年度 ; (1961) |
監督 ; 山田洋次 |
脚本 ; 野村芳太郎、山田洋次 |
音楽 ; 池田正義 |
出演 ; 小坂一也、葵京子、瞳麗子、平尾昌章、、関千恵子、穂積隆信 |
山田洋次監督のデビュー作。 上映時間55分という人情コメディーの小品。 プログラム・ピクチャー全盛の時代は大作でも2本立てで上映されることが多く、1時間前後の中篇もよく作られた。田中邦衛の次元大介で有名な「ルパン三世/念力珍作戦」も元は大作「ノストラダムスの大予言」の併映用低予算映画だった。「伊豆の踊り子」は大作「エスパイ」のオマケとして作られたが製作中に山口百恵人気が急上昇、公開時には「エスパイ」なんて誰も見たがらないという珍現象が発生した(大失敗作だったし)。 この手の作品は本作のように新人監督をテストするためにもよく利用されたらしい。 例えば深作欣二監督のデビュー作「風来坊探偵/赤い谷の惨劇」も上映時間62分の小品。この作品は、千葉真一主演のスチャラカ活劇で日活のエースの錠にあたるライヴァル・スペードの鉄(まんまのネーミング!)を曽根晴美が演じたりして、かなり安い印象なのだが、なんと京橋のフィルムセンターで観た。 閑話休題。「二階の他人」は、妙な下宿人に翻弄される若夫婦を描くのだが、原作は多岐川恭の短編小説とある。映画とは趣向の違ったユーモア・ミステリーなのかもしれない。 若い夫婦、葉室正巳(小坂一也)と明子(葵京子)は、ローンを組んで土地を買い家を建てた。 隣に部長が住んでたことは、棟上の日に知ってショックを受けたのだが。 ローンの足しにと二階を間貸ししているのだが、住人の小泉久雄(平尾昌章)と晴子(関千恵子)夫妻は家賃をためてばかり。 人のいい二人は催促もままならない。意を決して話しても、失業中でと言い逃れされてしまう。 仕方なく正巳は、自分の勤める会社の倉庫番に推薦する。 ある日、母のとみが転がり込んでくる。とみは昼間からゴロゴロしている久雄とすっかり遊び仲間になる。 正巳は、久雄が仕事をサボっていると部長にどやされてしまう。腹を立てた正巳は、小泉夫婦に対するまかないを打ち切る。 ついに正巳たちは、小泉夫妻に出て行かせようとするが居座られてしまう。近所の警官に相談するが埒(らち)が明かず、「殴っちゃうんですな」と無責任なアドバイス。 その気になった正巳は、震えながらもバット片手に二階に乗り込み追い出すことに成功。後になって二人が家賃踏み倒しの常習犯だったことを知る。 長兄の嫁と喧嘩して飛び出してきていたとみも、ようやく帰っていった。 新しい下宿人として入ったのは自称評論家の来島泰造(永井達郎)・葉子(瞳麗子)夫妻。 羽振りのいい来島夫妻は、費用を負担するからと風呂場を作らせる。 風呂場が完成して、来島夫妻と明子が「一番風呂は年寄りを入れる風習がある」などと話していると、とみが再びやってきた。 長兄、次兄(穂積隆信)を交えて家族会議が開かれ、話のこじれた長兄は家を建てるときに貸した金の返済を正巳に迫る。 やむなく正巳は来島に借りて金を返す。 やがて季節は移り、正巳は新聞記事で来島夫妻が指名手配犯だと知る。地元のボスに狙われた恋人を守るため、会社の金を盗んで逃亡生活をしていたのだ。 とりあえず正巳たちは知らないふりをする。 来島の周辺にも胡散臭い人物が現れはじめた。どうやら盗んだ金も尽きかけているようだ。 クリスマスの日、来島夫妻は二階に正巳たちを招きパーティーを開く。無理して騒ぐ来島夫妻と、不安げな葉室夫妻。 心中を心配した正巳たちは近所の警官を呼ぶが、とりあえず二人は無事だった。酔って寝ぼけたと苦しい弁解をする正巳。 翌日、飼っていた小鳥を逃がす来島夫妻を見た明子は、またしても不安になり正巳の会社に行くが外出中だった。居合わせた部長に借金を頼むと、肉体関係を迫る様子だったため逃げ帰った。 明子が家に戻るとパトカーが停まっていた。二人は自首したのだ。 二人から金を借りたことがばれて返済を迫られるのでは、と心配する正巳たちは夫婦喧嘩をしてしまう。 そんな時、明子は小鳥の籠に手紙が結び付けられているのを見つける。その手紙には貸した金のことは口外しないと書かれていた。 二人は毎月積み立てて、来島が出所したときに出直す資金として借りた金を返すことにする。そのためにも二階は下宿を続けるしかない。 「良い人が来ればいいね」明子は期待を込めて言うのだった。 特に大笑いさせるような場面はないのだが、的確な演出で質の高い作品となっている。 年寄りの話をしていると母親がやってくるというギャグは、その後「男はつらいよ」の定番となるし、近所の警官家族の描写もユーモラスで味わいがある。 登場人物は決して善人ばかりではない、というより主人公以外は問題のある人間ばかりなのだが、皆どこか憎めず、観終わってほのぼのとした気分になる。 この作品を観ると、山田洋次監督が第一作から自分のスタイルを持っていたことが分かる。 |