原題 ; THE PRIVATE LIFE OF SHERLOCH HOLMES(1970) |
監督 ; ビリー・ワイルダー |
脚本 ; ビリー・ワイルダー、I.A.L.ダイアモンド |
音楽 ; ミクロス・ローザ |
出演 ; ロバート・スティーヴンス、コリン・ブレークリー、ジュヌヴィエーヴ・パージュ |
この作品はミステリー映画ですが結末まで記載してあるので御注意ください。 シャーロック・ホームズの映画、というとコナン・ドイルの原作に基づいた正統作品はほとんど見たことがない。 見ているのはオマージュ作品ばかりなのだが、世界一有名な探偵に敬意を払っているのか、シャーロキアンの仕返しが恐いのか、比較的質の高い作品が多い。 本作は、その中でも傑出した作品。さすがはビリー・ワイルダー演出と唸らせる洒落ていて、なおかつストーリーもしっかりしたものになっている。 もっともビリー・ワイルダーの作品は大半が傑作で、そうでないものは秀作か名作なのだが。 その頃、シャーロック・ホームズ(ロバート・スティーヴンス)は大きな事件がなくて暇を持て余していた。 サーカス団の小人兄弟失踪事件も、単にドケチな団長から逃げ出しただけのようで食指が動かない。 ロシアのバレー団に招かれれば、優秀な子種を求めるプリマに迫られて、ワトソンとのホモ関係をでっち上げて逃げ出す始末。 そんなある日、ホームズの下宿に一人の女性(ジュヌヴィエーヴ・パージュ)が運び込まれた。女は河に落ちて記憶を失ったのだが、手にしていた荷物の預り証にはホームズの下宿の住所が書き込まれていた。 預り証の印刷は消えていたが、ホームズは女の手の平に写った文字を判読、女の荷物を突き止める。 荷物から、女がベルギーのガブリエル夫人であることが分かる。 記憶を取り戻したガブリエル夫人によると、ロンドンのヨナ商会に就職した鉱山技師の夫が消息を立ってしまったという。 ヨナ商会を尋ねてみると、もぬけの殻で、なぜかカナリアを飼う老婆がいるだけだった。 その空き家にホームズ宛の手紙が舞い込む。差出人は兄マイクロフト(クリストファー・リー)。 ホームズがマイクロフトのいるディオゲネス・クラブを訪問すると、この事件から手を引けと忠告される。 かえって好奇心を掻き立てられたホームズは捜査を進める。 カナリアの籠に敷かれていた新聞から、スコットランドのネス湖に目をつけたホームズは、ワトソン(コリン・ブレークリー)、ガブリエル夫人とともに旅立つ。 ディオゲネス・クラブで耳にしたマイクロフトの言葉から墓地を訪れるホームズたち。 墓場ではネス湖で死んだという身元不明の親子の埋葬が行われていた。 その墓に4人の小人が墓参りに来た。子供の死体が、実は行方不明の小人兄弟だとしたら、死んだ父親とは誰なのか。 ホームズは墓を暴くことにする。 大きな棺にはガブリエルの夫の死体がカナリアの死骸とともに入れられていた。夫の結婚指輪は変色していた。 もう一つの言葉から古城を調べると、厳重な警戒の中、硫酸やカナリアが運び込まれていた。 真相に見当をつけたホームズは、夜になって二人とともにネス湖にボートを出す。すると有名なネッシーが姿を現し、ボートを転覆させていった。 翌日、兄マイクロフトから招待状が届いた。晩餐の席でホームズは推理を披露する。 ヨナ商会のヨナは、聖書で三日三晩クジラの中で生きていたヨナにちなんでおり、ここでのクジラはネッシーに偽装した潜水艇だった。 マイクロフトが中心となり、英国の新兵器として開発していたのだ。 試作機が小型のためサーカスの小人を操縦士とし、動力が硫酸電池なので海水が浸水すると塩素ガスが発生してしまうため、警戒のためにカナリアを使っていたのだ。 ガブリエルの夫はポンプの技術を買われて参加したのだが、その塩素ガスの事故で命を落とした。そのガスで指輪が変色したのだった。 マイクロフトは、ただ一つホームズが見抜けなかった事実を暴露する。ガブリエル夫人の正体は、潜航艇技術を盗む使命を帯びたドイツのスパイ・イルザだった。 だが、マイクロフトの苦心作である潜航艇は、スポーツマンシップにもとる卑怯な兵器で英国には必要ない、というビクトリア女王の一言で廃棄されることになった。 マイクロフトの策略により、潜航艇奪取のため乗り込んだドイツ工作員たちとともに艇は破壊され湖の底へと沈んでいった。 イルザは、マイクロフトの配慮によりドイツとの人質交換という形をとって帰国した。 ホームズが再び暇を持て余していたとき、悲報が届く。 イルザが、極東の地・日本でスパイとして逮捕され処刑されたのだ。 失意の中、ホームズはヴァイオリンを手に取った。物悲しいメロディは追悼の調べとなって漂っていく。 余韻に満ちたエンディングも見事な作品。 ミクロス・ローザの手がけたヴァイオリン曲も雰囲気をより深いものにしている。 余談その一=クリストファー・リーがマイクロフト・ホームズを演じているのも、この映画の楽しさの一つ。原作ではブヨブヨと太った人物として描かれているようなのだが、ホームズ以上に優秀な兄という設定だから、映画としてはリーのように見栄えにする紳士がハマリ役。こうしてみると内田康夫の浅見兄弟の設定はホームズの影響を受けている気がする。シャーロキアン夫婦マイケル&モリー・ハードウィックによるノヴェライゼーション「シャーロック・ホームズの優雅な生活」では、仕方ないのでマイクロフトを以前見たときとは全く違う印象だった、と描写している。この小説版も、映画では描いていない細部までこだわった佳篇となっている。ちなみにクリストファー・リーはテレフューチャーの「新シャーロック・ホームズ」シリーズでホームズ役を演じた。NHKで放映されたとき見たのだが、あまり印象的な作品ではなかった気がする。というか、ほとんど内容を憶えていない。 余談そのニ=何年前だったか忘れてしまったが、ネス湖の怪物発見の報道があって、後にエイプリル・フールのガセだったと判明。この時の写真撮影に使われたのが、本作の潜航艇の模型だった。撮影から随分年月が経っていたので、よく取ってあったものだなと感心したのを憶えている。 |