原題 ; DEL TIGER VON ISCHNAPUR(1958)
 監督 ; フリッツ・ラング
 脚本 ; ウェルナー・イェリク・リュデッケ
 音楽 ; ミシェル・ミシェレ
 出演 ; パウル・フーブシュミット、デブラ・パジェット、ワルター・レヤー、クラウス・ホルム
ドイツ出身でナチから逃れてハリウッドに活動の拠点を移していた名匠フリッツ・ラングが、晩年西ドイツ、フランス、イタリアの合作で撮った冒険ロマン。2部作として作られ、第2部「情炎の砂漠」と併せて一つの物語を成している。
舞台は統一以前のインド。建築家ハラルド・ベルガー(パウル・ハーブシュミット)は、学校や病院を建設するためエシュナプールの王に招かれた。
彼は兵隊にからかわれていた水汲み女を助ける。その夜、美女シータ(デブラ・パジェット)が現われ侍女が助けられた礼を述べていった。彼女は女神に仕える踊り子だった。
町には人食い虎が出没し、子供が犠牲になることもある。
ハラルドは、虎が危険なのでエシュナプールまで自分たちと同行するようシータに勧めた。
シータの乗った牛車が虎に襲われ、ハラルドが火の付いた枝で追い払う。
シータは2頭の虎が自分を争う夢を見たという。1頭はハラルドの顔をしており、もう1頭はインド人だったと。
エシュナプール王チャンドラ(ワルター・レヤー)は妃を亡くし、ベナレスの寺院で見た踊り子のシータが忘れられず呼び寄せたのだった。
だが、側近や僧侶は外国人を招くことに反対している。
ハラルドはチャンドラ王の歓待を受ける。早速彼は広間に建築物の模型を組み立てた。ハラルドはシータを訪問し、懐かしいアイルランド民謡をともに歌う。
シータは父親の記憶をなくしていた。両親が病死して寺院で育てられたのだという。彼女は父の形見だというヨ−ロッパ製のギターを持っていた。どうやらシータの父は西洋人であるらしい。
チャンドラは、虎を追い払ってシータを助けた礼として高価な宝石を渡し、彼を友人だと言う。
地下道を測量していたハラルドは、白骨の転がる洞窟を見つける。その洞窟には通風孔が設けられていた。
通路は寺院に繋がっているらしいが、寺院に外国人が入ることは許されていなかった。
寺院ではシータが踊りを披露していた。
ハラルドは通路を探るうち寺院の上層部へと出てしまう。彼に気づいたのはシータだけだったが、赤く照らされていた女神像が青く変わり凶事を予感させる。
この場面の演出は「メトロポリス」や「ジークフリード」で見られた、一つの場面の照明が切り替わると禍々しいものが浮かび上がってくる、という手法に通じるものがある。フリッツ・ラングらしさを感じさせる印象的な場面だった。
さらにハロルドは大勢のライ病患者が閉じ込められた一画を見つけた。案内人のアザガーラによれば、だからこそ病院が必要なのだった。
シータは、王から滞在を延ばすよう命じられる。ハラルドは、彼女がすでに出立したと伝えられた。
王宮で籠の鳥となったシータに言い寄るチャンドラ。だが、彼女の表情は晴れなかった。
王の兄ラミガニは、王が外国女にうつつを抜かしているとして国の存亡の危機と周囲を煽る。
チャンドラ王の虎刈りが始まった。シータを襲った虎に償いをさせるというのだ。
シータはテントの中から誘拐されてしまう。亡き妃の兄パドゥの仕業だった。兵隊の慰み物にしてから送り返すと言う。
巨漢の兵士がシータをテントに連れ込む。そのときチャンドラ王と兵たちが駆けつけ彼女を危機から救った。
気落ちしたシータを見かねた侍女がハラルドのもとを訪れ、シータの居所へと案内した。再会を喜ぶ二人。だが、シータは危険が及ぶので会わないほうが良いと告げる。
密会を見つけた僧侶は、早速王に報告した。
王を踊り子と結婚させて国民の不信感を募らせようと企んでいたラミガニは、ハラルドとシータの仲が証言されると計画が狂ってしまう。
アザガーラから報せを受けたハラルドの義兄ワルター(クラウス・ホルム)と姉イレーネ(ザビーネ・ベートマン)の夫婦は、予定を変更してエシュナプールへ向かうことにする。
ハラルドとシータを招いた王の宴会が開かれた。王は宴会の後、シータの侍女を尋問して事実を聞き出す心づもりだった。
宴の席でラミガニは、侍女バラーニを奇術師の実験台にして殺させる。その後、奇術師も始末してしまう。
身の危険を感じたハラルドは、シータとともに王城を脱出しようとする。
これに感づいたチャンドラ王は、ハラルドを地下へと誘い込む。抜けた先は虎の檻だった。
王は、最後のチャンスとしてハラルドに虎と戦うことを命じ、槍を投げ込む。
ハラルドは、飛び掛ってきた虎を刺し殺すことに成功した。王は約束を守ってハラルドに国外追放を言い渡す。
シータは寺院に祈りに行くき、地下道をくぐってきたハラルドと落ち合って国外に脱出した。
それを知ったチャンドラ王は、狩りの達人を集めてシータを連れ戻し、ハラルドを始末するよう命じる。
一方、義兄夫妻がエシュナプールに到着した。イレーネは、殺生が嫌いなハラルドが虎狩りに出ているという説明に疑惑を抱く。
ハラルドとシータは灼けつく砂漠を馬で進む。シータの馬が足を痛めてしまった。ハラルドは自分の馬にシータを乗せて引いていく。その馬も力尽き倒れてしまい、殺さねばならなかった。
国王はワルターに、学校や病院の建設を延期して、豪華な墓所の設計を依頼する。自分の愛を踏みにじり、友と信じた男と逃げた女の墓にするのだという。復讐の片棒を担ぐのはごめんだというワルターを、チャンドラは金はいくらでも払うと説得する。
砂漠をさまよう二人。ついにシータが倒れてしまった。ハラルドも傍らに身を横たえシータの手を握り締める。二人の姿を砂が覆っていくのだった。

大いなる神秘/王城の掟