年度 ; (1974)
 監督 ; 神代辰巳
 脚本 ; 長谷川和彦
 音楽 ; 井上堯之
 出演 ; 萩原健一、桃井かおり、壇ふみ、森本レオ、河原崎健三、赤座美代子
日ソ合作の大作「モスクワわが愛」の併映作として製作された低予算の青春映画。
「モスクワわが愛」が古臭いメロドラマであったこともあり、新鮮な感覚で演出された本作の方が観客の支持を集めた。
神代辰巳監督は、すでに「四畳半襖の裏張り」などの日活ロマンポルノ作品で一部から高い評価を得ていたが、一般にその名を知らしめたのは本作だと思う。
また、萩原健一も、すでにATG映画「約束」「股旅」で演技力を評価されていたが、本作とテレビ「傷たらけの天使」によってカリスマ的存在となった。
工藤賢一郎は(萩原健二)は、法学部で司法試験合格を目指していた。フットボールの部員でもあったが、キャプテンの座は断っている。
賢一郎は、家庭教師の教え子・大橋登美子(桃井かおり)にスキー旅行に誘われた。友達も一緒と言われたが、これは嘘。
ゲレンデで二人はカップルの凍死体を発見する。女がスキーを流されたのだ。「女を見捨てれば助かったのに、いい気なもんだよ」賢一郎はつぶやく。
その夜、二人は結ばれた。
賢一郎は母・悦子と二人で貧乏暮し。伯父の田中栄介(高橋昌也)は実業家で彼を援助していた。栄介の娘・康子(壇ふみ)は賢一郎に気のあるそぶりを見せている。
友人の三宅浩一(河原崎健三)にはクラブ歌手の恋人・北条今日子がいた。彼女は学生運動家との間にできた子供がいた。
先輩の小野清二郎(森本レオ)は、妻子持ちだが、司法試験は万年落第。学生運動やスポーツを捨てた世渡りのうまい賢一郎に酔って絡んだりする。
肉体関係を続ける登美子に、司法試験のためと別れ話を持ち出す賢一郎。
登美子と歩行者天国を歩いていた賢一郎は、康子と連れの男がシンナー中毒の少女(芹明香)に絡まれているところに出くわす。
一方、登美子は妊娠した言い出す。賢一郎は堕すように指示する。
賢一郎と浩一は論文試験にも受かったが、ついにあきらめた清二郎は妻子を連れ故郷へと帰っていった。
浩一はゲバ学生の襲撃を受けて重傷を負う。今日子の前の男に関する内ゲバの巻き添えを食ったのだ。
司法試験に合格した賢一郎は、栄介父娘とセイリングに出る。栄介から、いずれ会社を任せる気だと言われ、康子は今日からは私だけにしてと言う。
だが、登美子との関係は続いていた。賢一郎は登美子が堕胎していなかったことを知る。すでに5ヶ月で堕ろすことは出来なくなっていた。
賢一郎は、登美子を旅行に誘い出す。交互に背負って雪山を降りる二人。雪の中で抱き合う二人。
賢一郎から離れない登美子を、彼は発作的に絞殺してしまう。
退院した浩一は今日子と同棲を始めていた。
賢一郎と康子の婚約パーティーが開催された。
和気あいあいと康子の自転車の練習に付き合う賢一郎。
彼はフットボールの活動も再開する。
その賢一郎に捜査の手が迫っていた。死体に残された精液が決めてだった。また、血液型から妊娠した相手は賢一郎ではないことも判明していた。
競技場に刑事(下川辰平)たちが現れる。
試合が始まりボールを掴んだ賢一郎はタックルされる。地面に叩きつけられボキリという音とともに賢一郎は動かなくなった。
主人公の死を暗示したとも取れるラストだが、象徴的な演出という気がする。
基本的なストーリーは自らの野望ゆえに滅んでいく青年の物語なのだが、神代監督の独特な演出により屈折した人物像が造形されている。
映画で描かれる主人公は、野心家というよりも、喪失感の中で生きているように感じられる。
高度成長と共に豊かになった日本で、優れた頭脳を持ちながらも目的を見いだせずに生きている主人公。殺人ですら、立身出世のためというより、当面の煩わしさから逃れるための行為という印象の倦怠感を感じさせる作品だった。
青春の蹉跌