原題 ; SUSPICION(1987)
 監督 ; アンドリュー・グリーブ
 脚本 ; ジョナサン・リン、バリー・レビンソン
 音楽 ; ラリー・グロスマン
 出演 ; アンソニー・アンドリュース、ジェーン・カーティン、ジョナサン・リン
アルフレッド・ヒッチコック監督「断崖」のテレフューチャー版リメイク、製作・脚本はバリー・レビンソン。
個人的にはオリジナル版も、ところどころ演出の冴えがあるものの腰くだけの印象があってヒッチコック作品中ではそれほど高く評価していない。
基本的にはケーリー・グラントとジョーン・フォンテーンのスター映画で、それゆえの確執もあったのだが、それは後述。
このリメイク版は、とにかく主演の二人に華がなく貧弱。演出も平板で見るべきものはほとんどない。
身内からもオールドミス扱いの地味なリナ(ジェーン・カーティン)はマクレイドロウ家の養女。
女たらしと評判のジョニー(アンソニー・アンドリュース)と知り合い結婚する。
ところが新婚旅行の費用、新居の家賃、秘書の給料すべてが借金でまかなわれていた。
ジョニーは2万ポンドの使途不明金を作って会社をクビになっていたが、親友ビーキー(ジョナサン・リン)と組んでリゾート開発で大儲けすると絵に描いたモチの夢想ばかりしている。
ビーキーはパリの酒場で賭けに負けた罰として、連れの男に大量の酒を飲まされ急死。
リナは姿を消した連れがジョニーだったのではないかと疑い始める。
しかもジョニーが友人の推理作家から偽装殺人の資料を借り出していることを知る。
さらにジョニーが生命保険を抵当に借金できないか調べていたことからリナは保険金殺人を恐れ始める。
体調を崩したリナにジョニーは夜毎ミルクを運んでくる。
リナはミルクに毒が仕込まれているのではと考えていた。
リナは実家で療養すると言い出し、ジョニーが車で送ることになる。
断崖を疾走しているとき、リナは強迫観念に駆られて車を停め飛び出すが、すべては思い過ごしだった。
ジョニーは改めてリナへの愛を告白し、真面目にやり直すことを誓うのだった。
というわけでオリジナルにかなり忠実なリメイクとなっている。
実はヒッチコックが考案した本当の結末が見られるかというのが唯一の楽しみだったのだが、それも叶わなかった。
余談その一=ジョニーがリナに飲ませるミルクを運んで階段を上るシーンで、毒入りの無気味さを出すためにヒッチコックがコップに電球を仕込んで仄かに光らせたことは有名。本作でも再現しているが、それほど効果はあげていない。]ファイル(第7シーズンあたりだったか)の1エピソードでも「断崖」にオマージュを捧げた作品があって、このシーンを再現していたが、やりすぎでミルクがピカピカ光っていて笑えた。
余談その二=ヒッチコックが「断崖」のために考えたオリジナルのラストは、ジョニーはやはり殺人者でリナ殺害を実行していたというもの。リナはミルクに毒が盛られていることに気づきながらも、愛するジョニーに逆らうことができない。リナは母親宛の手紙に全ての真相を書き記す。リナはミルクを運んできたジョニーに手紙の投函を頼んで息を引き取る。ラストシーンは口笛を吹きながら意気揚々と歩くジョニーが内容も知らずに手紙を投函する姿で終わる、というものだったらしい。こちらの方がスリラーとしては気の利いたエンディングと思うのだが、大スター・ケーリー・グラントに殺人者を演じさせることなど断じて出来ないという会社側の反対で没にせざるを得なかったという。
サスピション/断崖の恐怖