原題 ; MOONFLEET(1955)
 監督 ; フリッツ・ラング
 脚本 ; ジャン・ラスティグ、マーガレット・フィッツ
 音楽 ; ミクロス・ローザ、フラメンコ音楽:ヴィンセント・ゴメス
 出演 ; スチュワート・グレンジャー、ジョージ・サンダース、ジョン・ホワイトリー
フリッツ・ラング監督作品中でも後期の一作。J・ミード・フォークナーという作家の小説を映像化したものらしい。
製作には「ペーパーチェイス」の成功で俳優に転向したジョン・ハウスマンが名を連ねている。
1757年10月、イギリスのドーセットシャー地方にあるムーンフリート村に一人の少年ジョン・モフーン(ジョン・ホワイトリー)がやって来た。
ジョンは墓地の不気味な彫像と、ヌッと差し出された手に気絶してしまう。気がつくと大勢の村人が覗き込んでいた。
村人はジョンの死んだ母親オリヴァーが書いた手紙を取り上げて読む。その手紙にはムーンフリートでジェレミー・フォックス(スチュワート・グレンジャー)という男を捜すように記されていた。
フォックスはかってのモフーン屋敷に住み、ジョンの友になってくれるはずだというのだ。
そこにフォックスが入ってきた。アシュトン卿に送った酒が着服されたといって、荷を運んだ男をムチで打ちすえる。
ジョンの父親が死んだあと、母親が教師となって生計をささえ、ジョンは家事をしていた。
また、フォックスはジョンの母親と恋仲だったが、モフーンの一族に結婚を阻まれた過去があった。
翌朝、フォックスの使いと名乗る男がジョンを迎えに来た。無理矢理馬車に押し込まれたジョンは飛び降りて逃げ出す。
ジョンは通りかかった白馬に乗る娘に、フォックスのいる領主屋敷に連れて行ってもらう。娘は治安判事マスキューの姪グレースだった。
フォックスは地元の名士を集めて宴の真っ最中。ラテン系の踊り子が情熱的なフラメンコを披露している。
フォックスと面会したジョンは誘拐されそうになったことを話す。
男たちはフォックスの命令でジョンを寄宿舎に送り届けようとしていたのだった。
ジョンはムーンフリートに残る決意を伝える。彼はフォックスを悪党呼ばわりしたアシュウッド卿(ジョージ・サンダース)に食ってかかった。
その態度が気に入ったとフォックスはジョンを屋敷に泊める。
その夜、ジョンはうなされた。彼は、母親から聞いた東屋に泊まり犬の群れに襲われてズタズタにされたという友人の話を悪夢に見たのだった。
それを聞いたフォックスはたわ言だと怒り出す。
いきなりフォックスの情婦ミントン夫人(ヴィヴェカ・リンドフォース)が彼のシャツをめくってみせる。その背中は犬に襲われたらしい傷でいっぱいだった。
翌朝、ジョンが庭にいるとグレースに声をかけられる。彼女は壁の裂け目を知っており、自由に出入りすることができた。
グレースはジョンを東屋に案内する。昨夜は嵐で高波に襲われ教会の墓石を押し流したという。
この墓地には海賊赤ひげが現われて人をさらうという言い伝えがあった。
ジョンはグレースに誘われ礼拝に行く。グレニー牧師の説教によると、赤ひげはジョンと同名の祖先であるらしい。
モフーン家では、高名なダイヤが行方不明になっていた。ジョンはダイヤを見つけて家を再興したいと望んでいる。
墓地で不気味な彫像に見とれたジョンは地下の洞穴に落ちてしまう。そこには多くの樽や棺があった。
穴は海につながり、密輸の基地として使われているようだった。
ジョンが誤って棺を壊すと白骨とともにペンダントが転がり出る。
そこに一味が入ってきた。ジョンはあわてて隠れる。フォックスが一味の首領だった。
フォックスはアシュウッド卿夫人とも関係を持っている。
地下に残されたジョンは助けを求める。その声を聞きつけた老婆は赤ひげの呪いだと大騒ぎ。フォックスの手下ラツィーがジョンに気づいてしまう。
アシュウッド卿はフォックスを連れてロッテルダムに渡り、商売しようと計画を練っていた。
ジョンはラツィーに捕まり、アジトに連れて行かれた。そこにマスキューが捜査に来る。
ジョンが訴えようとするとフォックスがやって来た。マスキューは証拠が揃えば密輸業者は全員吊るし首だと言う。
