年度 ; (1980)
 監督 ; 神代辰巳
 脚本 ; 田中陽造、伊藤秀裕
 音楽 ; スペースサーカス
 出演 ; いしだあゆみ、山本圭、酒井和歌子、浅野温子、中尾彬、石橋蓮司
神代辰巳がテレビ朝日の土曜ワイド劇場のために撮ったサスペンス・ドラマ。
原作はシャーロット・アームストロング。
夫の鳴海一彦(山本圭)とともにドライブ旅行に出た洋子(いしだあゆみ)は疲労のため熱を出してしまう。彼女は妊娠していたのだ。
洋子がホテルのベッドで休んでいるところに、一人の男(石橋蓮司)が入ってくる。
酔っ払っている男は洋子に襲い掛かった。叫び声をあげる洋子。
聞きつけた一彦が部屋に飛び込み男を殴り倒す。
男は向かいの部屋に泊まっている元ボクサーの黒川だった。正気を取り戻した黒川は謝罪し、名刺を渡して去っていった。
旅行を終えた二人は、黒川が急死したという新聞記事を見て愕然とする。
一彦には自分が殴ったことが死因と思えたのだ。
事件を担当する辰巳刑事(中尾彬)は、事件になるかならないかは、遺族の出方次第だという。
黒川の未亡人亜紀(酒井和歌子)は夫が最近酒びたりだったこともあり、あまり責任を感じないでほしいと言う。
黒川の葬儀に出席した一彦は、亜紀が交通事故で車椅子の身となっている妹由紀(浅野温子)の治療もあって東京に出ようと考えていることを伝えられる。
一彦はアパートが見つかるまで、亜紀と由紀を同居させることにした。洋子は反対するが、結局一彦に説得される。
一彦と亜紀がアパートを見に外出すると、由紀はパンクロックをガンガンかけ始める。
洋子が近所迷惑になるからとヴォリュームを絞っても、由紀はすぐ大きくしてしまう。
洋子の友人が、自分のマンションに一彦が女連れで来たと電話してくる。事情を知らないので、浮気現場を押さえたと野次馬根性で興奮気味。
音楽がうるさくて話せない洋子はステレオのコンセントを抜いた。由紀は暴れ出し電話の乗ったデスクをひっくり返してしまう。
洋子が留守にすると由紀は階段を手でよじ登り夫婦の寝室に入り込んだり、洋子が可愛がっているウサギのミミをいじめたりする。
車に乗った一彦と亜紀を見たような気がした洋子は、彼の会社に電話する。
一彦は会社にいたが、亜紀も一緒だった。一彦は亜紀を食事に誘う。
亜紀はアパートを決めた。一彦は彼女に自分の事務所で働くようにすすめる。
ウサギのミミが亜紀の指を噛んでしまう。由紀は狂ったようにミミを追いかける。
洋子はアパートの契約を引き延ばすため、わざとウサギに噛まれて寝込んだのではないかと疑い、一彦と口論になる。
一彦が出張に出た夜、洋子は由紀が亜紀に姉の再婚相手には一彦が理想的だと話しているのを聞いてしまう。
洋子はミミが殺されて浴室に吊る下げられているのを見つける。だが、亜紀が見に行くとミミの姿はなくなっていた。
由紀は、姉が自分のために犠牲になって幸せになれなかったので、その償いをしなければならないという妄執に取り付かれていた。
洋子は一彦に二人を出て行かせるように言う。ミミも別のウサギにすりかえられていると訴えるが一彦は洋子のヒステリーだと相手にしない。
産婦人科に行った洋子は、夫が亜紀と不倫する妄想に悩まされる。
買い物帰りの洋子を、背後から車椅子の由紀が襲いかかる。気づいた洋子は必死に車椅子を止めた。
由紀はブレーキの故障だという。洋子は由紀が声を上げなかったことに疑問を抱く。後ろからぶつかられていたら自分が危なかった。
洋子は、自分が由紀の車椅子に轢かれたり。黒川が由紀の車椅子にぶつかられて転倒し後頭部を強打する悪夢に襲われた。
洋子は辰巳刑事の元に行き再調査を依頼するが、彼はすでに解決済みのファイルに入っていると取り合わない。
洋子の様子を心配した辰巳は、彼女の訪問を一彦に連絡する。亜紀と由紀は、洋子が自分たちに疑惑を持っていることを知った。
洋子は黒川が所属していたボクシング・ジムを訪問する。ジムのオーナー(河原崎長一郎)は亜紀が男をダメにする女郎蜘蛛だと話す。
