原題 ; NEVER GIVE AN INCH(1971)
 監督 ; ポール・ニューマン
 脚本 ; ジョン・ゲイ
 音楽 ; ヘンリー・マンシーニ
 出演 ; ポール・ニューマン、ヘンリー・フォンダ、リー・レミック、マイケル・サラザン
トップクラスのスターで監督としても一流というと真っ先に思い浮かべるのはクリント・イーストウッドだが、ポール・ニューマンも決して負けていない。
監督作は数こそ少ないが、いずれも完成度は高い。
本作も骨格のがっちりした見ごたえのあるドラマに仕上がっている。
オレゴン州の大森林。伐採業者の労働組合ではストライキが始まろうとしていた。
唯一参加しないのはヘンリー(ヘンリー・フォンダ)を家長とするスタンバー家と、その仲間たちだけ。
スタンバー家の家訓は「1インチも譲るな」。とにかく頑固な家系だ。
彼らにとって約束は絶対であり、契約を破ることなど考えられないのだ。
そんな時、都会の大学に通っていた息子ハンク(ポール・ニューマン)の腹違いの弟リー(マイケル・サラザン)が、ひょっこりと帰ってきた。
リーは、義理の兄ハンクが自分の母親と関係しているのを目撃して以来、ハンクに憎悪を感じていた。
ヒッピー・スタイルのリーはスタンバー家の中で浮いた存在であり、共感を持てたのは新しい考え方を持つハンクの妻ビブ(リー・レミック)のみだった。
リーも伐採に協力するが、ストライキが本格的に始まりスタンバー家に対する悪辣な嫌がらせが続く。
不景気で保険金目当ての自殺をほのめかしていた雑貨店主がたまたま事故死したことも、スタンバー家の孤立を深める一因となる。
協力者のいないヘンリーたちは陸送で契約期限までに材木を運ぶ手段がなかった。
思案の結果、ヘンリーは材木を川の流れに運ばせることにした。
だが、伐採中の事故で倒れてきた巨木にヘンリーの腕がもぎ取られ、仲間のジョー・ベン(リチャード・ジャッケル)は河の中で下敷きとなってしまう。
木はびくともせず、河は次第に水かさを増しジョー・ベンの顔が水面下に沈みだした。
ハンクは口移しで空気を送ろうとするが努力も空しくジョー・ベンは水死してしまう。
このシーン、最初はちょっとユーモラスに描かれ、やがて悲しみに変わっていく名場面。
リチャード・ジャッケルは本作の演技でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。
スタンバー家の頑固さについていけなくなったビブは家を出てしまい、入院したヘンリーも死んでしまう。
それでもハンクは契約を果たすつもりだった。
葛藤の続くリーにハンクは言う、リーが情事を目撃したとき自分はまだ年端もいかない少年だった、押し倒したのはどちらか考えてみろ、と。
ハンクが作業を開始したとき、自分もスタンバー家の一員であると認識したリーも協力する。
二人だけで何が出来るかとたかをくくる町民たちの前に、二人が操る巨大ないかだが姿を現す。
ハンクは冷凍してあったヘンリーの片腕を曳き舟の竿に縛り付けた。
その人差し指は町民たちを嘲るように突き立てられていた。
広大な河に巨大ないかだが悠然と流れていくラストシーンも、まさに壮観だった。
余談その一=原作では町のシーンで映画館にかかっている作品がポール・ニューマン主演の「渇いた太陽」だったが、映画ではグレゴリー・ペック主演作に差し替えられた。
余談その二=前述のリチャード・ジャッケルは深作欣二監督作「ガンマー第3号/宇宙大作戦」や「緯度0作戦」といった和製SFから晩年のTV「ベイウォッチ」レギュラー出演まで幅広く活躍した名バイプレイヤーだったが、1997年70歳で他界した。
わが緑の大地