年度 ; (2006) |
演出 ; 小田切正明 |
脚本 ; 清水曙美 |
音楽 ; 佐古伸一(選曲) |
出演 ; 前田亜季、加藤夏希、渡辺いっけい、宮崎美子、賀集利樹、池上季実子 |
高樹のぶ子による芥川賞受賞の同名作を東海テレビがドラマ化した作品。 大学受験を3ヶ月後に控えた相馬涼子(前田亜季)は英語教師、三島(賀集利樹)に憧れていた。 誕生日のプレゼントを用意してあったのだが、授業が終わったときに他の生徒たちが殺到して渡しそびれてしまう。 放課後、忘れ物があると言って校内に戻った涼子は、三島が同級生の松尾勝美(加藤夏希)を怒鳴りつけているのを聞きつける。 松尾のクールな態度に激昂した三島は、彼女を突き飛ばし口汚くののしる。松尾は2年留年して二十歳になっていた。 涼子は下校する松尾に声を掛け、そっけない態度をとる松尾の後を付いていく。 海辺についた二人。涼子は学校で見たことを話し、教師とはいえ横暴な態度は許せないと言う。 松尾は「あんた字うまい?」と言うと1通の手紙を取り出す。 それは松尾の母親が、たどたどしい字で三島宛に書いた、娘の欠席を詫びる手紙だった。 文面も字もヘタすぎて、三島は自分の手紙を親に見せないで松尾自身が返事を書いたと思い込んだのだ。 松尾はタバコを吸いながら涼子に代筆を頼む。 涼子は憤り、自分が三島に談判して真実を納得させると言う。 すると松尾は真顔になり、三島にも母親にも今日の事実を話したら絶対に許さないと涼子に詰め寄る。 人間には辛抱できるつらさと、出来ないつらさがあるのだと松尾は言う。 松尾が去った後、涼子は三島へのプレゼントとバースデイ・カードを海に捨てた。 その夜、涼子は松尾の母親の代筆で見事な文章を仕上げ、朝のうちに松尾の机に入れておく。 松尾は午後まで登校してこなかった。彼女は黒人兵と付き合っており、中絶経験があるなどと生徒の間で陰口をたたかれている。 ようやく登校した松尾は涼子が書いた手紙を見つける。文面も字も達者なので三島は納得した。松尾は、こんな立派な手紙は初めて見た、と涼子に礼を言う。 涼子の母、和江(宮崎美子)は大学教授の夫、卓冶(渡辺いっけい)が次期学長候補だと浮足立っており、涼子にも父の大学を受けるなら上位の成績でないと恥ずかしい、とプレッシャーをかける。 学校で涼子が友人たちと話していると、松尾が突然、昨日カツアゲしたと言って時計を涼子にプレゼントする。 友人たちが驚いて見守る中、涼子は戸惑いながらも時計をはめてみせる。 下校時、涼子は松尾に誘われた。松尾は母親とケンカして噛みつかれた話をする。 カツアゲは嘘で、時計は松尾が質屋で安く買ったものだった。松尾は浜辺で店の足しになるとアサリを拾う。 涼子が案内された松尾の自宅は場末の一杯飲み屋だった。 松尾は2階の狭い部屋で暮らしている。部屋には雑誌を切り抜いた天文写真が貼られている。 こういう写真を見ると人間の無力さを感じると松尾は言う。 涼子は父親が大学で顕微鏡ばかり覗いている話をする。 星の写真は松尾に希望を与えてくれるものだった。 隣の部屋には松尾の母親、千枝(池上季実子)が二日酔いでいた。酒を求める千枝とケンカになり松尾は涼子を残して出ていってしまう。 千枝は錯乱した様子で、男が隠れているのではないかと押入れを探したりする。 戻って来た松尾がヤカンの水を千枝にかける。二人は取っ組み合いのケンカを始め、涼子は飛び出していく。 追ってきた松尾は家を出ようかと言い出す。前にも男友達の所に転がり込んだことが何度もあるのだ。 松尾は黒人兵のマーチンという恋人が出来てから他の男友達とは縁を切っていた。 マーチンとも言葉の壁は厚く、アリゾナに帰ってからは手紙も来ないという。 マーチンは星マニアで、いつかアリゾナの砂漠で彼と星を見るのが松尾の夢だったと話す。 あのアホがほっとけない、と松尾は母親の元に帰って行った。 和江は新しい友達ができたことを気にしていた。そんな母親の態度に涼子は反発する。 涼子は駅で久しぶりに松尾と会う。松尾は和江が入院して学校を休んでいた。 その間、松尾は一人で店を切り盛りしていた。 涼子は松尾の陰口を言う同級生たちをたしなめる。 涼子はスーパーで買い物する松尾親子を見かけた。