年度 ; (1976)
 監督 ; 深作欣二
 脚本 ; 神波史男、田中陽造、深作欣二
 音楽 ; 津島利章
 出演 ; 渡瀬恒彦、杉本美樹、室田日出男、小林稔侍、川谷拓三、渡辺やよい
「仁義なき戦い」でいきなり東映の看板監督になってしまったプレッシャーからか、大量生産された実録路線に限界を感じたのか、事情はよく知らないが、深作欣二監督は1975年スランプに陥ったらしい。
その時期に「新仁義なき戦い/組長の首」をはさんで、深作監督は比較的低予算のプログラム・ピクチャーを2本作った。それが本作と「資金源強奪」(この作品は監督ふかさくきんじ、とクレジットされていることで有名)。
この2作は、邦画の犯罪アクションとしては屈指の出来ばえとなった。
特に本作は予算的にも期間的にも厳しい条件だったようで、シナリオにあって映像化できなかった部分も多かったらしいが、深作監督は悪条件を跳ね返すかのように、熱気に満ちてビート感あるフィルム・ノアールの最高峰ともいえる作品を完成させた。
「仁義なき戦い」など深作監督と組むことが多かった津島利章のスコアも冴え渡っている。
二人組の銀行強盗・山中高志(渡瀬恒彦)と関光男(小林稔侍)。
彼らは拳銃を持って押し入り、警察が駆けつけるまでの短時間に詰め込めるだけの金を奪って逃走するのが手口だった。
二人は神戸での仕事を最後にブラジルに高飛びする予定だ。
山中には、くされ縁の女、緑川ミチ(杉本美樹)がいた。
山中がバーテンをしている店で、ミチと初老の男(三谷昇)の痴話げんかを仲裁したのが出会いだった。
その後、ミチは全裸に毛皮のコートだけまとって山中の元を訪れる。
毛皮はミチが盗んだもので、山中はミチのために20万円を弁償した。
それ以来、煮豆が唯一の得意料理というミチとの腐れ縁が続いていたが、山中はミチを残して高飛びするつもりだった。
神戸の銀行襲撃で逃走中、関はトラックに轢かれて死んでしまう。
警察の捜査が始まり、落ちこぼれの警官・畠野(川谷拓三)も出動した。
一方、自動車修理工・手塚は車フェチで、修理して納品した赤いスポーツカーを駐車場に忍び込んで傷つけ快感を得ていた。
山中はミチに手切れ金を渡す。
関の兄(室田日出男)が乗り込んでくる。事件を知って金を横取りしようというのだ。
山中は関をビール瓶で殴り小型トラックを奪って逃走。最後に豆を炊こうとやって来たミチも乗り込む。
この一件で身元がわれ指名手配されてしまう。
畠野は山中を目撃しながら役に立たず叱責された。彼は、恋人の婦警・愛子(渡辺やよい)を後輩に寝取られたこともあり、キレかかっていた。
警察が山中の実家を張り込もうとするが、一家はすでに離散.。山中は大阪の飯場で家族にあっていた。
そこに刑事がやってくるが、ミチがおでんをぶっかけ、ひるんだ隙に逃走する。
偶然、初老の男と知り合った関は、ミチの居場所に案内させるが、連れて行かれたのは一軒のブティック。
男が逢っているミチとは、店内に飾られたヌード写真のパネルだった。激怒した関は男を殺してしまう。
手塚は、スポーツカーのオーナーに脅迫されていた。オーナーはサディストの同性愛者で、手塚の性癖を知り罠にはめたのだった。
モーテルで手塚の背中に傷をつけ快楽にひたるオーナーを、手塚はとっさに殺してしまい、スポーツカーを奪って当てなく逃走する。
ミチは山中のパスポートを見つけ、山中が自分を置いて高飛びするつもりなのを知り、パスポートを持って飛び出してしまう。
山中は勤めていた酒場に電話をして、酔いつぶれているミチを見つけた。
店を張っていて、その電話を聞きつけた関は空港へと向かう。
山中が酒場に着くと、ミチはおらず、マスターにパスポートが預けられていた。
山中は、安ホテルへと入っていくミチを見つけるが、結局声をかけずに去っていく。
翌朝、山中は空港からホテルに電話をかけるが、ミチの部屋は応答しないという。
そこに関が襲ってきた。取っ組み合いとなり、警官が駆けつけてくる。
二人は逃げ出すが、金の入ったバッグは警察の手に渡ってしまう。
山中がホテルに行くと、ミチが睡眠薬を飲んでバスルームに倒れていた。あわてて胃の中のものを吐き出させ、介抱する。
ミチが意識を取り戻すと、そこにはパスポートを焼く山中の姿があった。
山中は、せめてもの罪滅ぼしに金を作ってやると言う。
ミチは断るが、山中は一人で銀行強盗を決行。彼の車を尾行していた関と警戒中だった畠野が追跡を開始。
畠野が運転するパトカーが追跡中接触事故を起こしたことから、一般市民が畠野を追い始める。
山中は、金の入ったバッグをミチに投げて逃げるよう怒鳴るが、ミチは道路に身を投げて追跡を妨害しようとする。
山中は戻ってミチを乗せ、再び逃走を開始。
スポーツカーにぶつけられ、怒って飛び出した手塚は畠野にはねられてしまう。
さらにMHK放送局が取材中の暴走族もはねられ、暴走族、放送中継車も追跡に加わる。
車の群れは海辺の空き地へとなだれ込んだ。
暴徒と化した群集は駆けつけたパトカーをひっくり返してしまう。
山中とミチの車も横転、二人は車を捨てて逃げ出す。
二人に向かって突っ込む関と畠野。
間一髪、二人は土手の下へと逃れ、二台の車は頭上を越えて海へと突っ込んでいった。
海面でもがく二人を尻目に、山中とミチは停泊していたモーターボートを奪い逃げ去っていく。
ラストシーン、リオの風景にテロップがかぶさる。
その後、二人の姿を見たものはいない。しかし数ヵ月後、ブラジル連邦共和国リオ・デ−ジャネイロのアメリカ銀行に日本人と思われる男女二人組の銀行ギャングが現われ現金50万ドルを奪って逃走したという。
アウトローとしての絆を深めていく主人公たち。
次第に本来の目的を忘れ、怒りに突き動かされていく関と畠野。
この対比が見事に描かれ、爽快なラストへと昇華していく。
余談=個人的に「いつかギラギラする日」は本作の高予算リメイクと考えている。あの作品も好きだが、はるかに悪条件で作られた本作のパワーにはかなわないと思う。

暴走パニック大激突