スペンサーの山

　原題　；　SPENCER'S　MOUNTAIN(1963)

　監督　；　デルマー・デイヴィス

　脚本　；　デルマー・デイヴィス

　音楽　；　マックス・スタイナー

　出演　；　ヘンリー・フォンダ、モーリン・オハラ、ジェームズ・マッカーサー

ヘンリー・フォンダを主演に、監督作「折れた矢」「恋愛専科」、脚本作「めぐり逢い」で知られるデルマー・デイヴィスがワイオミングの田舎町を舞台に描いたホームドラマの佳作。
ワイオミングの谷間に住むスペンサー一家。
クレイ（ヘンリー・フォンダ）の夢は、代々スペンサーの山と呼んできた一族所有の山頂に家を建てることだった。
一方、妻オリヴィア（モーリン・オハラ）は息子クレイボーイ（ジェームズ・マッカーサー）の卒業資金のためなら山を売ってもいいと考えている。
なにしろクレイボーイは一族で初めて高校を卒業する男なのだ。
クレイは８人の弟たちの協力を得て家の建築にかかっていた。
ちなみにこの主人公、９人兄弟で子供も９人いるらしい。長女ベッキーを「エイリアン」のヴェロニカ・カートライトが演じている。ヤングという姓の子役が５人おり、本当の兄弟を連れて来たのではないかと思う。
クレイは子供たちに、自分の子供時代は本当に貧乏で一家がひと冬をベーコン１枚でしのいだこともある、と貧乏自慢のホラ話をしたりする。
序盤は釣り好きなクレイの、のんびりした日常生活が描かれる。彼は大の教会嫌いなのだが、釣り場で知り合った英国紳士グッドマン（ウォーリー・コックス）が実は新任の牧師だった。
クレイがグッドマンを酔わせてしまったため、その姿を見た村人たちは福音教会をボイコット。その事実を知ったクレイは一肌脱いで村人たちが教会に行くよう仕向ける。
クレイボーイは高校の卒業式で優秀賞を受けた。教師パーカー女史は、クレイボーイを石切り職人などにしないようにと壇上から訴える。
クレイボーイの望みは大学進学。しかしスペンサー家に学費を払う余裕はない。
ある夜、グッドマンとパーカー女史が訪ねてくる。大学の奨学生枠は神学生の口しか残っていないというのだ。
自分は無学で教育を受けた者がうらやましいというクレイは、神学生とは知らず申し込みを了承する。
パーカー女史は、石切り場の監督と交渉して職人向け図書館の開設を決めた。その管理をクレイボーイの夏休みのバイトにする。
クレイボーイは監督の娘クラリス（ミムジー・ファーマー）と１年ぶりに再会。すっかり色っぽくなった彼女は、積極的にクレイボーイにアプローチする。
スペンサー家に奨学金選考不合格の通知が届く。悲観にくれるクレイボーイ。
頭にきたクレイは大学の乗り込んで学長と面会する。成績は問題ないが神学生にはラテン語の知識が必要だった。
クレイの心意気を見込んだ学長は、クレイボーイがラテン語を習えば、奨学金は出ないが入学を認めることにした。
グッドマンはスペンサー家が教会に来ることを条件にラテン語を教えることにする。日曜日、教会に現れたスペンサー家の姿に村人たちはビックリ。
クラリスと図書館でいちゃついていたクレイボーイは、妹のベッキーに見られてしまう。あわてて追いかけるが間に合わず母親にミミズみたいに絡み合っていたと告げ口されてしまった。
クレイは、父に頼まれ墓地近くの大木を切り倒すことにする。子供のころの貯金箱を見つけた祖父は、少々ボケもあるのか倒れる木に向かってきてしまい、気づいて駆け寄ったクレイともども下敷きになってしまう。
弁当を届けに来て二人を発見したクレイボーイは村の緊急サイレンで助けを呼ぶ。
クレイは足首の骨折で済んだが、祖父は重体で助からなかった。
葬儀で老母は遺言を読み上げる。自分の貯金３７ドルをクレイボーイの進学資金の足しにしてほしいと言い残していた。
その後、クレイボーイとクラリスは山でデート。ようやく邪魔されずキスできた。
クレイボーイは入学を認められたが、学費が必要だった。
クレイは親友ジョンに借金を申し込む。ところがジョンには財産目当ての女が出来ており、その女が以前クレイボーイに相手にされなかった腹いせに借金を断らせてしまう。
学費のめどがつかないうちに、クラリスも同じ大学に通うことが決まった。
クレイは骨組みの出来た山頂の家にガソリンを撒いて焼き払ってしまう。彼は山を売り学費を作ることにしたのだ。うまくすれば、この金で下の子供たちも大学に行かせることができる。
春が来てクレイボーイは家族たちに見送られ、大学のある町へと旅立つのだった。
知的な役柄の得意なヘンリー・フォンダが無教養で頑固だが男気のある父親を見事に演じている。
いかにもヴェトナム戦争以前の良きアメリカを描いたホームドラマという印象。多少間延びした部分もあるのだが、見応えのある作品になっている。
大自然を色鮮やかにとらえた映像とマックス・スタイナーの明朗な音楽も魅力。
山に建築している家の描写をもっと多くしたほうが、主人公の愛着が強く印象づけられて、クライマックスがもっと盛り上がったのではないかと思う。
クレイボーイのガールフレンド役のミムジー・ファーマーは、いかにもアメリカ娘らしい健康的な色気を発散している。結局ハリウッドでは成功せず、ヨーロッパに渡って「四匹の蝿」「炎のいけにえ」などのＢ級サイコ・サスペンスを中心に活躍。どちらかというと退廃的な色香が売り物の女優になった。
また、1972年には本作を原案としてスペンサー家をウォルトン家に名称変更したテレビ・ホームドラマ・シリーズ「わが家は11人」が製作された。本国ではかなり人気を博したようで９シーズン続くヒット作となった。