製作 ; (1961)
 監督 ; 渡辺邦男
 脚本 ; 渡辺邦男、結束信二
 音楽 ; 山田栄一
 出演 ; 高倉健、小野透、永田靖、大村文武、志村妙子、中村是好、不忍郷子
高倉健がオープンカーをとばす二枚目金田一耕助に扮した怪作。
人気歌手、和泉須磨子が鬼首町鬼塚村に帰郷の途中、運転しともども殺害された。
そして洒落たジャケットにサングラス、オープンカーを駆る粋な男、金田一耕助(高倉健)が鬼塚村に現われ温泉宿に泊り込む。
須磨子の実家仁礼家は、この地方でも一番といわれる富豪だった。
葬儀の日、仁礼家の当主、剛造(永田靖)を辰蔵(中村是好)といういわくありげな男が訪ねていた。
そのとき須磨子が最後に録画した番組の放送がはじまる。
曲は鬼首に古くから伝わる民謡の手毬唄で、匿名のファンが送ってきたものだった。剛蔵はこの歌を聞くと顔色を悪くする。
宿でテレビを見ていた金田一は、一同の前で同宿の学生、遠藤和雄(小野透)の身元を見事に言い当ててみせる。
遠藤は、須磨子の妹、里子(志村妙子)と同じ大学に通うボーイフレンドだった。
仁礼家には、剛蔵に取り入り里子と結婚しようとしている栗林(山本麟一)もいた。
和雄と里子が歩いていると、お告げ婆と呼ばれる老婆が里子が危ないと告げた。
里子は兄、源一郎に半年前に来た脅迫状が今度の事件に関係しているのではないかと言われる。兄は妹に早く大学に戻ったほうがいいと進めた。
金田一は宿に何者かが侵入したことに気づく。
遅れて届いた手紙で、里子は須磨子に脅迫状が届いており、金田一耕助に調査を依頼したことを知る。
そのとき銃声が響く。自室で猟銃を手にした源一郎が死んでいた。
剛蔵はすぐさま村人を集めて山狩りの準備を始める。人が集まりすぎて仁礼家付近は大混乱。
そこに事件を担当する磯川警部らも到着した。
銃弾は源一郎の顔を貫通していた。現場を見た金田一は、こっそり磯川警部に自殺に見せかけた毒殺であると書いたメモを渡す。
宿に里子が金田一を訪ねてきた。金田一と遠藤が里子を送ろうとすると、オープンカーが突然スリップした。
道にオイルをまいて里子たちを底なし沼に落そうとした者がいたのだ。
温泉で磯川警部は金田一に、推理どおり源一郎が毒殺だったことを告げる。
剛蔵と栗林は、昔つぶれた青池家が事件に関係しているのではないかと考えた。18年ぶりに姿を現した辰蔵は青池家の作男だったのだ。
金田一と遠藤は村の老人、放庵に手毬唄のことを聞くが、辰蔵の方が詳しいという。
辰蔵は使われなくなった牧舎にいた。金田一が源一郎の死を告げると、辰蔵は動揺し話も聞かずに金田一を追い返す。
20年前、剛蔵は青池家の財産を奪い破産させた。青池家の妻は三人の子供を連れ、毒を飲んで手毬唄を歌いながら底なし沼に沈んでいったという。
それ以来、剛蔵にとって手毬唄は恐怖の的となったのだ。
まかれたオイルは牧舎に置いてあったものだった。金田一は辰蔵が犯人を見たと推理する。
警視庁の嘱託をしている金田一は、豊富な情報を手に入れていた。
金田一の助手が須磨子に送られた手毬唄の手紙が岡山から出されたという情報を持って来た。
仁礼家には、青池家の実印を偽造して破産に追い込んだ疑惑があった。
青池家の当主は洪水で死んだが、確認できずに体型や服装で判断されていた。磯川は青池が生きているのではないかと推理する。
金田一も同じ意見だった。
牧舎を張り込む遠藤は、辰蔵を追いかけてきた里子に会う。里子は辰蔵に手毬唄のことを聞こうと思ったのだ。
そこに栗林が手下を連れて襲ってきた。里子との縁組を目論む栗林にとって遠藤は邪魔者だった。
一味は遠藤を殴り倒し、里子を連れ去る。
一方、辰蔵は牧舎でなくした青池家の実印を見つけていた。
金田一と助手は殴られて倒れている遠藤を見つける。金田一は辰蔵を問いつめるが、辰蔵は突然苦しみだし、息絶えてしまう。
磯川警部は部下を引き連れ宿の捜索に入った。青池は石山と名乗って宿泊していたが、すでに姿がなかった。
そのころ金田一は牧舎で青池を捕らえていた。彼は旅館の部屋で浪曲のテープをかけてアリバイを作っていたのだ。
そこに剛蔵と里子がやって来た。興奮して拳銃を取り出す青池を金田一と遠藤が取り押さえる。
死んだ三人の子供の仇を討つため、剛蔵の子供たちを殺そうとしていたのだ。
金田一は辰蔵が見つけた偽造の実印を取り出し、辰蔵殺害犯として剛蔵を指名する。
剛三は胃腸薬と書いたビンに毒薬を隠し持っていた。秘密を握られてゆすられた剛蔵が辰蔵の酒に毒を盛ったのだ。
観念した青池は毒酒を飲んで自殺する。
里子は仁礼家の土地全てを社会福祉に寄付する決心をするのだった。
ストーリーは原作と同じ部分が全くといっていいほどない。なにしろキーポイントである手毬唄の見立て殺人が起こらないのだからすごい。
内容的にも、これといって見るべきところはなく、平均点の2時間サスペンスといったレベル。
大きく矛盾した部分はないが、たいしたトリックもない。犯人もその他大勢みたいだった宿泊客だし。
そのため全体的にメリハリが欠けてしまっているし、クライマックスも謎解きの楽しさが味わえない。見所は高倉健の若き名探偵ぶりくらいだった。
初期の金田一耕助は、ほとんどがスーツ姿だったらしい。
現在の服装が定着したのは、1968年少年マガジンに連載された影丸譲也作画の劇画版「八つ墓村」が大人気を博してからだと思う。ちなみにルンベン帽は石坂浩二から。
当時の横溝正史は忘れ去られた存在で代表作のほとんどが絶版状態。マガジン読者の中には奇妙な風体の探偵が犯人ではないかと疑った者もいたらしい。
その後、講談社が代表作を収録した横溝正史全集を刊行。1975年には中尾彬がジーパン姿の金田一を演じた「本陣殺人事件」が製作された。
1976年には角川映画第一弾として「犬神家の一族」が公開され、金田一耕助のイメージは不動のものとなった。1977年の「八つ墓村」が企画としては先行しており、角川も松竹と組んで製作に参加していたが、準備期間が長いのに業を煮やして、角川映画を立ち上げたというエピソードを読んだことがある。
その後の作品中では1977年の愛川欽也がスーツ姿の金田一を演じた土曜ワイド劇場「吸血蛾」が変わり種。
横溝正史には、「吸血蛾」「夜の黒豹」などの都会を舞台にしてエロス要素を取り入れた通俗ミステリーにも数作金田一耕助を登場させたものがある。
これらをエロチック正史と称して映画化すれば面白いかもしれない。

悪魔の手毬唄