原題 ; AFFLICTION(1997) |
監督 ; ポール・シュレイダー |
脚本 ; ポール・シュレイダー |
音楽 ; マイケル・ブルック |
出演 ; ニック・ノルティ、ウィレム・デフォー、シシー・スペイセク、メアリー・ベス・ハート |
ジェームズ・コバーンにアカデミー賞助演男優賞をもたらした作品。 「タクシードライバー」の脚本で知られるポール・シュレイダーが監督・脚本を担当。狂気に陥っていく主人公という、彼が得意とするテーマを描いている。 ウェイド・ホワイトハウス(ニック・ノルティ)は田舎町の保安官。ハロウィーンの夜、彼は娘のジルを連れて地元の名士ラリヴィエールが主催する仮装パーティーへ行く。妻リリアン(メアリー・ベス・ハート)と離婚してから娘ともしっくりいってなかった。 ジルは会場から無断で母リリアンに電話して迎えにこさせ、出て行ってしまう。 翌日は鹿狩りの解禁日。案内人のジャック・ヒューイットは、マサチューセッツの組合会長エヴァン・トワンブレーと狩りに出た。 一方、娘に去られたウェイドは放心状態で交通整理もまともに出来ない。 ウェイドの父グレン(ジェームズ・コバーン)は酒乱で、まだ幼い頃のウェイドに暴力を振って負傷させたことがあった。 狩りの最中、トワンブレーは銃の暴発事故で死んでしまう。大物の死に警察署長はピリピリする。 ウェイドは、電話で弟のロルフ(ウィレム・デフォー)からトワンブレーが裁判で証言する予定だったと聞く。彼はジャックがトワンブレーを殺したという推理に取りつかれ始める。マフィアがらみの謀殺だというのだ。 ウェイドは、簡易食堂で働く恋人のマージ(シシー・スペイセク)を紹介するため二人で父の家を訪ねる。すっかり年老いた父はボイラーも焚かず酒びたり、母親はベッドで死んでいた。 母親の葬儀となり、ロルフや妹夫妻がやってくる。グレンは酔っ払い、参列者に絡み始める。 ロルフは、次期会長候補の娘婿メル・ゴードンがジャックに依頼してトワンブレーを殺させたのではないかという推理をウェイドに話す。 ウェイドは完全にジャックを疑い出し、脅しをかけたり監視したりし始める。彼はジルの親権をめぐる訴えを起こすが、結婚していないこともあり状況は不利だった。 トワンブレー殺害事件についてウェイドが町長に相談すると、ゴードンとラリヴィエールが町の土地を次々と買収している事実を教えられる。 ラリヴィエールとジャックに噛みついたウェイドは保安官をクビになる。歯痛が激しくなった彼は妄想をつのらせ、自分が真実をあばいて町の英雄になると喚きたてる。 自らペンチで虫歯を抜くウェイド。面会日で久しぶりにジルと会うが、娘は一緒にいることを嫌がる。ブチ切れて食堂のバーテンに暴力を振るいかける父親の姿を見たジルはに泣き出してしまう。 父の家に帰ると、ウェイドに愛想をつかしたマージが出て行こうとしていた。ジルも一緒に帰ってしまう。 「お前はわしと同じ人間なんだ」酔った父グレンは酒瓶でウェイドを小突く。ウェイドは猟銃の台尻で父を殴りつけ死なせてしまう。 彼は父の死体を作業台に横たえオイルをかけ火を放つ。炎は納屋ごと燃え上がっていく。 その後ウェイドはジャックを射殺して姿をくらます。だが、ジャックは犯人ではなく、暗殺説は空想に過ぎなかった。ゴードンとラリヴィエールは、町を買収してスキーリゾート地に変貌させた。ロルフは父の家をラリヴィエールに売らず、税金を払い続けている。という後日談がウィレム・デフォーのモノローグで流れる。 劇場で最初に観たときはサスペンス物としての期待もあったので後半が物足りなく感じた。 あらめて見直すと、家庭内暴力の系譜と、それに対する恐れが良く描かれていて、なかなか見ごたえがあった。(それでも事故だったとナレーションひとつで締めてしまい、事故と断定するにいたった過程が示されないのはイマイチと思うが) ただ、ポール・シェレイダーの演出はマーティン・スコセッシほど切れ味がないし、田舎町が舞台で光景が穏やかなことも手伝い、「タクシー・ドライバー」の鮮烈さには及ばなかった。 タフガイ・タイプの役が多いニック・ノルティが主人公を演じ、狂気をはらんだキャラクターを得意とするウィレム・デフォーが、兄と同様な恐れを抱きながらも冷静な生き方をする弟を演じる配役は、ひねりが効いていて面白い。 ジェームズ・コバーンは、ブルース・リー、サム・ペキンパーという共に映画作りを夢見た師に先立たれ、「客演に甘んじ生き残った者の悲哀を演じ続けている」などと評されていたが、ここにきてようやく報いられた。役柄自体は、現実を受け容れずに破滅していく男というシリアス・ドラマで得意としたキャラクターのヴァリエーションなので、「はるかなる南部」がもう少し高く評価されていれば、驚くこともなかった気がする。 |