マスキューはジョンの話を聞こうとするが、ジョンはフォックスを前に口をつぐむ。
ラツィーがペンダントの中を調べると、聖書のエレミア書の詩篇が記された紙が入っていた。
フォックスの手下は秘密を知ったジョンを殺そうとする。フォックスはその手下を1対1の戦いでくだしジョンを助けた。
ジョンは、ラツィーから詩篇の説が間違って記されていたことを知らされる。
フォックスはジョンをミントン夫人とともに植民地オランダに送り込もうとした。見限られたミントン夫人は密告書を書く。
一味が浜辺で取り引きしていると兵隊が包囲し発砲してきた。逃げ出すフォックス。
ミントン夫人は流れ弾に当たって倒れ、ジョンはフォックスの後を追う。
フォックスはマスキューに追いつめられる。マスキューはフォックスが投げた銃を顔面に受け、崖を転落して命を落とす。
どうにかジョンとフォックスは逃げのびた。
ジョンはロケットの中に入っていた詩篇のことを話す。フォックスは、それがダイヤの場所を示す暗号だと気づく。
フォックスはアシュウッド卿を呼び出す。フォックスの正体を知ったアシュウッド卿は先の計画はご破算だという。
フォックスはダイヤを手土産に彼の船に乗せてもらう約束を取りつける。アシュウッド卿の条件はフォックス一人で来ることだった。
翌朝、フォックスは軍人に変装してジョンを連れ、ダイヤの隠された井戸に向かう。
水汲み桶に乗り井戸を降りていくジョン。井戸番に見つかるが、フォックスは不正に隠された金の調査だとごまかす。
ジョンは一個だけ色の違うレンガを見つけて抜き取る。その中にはダイヤの袋が隠されていた。
井戸番はフォックスがニセの兵士であることに気づく。フォックスは井戸番を殴って気絶させ、ジョンとともに逃げ出そうとするが、表に出たところで整列した兵士の点検を頼まれてしまう。
そこに軍服を奪われた本物の少佐がやって来る。騒ぎの起こる中、フォックスは馬を奪ってジョンとともに脱出する。
海辺の小屋に逃げ込んだ二人。ジョンはフォックスが自分を見捨てなかったことを感謝する。
フォックスはジョンが寝たのを見計らって、こっそり出て行く。
アシュウッド卿の馬車に乗り込んだフォックスは卿にダイヤを見せる。
馬車は検問に引っ掛かるが、夫人が娘のふりをしてフォックスを婿だとごまかす。
だが、ジョンを見捨ててきたフォックスの顔は晴れない。思い余ったフォックスは馬車を奪って引き返そうとする。
アシュウッド卿がフォックスの背中を刺し、振り向いたフォックスは卿を撃ち殺した。
馬車は夫人を乗せたまま暴走して転覆した。
重傷を負ったフォックスはどうにか小屋へと辿り着く。ジョンを起こして、ムーンフリートに戻り牧師にダイヤを渡して真実を伝えるように言う。
ジョンはついて行きたがるが、フォックスは信頼できる者に留守を守ってほしいのだ説得する。
フォックスは海辺の小舟に乗り込む。見送るジョン。
小舟は動かなくなったフォックスを乗せて波間に消えていく。
後日、ジョンは牧師とグレースに、自分はフォックスが戻ると信じており、彼を待つために屋敷の門は開けておくと告げるのだった。
フリッツ・ラング作品中では珍しく子供が主役になっているが、陰影に満ちたドラマが描かれ、単なるファミリー・ムービーの冒険物で終わってはいない。
スチュワート・グレンジャー扮する悪漢フォックスは冷酷な犯罪者だが、かって愛した女性の忘れ形見を見捨てることが出来ずに滅んでいく姿は極めて印象深い。
フォックスをめぐる女性たちもドラマに厚みを持たせている。特に嫉妬で身を滅ぼす情婦を演じたヴィヴェカ・リンドフォースは印象的。最期があっけないのが残念だった。
今回ヴィヴェカ・リンドフォースがジョージ・A・ロメロ監督の「クリープショー」でケーキ皿に盛られた生首を演じていた女優さんで、しかもドン・シーゲルの元夫人だったと知って驚いた。
夜の墓地でハーピー(みたいな)像が浮かび上がる場面とか、主人公の少年が井戸に潜っていく場面とかフリッツ・ラングらしい映像効果もちりばめられている。
代表作とは言えないまでも魅力的な一篇として完成している。
ムーンフリート