亜紀は黒川が引退して落ちぶれると離婚を切り出し、それから黒川は酒びたりになったのだった。
オーナーはホテルの事件のあと、黒川が死ぬ直前に会っていた。その時、黒川は医者が死ぬのを見て気持ちが悪くなったと言っていたという。
黒川宛てに病院の請求書が届いたので、オーナーは鳴海家に転送していた。
戻った洋子は郵便を待つが、一瞬早く由紀に取られてしまう。姉妹の外出中に洋子が部屋を探していると、亜紀が戻ってきた。
掃除していたとごまかす洋子。新聞をかたずけていた彼女は、黒川の死が報道された日の新聞に、大沢という医者の死亡記事が載っているのを見つけた。
亜紀が紅茶に睡眠薬を入れ、洋子はいびきをかいて寝込んでしまう。ブタみたいだとつぶやく一彦。
その隙に亜紀は一彦の同情を買おうとする。つられて亜紀とキスする一彦。洋子の呼ぶ声に一彦は我に返った。
亜紀は、洋子が狂言自殺しようとして自分で睡眠薬を飲んだのではないかと一彦の不信感をあおる。
翌日、洋子は大沢医院を訊ね、未亡人(絵沢萌子)の話を聞く。黒川は帰宅する前に診察を受けに立ち寄り、大沢医師はその場で脳卒中を起こしたのだった。
その時点で黒川が怪我をしていなければ、彼はそれ以降に頭を打ったことになる。だが、一足早く女が来て黒川の記録を持ち去っていた。
洋子は大沢未亡人を連れて警察に行く。推理は成り立つが証拠が足りなかった。
洋子はカルテやレントゲン写真が処分される前に取り返そうと、自宅に急ぐ。
家の前に着くと植木鉢が落ちてきた。洋子はベランダに行くが誰もいない。亜紀の部屋も空だった。
居間に行くと亜紀と由紀が素知らぬ顔でアイロンをかけていた。
洋子は調べ上げた内容と自分の推理を亜紀にぶつける。由紀は車椅子で洋子に体当たりしようとし、洋子はそれを椅子で防ぎながら話す。
興奮した由紀は自分が黒川を殺したと口走る。由紀は病院の書類を洋子に渡し、隙をついて洋子の目にコショウをふりかける。
目が見えなくなった洋子を由紀が追いかける。洋子は警察に電話しようとするが、由紀がコードを抜いてしまう。
車椅子で襲う由紀。洋子は大声で亜紀に助けを求めるが、亜紀は大音量でロックをかけ、冷ややかに事態を見守る。
キッチンに追いつめられた洋子。亜紀は書類をフライパンの上で燃やす。
燃え上がるフライパンを持って迫る亜紀。洋子は大沢医師の未亡人が証言したので警察がもうすぐ来ると話す。
怖気づく亜紀。由紀は自分がやるとフライパンを取り上げた。
身の保身を考えた亜紀は、妹が発狂して人を殺そうとしていると警察に通報する。それを聞いて途方にくれる由紀。
そこに一彦が帰宅してきた。とっさに亜紀は、すべての罪を由紀にかぶせようとする。
亜紀はフライパンの火を由紀にあびせた。火だるまになった亜紀は、車椅子ごと屋外に飛び出し坂を転げ落ちていく。
辰巳刑事にも亜紀は全て妹のしたことだと弁解するが、刑事は背後で亜紀が操っていたことを見抜いていた。
亜紀は警察に連行されていく。ようやく鳴海家に平和が訪れたのだった。
資料がなく一部の登場人物は漢字での名前が分からなかった。ひらがなでは読みにくいので適当な文字を当てはめた。
テレビの2時間サスペンスということで、神代辰巳監督作品の中では最もストーリー性の強いものに仕上がっている。
監督の個性が出にくいテレビデラマだが、この作品は比較的作家性が感じられる出来ばえ。2時間サスペンスの中ではベストの作品だと思う。
それまで清純派の役柄だった酒井和歌子が、二面性を持った悪女を演じて新境地を拓いている。
酒井和歌子は、翌1981年には研ナオコが主演した「私はタフな女」でヒロインの親友役を演じてコメディエンヌの才能があることも示した。芸域を広げての活躍を期待したのだが、残念なことにその後目立った活躍のないまま現在にいたっている。
二面性を持つ姉とは対照的なストレートに感情をぶつける妹を演じた浅野温子も、その末路と相まって圧倒的な印象を残す。
悪役二人のインパクトに比べると、決して演技が悪いわけではないのだが、ヒロイン夫婦は少々影が薄く感じられる。。。
悪女の仮面/扉の影に誰かが