原題 ; PHASEW(1973) |
監督 ; ソウル・バス |
脚本 ; メイヨ・サイミン |
音楽 ; ブライアン・ガスコーン |
出演 ; ナイジェル・ダヴェンポート、リン・フレデリック、マイケル・マーフィー |
「サイコ」「ウェストサイド物語」など数多くのタイトル・デザインを手がけたソウル・バス長編では唯一の監督作品。突然変異で進化したアリと科学者の闘いを描く異色の未公開SF。 以前、テレビ放映(テレビ東京だったか?)で見たのだが、今回ビデオで初めて全長版を見ることができた。 フェイズT;ある年、宇宙に異変が起こり地球への影響が危惧された。 その影響は小さな生物に現われ、イギリス人の生物学者アーネスト・ハッブス(ナイジェル・ダヴェンポート)が調査を始める。 各種のアリが集まって集会をするようになったのだ。 ハッブス主任から、アリゾナにおいてアリの種族間の争いがなくなり、同時にクモ、カブトムシ、カマキリなどアリを餌とする生物が大量に消滅したとの報告がなされた。 画面ではクモを食い尽くすアリの群れがハイスピード撮影で描かれる。 ハッブスは、この問題に対処し他の生物を守るためのプロジェクトを開始。彼は、助手として選んだレスコ(マイケル・マーフィー)とともにパラダイス・シティを訪れる。 新興の開発地だったが住民が逃げ出しゴーストタウンと化している砂漠の町だ。 町のはずれには巨大な四角い塔のようなアリ塚が何本も建っている。 ハッブスは羊がアリに襲われて死んでいるのを発見した。 この地域には避難勧告が出ていたが、エルドリッジ一家は残り、アリが渡ってきたら火を点けようとガソリンを溝に流していた。 フェイズU;避難を完了し、ハッブスはアリ塚の近くに設置された研究所で活動を開始した。電力以外は自給する小型ドームである。 予算の関係で期間を決められたハッブスは、アリ塚を破壊してアリを刺激する。ハッブスの姿をじっと眺めるアリたちがいた。 一方、エルドリッジ家の馬が襲われた。ガソリンの溝を木の葉に乗って渡ったのだ。慌てて火を点けるが、すでに家も食われていた。 一家はトラックで燃える溝を越えて脱出。しかし、トラックにも大量のアリが潜んでいた。 ハッブスたちはアリの群れの動きを分析していた。その時、発電機がアリに破壊されてしまう。アリの破壊工作というのは一種の自爆テロで、自ら犠牲となって電気をショートさせるのだ。 ハッブスは補助電源に切り替え、黄色い殺虫剤を散布して対抗する。 死んでいくアリたち。だが、一部は逃げ出した。 翌日、防護服を着て出た二人はエルドリッジ夫妻と使用人が殺虫剤の中で死んでいるのを発見する。発電機に大量のアリが潜り込み、犠牲となって破壊していた。 死人が出ても動じないハッブスの態度に、レスコは憮然とする。 ハッブスが死体に潜り込んで生きていたアリを採取していたとき、地下室に入って助かったエルドリッジの孫娘ケンドラ(リン・フレデリック)が出てきた。 アリの1匹1匹は全体の中の細胞のようなもので、自己犠牲の社会とも言えた。集団で驚異的な力を発揮するのだ。 レスコはケンドラのことを心配するが、計画の中止を恐れたハッブスは事件を報告しない。 アリを見て興奮したケンドラが実験用のビンを割ったため、アリの群れが逃げ出してしまう。 ハッブスはラボを封鎖して殺虫剤を噴霧する。 だが、生き残りがいた。そのアリは凝固した殺虫剤のかけらを運んでいく。途中で息絶えると次のアリが運び、リレーされていく。 ついに殺虫剤は女王アリに届けられた。これを食べた女王アリは黄色い卵を産み始める。 レスコはアリの言語を解読していた。 アリたちは研究所の周囲に上部が鏡面状になった塚を建てる。陽が昇り研究所に向けて日光を反射し始めた。ドーム内の温度が上昇していく。 ハッブスは、モニターで殺虫剤に耐性を持った黄色い変種が発生しているのを見つける。彼はアリに対抗意識を燃やして、限界を教えて教育してやるなどと言い出す。 レスコは、救助ヘリが来たらケンドラとともに脱出する決意をしていた。 しかし、通信機がアリの群れのよってショートさせられ破損してしまう。 レスコは音波を使って周囲のアリ塚の破壊に成功。 その頃、1匹のアリが補助電源の電線を噛み切ろうとしていた。背後から近寄ったカマキリがそのアリを食べるが、アリは1匹ではなかった。 カマキリはアリに引きずり落とされ、装置をショートさせてしまう。 破壊されたアリ塚では無数のアリが死んでいた。だが、全てではない。 レスコは補助電源を修理しようとして、見事に弱点を攻撃されて死んだカマキリを発見した。 一方、アリ塚の中ではアリたちが死んだ仲間を並べて弔っていた。 夜間の数時間は装置を稼動させることが出来たが、レスコはこれもアリの作戦ではないかと疑っていた。 錯乱し始めたハッブスは1匹のアリを追って大騒ぎする。 フェイズV;ハッブスは女王アリさえ殺せば群れは統制を失うと考え、レスコに女王アリの声を探すように命令する。 女王アリのメッセージを解読すると、それは大きな円の中の小さなマルだった。まるでアリに知能テストされているかのようだ。 ハッブスは女王アリの居所を突き止める。 ケンドラはアリを攻撃した自分が犠牲になれば、他の者は許されるのではないかと考え、研究所から出て行く。 ハッブスは女王アリを仕留めようとレスコが止めるのも聞かず出て行く。彼はアリの作った落とし穴に落ちてしまう。無数のアリが襲いかかってくる。 レスコは、アリが一歩ずつ人類より先んじて田舎から都市部へと進攻すると計算した。食い止めるには、やはり女王アリを殺すしかない。 殺虫剤の噴霧器を持ってアリ塚に到着したレスコ。彼はケンドラが砂の中から出てくるのを見る。抱き合う二人。 やがてアリたちとともに丘に立ち夕陽を眺める二人の姿があった。彼らは改造されアリの仲間になったのだった。 目的は知らないが、やがて教えられるだろう。 allcinema onlineによるとアリの調教(!)に成功したという撮影のケン・ミドルハムは、異色のドキュメンタリー「大自然の驚異」でも撮影を担当した人物らしい。 そういえば、この2作品、なんだか共通点があるように思える。 「大自然の驚異」は、昆虫ドキュメンタリー版マイケル・ムーアみたいな作品で、架空の昆虫学者がホストを務めるという人を食った構成。 虫の世界を描きながらも、それを皮肉っぽく人間社会に投影させたりするのが特徴。例えばアリの巣を水びたしにして逃げまどうアリを写したかと思うと、次のカットでは大都会をアリのように行き交う人の群れが俯瞰(ふかん)で写し出されるといった具合 強い農薬が開発されても、すぐに耐性を持った害虫が生まれてしまい、イタチごっこだというくだりもあって、「フェイズW」に反映されていると感じた。 低予算の作品でドラマ構成に粗い部分はあるものの、アリは本当に演技しているように見える場面があるし、撮影も良く印象的な映像を多く交えて描かれ飽きさせない。 ラストのバッドエンディングは、冷戦時代に流行った共産思想による洗脳を暗示するテーマのバリエーションではないかという気もする。 |