製作 ; (1993) |
監督 ; 河野宏 |
脚本 ; 八木柊一郎 |
音楽 ; |
出演 ; 岩下志麻、伊武雅刀、谷啓、野村真美、佐野圭亮、津川雅彦、寺杣昌紀 |
おなじみ江戸川乱歩原作「黒蜥蜴」のテレビドラマ化。 数多い同作の映像化でも一番の珍作ではないかと思う。 黒蜥蜴(岩下志麻)はディスコの入っているビルを部下にハッキングさせ、警備システムを無力化する。 ディスコクイーンを誘拐するためだった。 黒蜥蜴のラウンジには壁一面のガラスが張られ、その向こうは水槽である。 何人かの女が泳ぎ、その中には誘拐うされたディスコクイーンもいた。 黒蜥蜴のしもべで医学者の青木浩三(津川雅彦)が水槽を見つめている。 入ってきた黒蜥蜴に青木は、自分の傑作は人魚たちではなく黒蜥蜴に彫った蜥蜴の刺青なのだと言う。 黒蜥蜴はチンピラに殴られている雨宮潤一(佐野圭亮)と遭遇する。彼女は殴るのを止めさせ、チンピラたちとともに姿を消した。 潤一は黒蜥蜴のクルーザーで目を覚ます。彼は以前にもチンピラに絡まれているところを黒蜥蜴に助けられていた。 黒蜥蜴は自分の身体を好きにさせて潤一を助けたのだという。 「あなたが犯されるくらいなら自分が殺された方が良かった」潤一の言葉に黒蜥蜴は、これからの潤一は全て私のものだという。 昨夜のことも彼女が仕組んだらしい。魅入られた潤一は、黒蜥蜴への忠誠を誓う。 黒蜥蜴は潤一に水槽の女たちを見せる。青木の手術により水中で呼吸するよう改造されており、外に出ると死んでしまうのだ。 嫉妬した青木は、潤一も改造してコレクションにするかなどという。 黒蜥蜴は次の犯罪として水槽に飾る宝石を手に入れることを計画する。ハイテクを一切使わず、名探偵、明智小五郎(伊武雅刀)と勝負するというのだ。 明智小五郎は富豪の岩瀬庄兵衛(谷啓)に雇われ、彼の娘、岩瀬早苗(野村真美)を警護していた。一行はホテルに身を潜めている。 早苗宛に脅迫状が送られ続けているのだ。明智は犯人の目的が庄兵衛の所有するダイヤ「エジプトの星」なのではないかと考えている。 黒蜥蜴は緑川夫人と名乗って同じホテルに滞在しており、岩瀬親子と顔なじみだった。 明智を紹介された緑川夫人は、「この事件を企んでいる者は恐るべき魔力を持っていて、今回の事件は明智に挑戦している気がする」と言う。 庄兵衛が留守の夜、緑川夫人はフランス人形のコレクションを見せると早苗をホテルの自室に連れ込む。 早苗を潤一が襲って眠らせ、緑川夫人は早苗に変装して部屋を出た。 潤一が大型トランクを持って出ようとする。警備員に呼び止められたが、中身は日用品だった。 緑川夫人は早苗のふりをして、後ろ姿で帰ってきた庄兵衛をやりすごす。 何かに気づいた明智は警備員に急ぎの指示を出す。 明智は緑川夫人の部屋に電話して庄兵衛の部屋に来させる。「今夜12時に警戒なさい」という脅迫状が届いたのだ。 二人で12時を待とうと持ちかける。時計は12時を回った。一見何事も起こらない。 明智は庄兵衛を起こし、早苗の無事を確かめさせる。ベッドに寝ているのは人形だった。 みすみす早苗を誘拐され、明智に怒りをぶつける庄兵衛。 「私が犯人は恐ろしい奴だと忠告したのに」しらじらしい緑川夫人。 明智は早苗が無事だと言い出す。とたんに態度を変える庄兵衛。 早苗が部屋に入ってくる。 明智は脅迫文に「警戒なさい」という女言葉が使われていたので、緑川夫人が犯人であることに思い至ったのだ。 緑川夫人は黒蜥蜴の正体を現し銃を抜いた。「最後に勝つのはこっちさ」黒蜥蜴は紫のタキシードに黒マントといういでたちで去っていく。 一行は東京に戻った。早苗は黒蜥蜴を逮捕するには、自分がわざと誘拐されれば良いのではないかと言い出す。 庄兵衛は驚くが、明智は賛成する。自分も考えていたが、提案することはでずにいたのだ。 黒蜥蜴は庄兵衛が新たに購入した家具の型番を調べ上げる。同じ型番のソファを改造して中に潤一を潜ませるのだ。 夜になり潤一はソファを抜け出る。寝たふりをしていた早苗と目が合った。 翌朝、庄兵衛はベッドに早苗がいないことに気づく。ソファもズタズタに裂かれている。 明智は最後まで私を信じてくださいと庄兵衛を説得した。 庄兵衛が落ち込んでいると、家具屋がソファを引き取りに来る。 