千枝が店員ともめ、後始末を松尾がする。二人はタバコをくわえ仲良さそうに帰っていく。 そんな二人の姿を涼子は微笑ましく見送るのだった。 和江は様子の変わった涼子を心配するが、卓治は母親まかせ。甘い父親に涼子は頼みごとをする。 千枝の店を訪れる涼子。松尾はいなかった。少し話して涼子を思い出した千枝は、学校の友だちが来るのは初めてだと喜ぶ。 松尾は14の時から男と寝ていると言う。一度男の味を覚えたら母親などどうでも良くなる、と千枝は愚痴を言う。 娘に見捨てられるほど辛いものはない。マーチンに夢中になったときには自分も捨てられそうになったのだと。 涼子は近いうち遊びに来てほしいと言付けする。 父親に涼子が頼んだのは大学から望遠鏡を借りてくることだった。 松尾がやって来て鍋を囲むが、その態度はどこかぎこちない。 話題がDNAになり、親のDNAをそのまま受け継ぐと卓治が言うと、松尾は親と同じになるとは限らないと言い返す。 タバコを吸い始める松尾に動揺する両親。結局、松尾は望遠鏡にもさほど興味を示さなかった。 帰り際、松尾は母親はとても良い女だから実家の店にも来てほしいと卓治に声をかけ、どぎまぎさせる。 涼子は家を出た松尾を追いかけ、喜んでくれなくてがっかりしたとストレートに伝える。 松尾に出会って涼子は、自分が18年持ってきた価値観を、きちんと片付いていた心をひっくり返された気分だった。そしてようやく整理が付いてきたところだった。 涼子にとって、並はずれたことをしていても精いっぱい何かをしている松尾は魅力的だが、投げ出してしまうと見苦しい不良にしか思えなかった。今夜の松尾がそう見えたと言う。 だから何、開き直る松尾に涼子は去っていく。 ああいう友達も大事にしろ、とい両親の言葉が涼子は真に受けられない。 涼子は両親の反対を押し切って東京の大学も受けると宣言する。 涼子は港で千枝と常連客たちが酒盛りしているところに出くわす。千枝は涼子に気づいて男たちに紹介する。 勧められるままに湯のみで酒を飲む涼子。父親の職業を聞かれてサラリーマンだと嘘をつく。 涼子がしばらく学校を休んでいる松尾の近況を聞こうとすると、千枝は、お前は学校のスパイかと騒ぎだす。 千枝は、娘が自分を殴ると愚痴を言い始める。突然記憶の戻った千枝は親子喧嘩をしているとき黙って見ていたと食ってかかり、男たちに止められた。 千枝の悪口に耐えられなくなった涼子は、思わず三島への手紙のことを話しそうになってしまう。約束を思い出し口ごもる涼子。 千枝に説明を迫られ困り果てた涼子は、勝美さんに聞いてくださいと逃げる。 そこに自転車を引いた松尾が現れた。三島への手紙とはなんだと千枝に聞かれた松尾は血相を変えて涼子に食ってかかる。 母ちゃん帰ろう、松尾は千枝を抱えるように歩き始めた。 千枝を待たせて戻って来た松尾は涼子に「さよなら」とだけ告げる。 千枝を自転車の荷台に乗せて押していく松尾の後ろ姿に、涙を流しながら涼子も「さよなら」とつぶやくのだった。 細かい設定や展開に変更はあるものの、大筋では原作に忠実なドラマ化がされている。 原作ではセリフ以外でヒロインの心情が描かれる部分が多いので、モノローグを使わずに原作の内容を伝えた出来ばえに感心した。 二人の女子高生の短い友情の物語であるが、むしろヒロイン涼子の成長を描いた作品という印象を受けた。 当初の教師三島に対する感情も恋心というよりは、身近な大人への憧れのようなものであったかもしれない。 だが、涼子は三島の意外に幼稚な面をみてしまい、彼をクールにあしらった松尾のほうに興味を移していく。 生活も性格も全く異なる二人の人生が一時(いっとき)交わる。それは永く続く友情とは異なるものであったのではないだろうか。 松尾が時折わざと不良っぽい態度をとるのは、やがて来る別れをどこかで察知していて涼子と距離を置こうとしていたのかもしれない。 ラストシーンはリリカルで切なくも清々しい幕切れになっている。 前田亜季が良家の優等生で、加藤夏希が不良少女というのはタイプ通りのキャスティングではあるが、二人とも丁寧な演技で深みのある人物像を作り出している。 汚れ役の池上季実子も好演だった。 |
光抱く友よ