ユーモア作品。
英国人の自称詩人デニス・バーロー(ロバート・モース)はハリウッドへとやってきた。
ヒースロー空港で一千万人目の見送り客となり、チケットをプレゼントされたのだ。
デニスは叔父フランシス(ジョン・ギールグッド)のもとに転がり込む。
フランシスは映画会社の美術スタッフとして働く画家だが、最近は仕事が減り、俳優に英国訛りのコーチをしたりして食いつないでいる。
今回フランシスが任されたのは田舎っぺヤンキー俳優を英国紳士のスパイ役に仕立てること。
ところが企画の変更でフランシスはクビになり、プールの飛び込み台で首をつって自殺してしまう。
葬儀の準備のためデニスは庭園型墓地「ささやきの霊園」を訪問する。
過度に演出された墓地を案内してくれたのはエイミー(アンジャネット・カマー)だった。
エイミーは霊園で働くことを自分の使命と感じ、経営者である大牧師ことウィルバー(ジョナサン・ウィンターズ)を崇拝していた。
また、エイミーは、バラモンなる人物による新聞の人生相談の常連でもある。
デニスはエイミーが好きになるが、死体防腐処理係のジョイボーイ(ロッド・スタイガー)も彼女に言い寄っていた。
フランシスの葬儀を終えたデニスは霊園で働くようになり、ペットの葬式を担当する。
一方エイミーは大牧師に女性初の死体防腐処理師になるよう言われて大喜び。
だが、大牧師は収益を上げるため、裏で霊園を養老院に変えようと画策していた。
墓地は土地を使い果たせばそれまでだが、老人は回転良く死んで常に利益を生み出すのだ。問題点は現在埋まっている遺体の始末だった。
エイミーはジョイボーイの自宅に招かれるが、ジョイボーイは極度のマザコンで、しかもその母親はブクブクと肥え太り、ベッドで寝たまま豚の丸焼きにかぶりついていた。
幻滅したエイミーはバラモンのアドバイスもあってデニスと婚約。
デニスはエイミーの家を訪問するが、そこは地崩れ地帯の斜面に立てられた居住禁止の家だった。今にも地すべりを起こしそうだが、彼女は死に魅入られている部分があり平気で暮らしている。
その後、デニスは天才少年ガンサーと知り合い、小型ロケットに鳥の死骸を乗せて打ち上げる葬儀を企画する。
大牧師は、これにヒントを得て宇宙葬と称し墓地に眠る遺体をロケットに乗せて打ち上げ、土地を空けることを思いつく。
エイミーはデニスが有名な詩を盗用するエセ詩人と知ってショックを受ける。
宇宙葬第一号に決まったのは空軍パイロットの英雄コンドルだった。
デニスは許可を得るためコンドル未亡人を訪問するが、彼女はストリッパーで気に入られたデニスは人身御供として夜の相手をさせられるハメになる。
エイミーと喧嘩したデニスは、大牧師が霊園を廃止しようとしていることをバラしてしまう。
混乱したエイミーはバラモンに直接相談しようとするが、酒場で見つけた本人はただのハゲ親父、バカにされ相手にしてもらえず追い返されてしまう。
ついにエイミーは大牧師に霊園は廃止するが雇用は確保するから心配するなと告げられ、大牧師が理想など無いただの資本家に過ぎないことに気づく。
絶望したエイミーは、自分の体に防腐剤を注入し自殺してしまう。
死体を見つけて処理に困るジョイボーイ。デニスは彼にコンドルの遺体と入れ替えてエイミーを宇宙葬にして、コンドルはその名の通りペット墓地で火葬にするよう命じる。
星の世界はエイミーにこそふさわしいのだ。
宇宙葬当日、イギリスに帰国するデニスは空港で宇宙葬の中継を眺めていた。
映画界の内幕話や霊園の案内が描かれる前半は冗漫だが、後半登場人物が揃って本筋のドラマに入るとなかなか面白くなる。
ただし主人公の英国青年も魅力的に描かれているわけではないので、英国監督によるアメリカ批判という意味では少々インパクトが弱くなっている。
ジェームズ・コバーンは冒頭、空港の入国管理官役でカメオ出演。ワンシーンのみの出演だが、主人公にアメリカの悪印象を植えつける最初の人物という重要な役柄ではある。コバーンが差別主義者の小役人というタイプではないので、憎々しさには欠けてしまった気もする。

ラブド・ワン