明智は青いシャツに黄緑色のジャケットを着こんで待機していた。家具屋のトラックに発信器をつけてを追跡する。 二つのソファに早苗と犯人がいることを見抜いていた。 黒蜥蜴の部下が発信器に気づき、作戦を変える。明智は巻かれてしまう。 無人島に連れてこられた早苗はおとなしく黒蜥蜴に従っていた。 黒蜥蜴の両親は変わり者のアナーキストで、彼女に名前も戸籍も与えなかったのだという。 呼び名はあったが、毎日のように変えられた。そのおかげで黒蜥蜴は自分がいっぱいいるようにも全く存在しないようにも感じていた。 黒蜥蜴が時折自分を僕と呼ぶのも、両親が時として男の子の名前で自分を呼んだ名残りである。 潤一は黒蜥蜴が作戦を替えたため、自分がソファの中で窒息しそうになったことを怒っていた。 命を捧げる覚悟がなかったのかと黒蜥蜴は潤一を追い出そうとする。潤一はあわてて詫びを入れるのだった。 庄兵衛に早苗を「エジプトの星」と交換するという脅迫状が来た。 娘が本当に帰るのか不安がる庄兵衛に、明智は早苗の無事を約束する。 庄兵衛は指定の場所におもむき、黒蜥蜴にダイヤを渡す。 黒蜥蜴は庄兵衛を先に帰し、自分は安全を確かめて出るという。 庄兵衛が帰ると黒蜥蜴は清掃員の夫婦を呼びとめ、たちの悪い男につけられていると女に制服を交換してもらう。 黒蜥蜴は清掃員の男が明智の変装であることを見抜き、部下に殴らせて気絶させ連れ去る。発信器は取り外した。 クルーザーでアジトに向かう黒蜥蜴。「最後は僕が勝つ」今度は明智が啖呵を切る。 船上で青木は黒蜥蜴に愛を告白するが相手にされない。島で早苗が姿を消したという連絡が入った。 手術で人魚と化した女たちに、さすがの明智も驚く。 早苗の行方不明は明智の仕業ではなかった。アジトで捜索していないのは、黒蜥蜴の私室と手術室だけである。 青木が早苗を手術室に監禁していた。嫉妬に狂った青木は明智を渡さなければ早苗を手術するとい脅す。 早苗が改造されてしまえば、黒蜥蜴はダイヤと交換に早苗を返すという約束を果たせなくなる。黒蜥蜴は単身手術室に向かう。 危険を感じた明智も、潤一を連れて手術室を目指す。 狂った青木は、黒蜥蜴を人魚に改造する気だった。 手術室のドアは閉ざされていたが、外海に通じるハッチがあるはずだった。明智と潤一が走る。 二人がようやく入り口を見つけたとき、すでに手術は終わっていた。 黒蜥蜴の両足は一本の尾ヒレと化している。水に入れないと死んでしまうのだという。 目を覚ました黒蜥蜴は明智の名を呼ぶ。彼女は水槽ではなく、明智の手で海に放してほしいと頼む。 明智は願いを聞く。黒蜥蜴は水槽の人たちも海に放してほしいと言い残し、泳ぎ去っていった。 潤一も黒蜥蜴の後を追い波間に姿を消す。 「緑川さんは生きているわ。私の中で」早苗の手のひらにはトカゲの刺青が彫られていたのだった。 特殊メイクは原口智生。 「黒蜥蜴」は幾度も映像化されているから、視聴者もとっくにストーリーを知っているはずだ、と考えたのかもしれないが、ミステリー・ドラマで先にネタばらししながら進んでいく構成は間違っていると思う。 明智小五郎が絶対大丈夫だからと言いながら、まんまと早苗を誘拐されるのもまずい。捕まってアジトに行くのも格好悪いし。 ソファのトリックを変更したのはやむを得ない気がする。いずれにしても、やや強引だと思うが。 それに記憶が正しければ原作では黒蜥蜴に早苗を返す気はなかった気がする。命を張って返そうとするくらいなら、最初から直接ダイヤを盗む計画にした方が早かったんじゃないかと思えてくる。 髪の毛をメッシュにした明智小五郎はイケてないし、黒蜥蜴の服装センスも悪趣味。 黒蜥蜴の生い立ちが語られたのは初めてな気がする。異常な両親のため多重人格的になってしまった、という設定は風変わりで面白かったが、ドラマに活かせてなかったのが残念。 早苗が黒蜥蜴に魅せられていく、という展開も説得力がなかった。 突っ込みどころ満載の中でも、黒蜥蜴が人魚になるクライマックスが超異常。 展開として無茶苦茶だが、明智たちが入り口を捜してうろついている間に手術を終え、海で泳げる状態にまで回復しているのも驚天動地。 大昔に楳図かずおが書いた「半魚人」でさえ、かなり長い期間をかけて改造手術をしていたというのに。 |