ムービー・マンスリー2003年5月
ドリーム・キャッチャー
「スタンド・バイ・ミー」を連想させる4人の友情や、モーガン・フリーマン演じる狂った指揮官など人間ドラマっぽくみせているけど、基本はスティーブン・キング好みのB級テイストSFホラー。一見おとなしそうなグレイが実は擬態だったりと面白いアイディアもあるが、確信犯的にチープな展開にしている部分も多い。ローレンス・カスダンの手堅い演出もあって、見ている間は楽しめる作品。
ボイス
昨今はやりの音響、照明、メイクで盛り上げる恐怖描写が効果を発揮しているが、基本的には古典的な怪談映画。因果応報が極めて明確に描かれている。演出はとても丁寧で好感が持てるが、一方では過去の不倫関係の説明など簡略化したほうがテンポが良かったかなと思ってしまう部分もあった。難しいものだ。
the eye(アイ)
これは好みの作品。明らかに「シックス・センス」の影響を受けているし、ブラック・ジャックを映画化した「瞳の中の訪問者」を思わせる部分もあった。超能力者の哀しみという点では本ホームページで紹介した「レザレクション/復活」に通じるものもある。こう書いてきたが、決してマネッコや類型に陥ってないのが本作の魅力。ラストに救いを持たせているので後味も良かった。
愛してる愛してない
オドレイ・トトゥ主演のサイコ・サスペンス。「アメリ」の好印象で売る方針なのかサイコ映画ということは伏せて公開された。茶目っ気たっぷりのトトゥはミスキャストかとも思ったが、その意外性を生かして、ひねった展開となっている。前半は健気なトトゥの恋愛ドラマとして始まり、何だかおかしいなと居心地の悪くなったところで真相が明らかにされていく。ストーリー的には詰めの甘い部分もあるが、なかなか楽しめた。
あずみ
近年、優れた時代劇が相次いで製作されているが、アクション映画としての時代劇には決定打がなかった。その分期待の大きかった「あずみ」だが、活劇としてはまずまず満足のいく出来となった。アクション・シーンは、時代劇経験の少ない若手たちとしては、すごく頑張っていると思う。ドラマ的には、長編である原作のさわりだけを簡略化して描いたため、物足りなさが残った。あずみの葛藤がより深く描かれる続編が作られると嬉しいのだが。ところでクライマックスの200人斬りだけど、あずみが3分の1くらい斬ったところで、仲間割れが始まり3分の1くらい減って、残りを美女丸が斬ったように見えた。ということは総勢600人近くいたのだろうか。
ぷりてぃ・ウーマン
笑って泣かせる喜劇という表現がぴったりの作品。おばあさんたちの劇団結成と、挫折して帰郷した脚本家の卵の再生が描かれる。元気なおばあさんたちの活躍を見ているだけで楽しくなる。一人が亡くなって唯一若い西田尚美が公演で老婆役を演じることになるという展開もうまいと思った。脇役が充実していることも魅力で、岸部一徳、風吹ジュン、西田尚美と好きな俳優が揃ったのも嬉しい。特に岸部一徳はNHK「のんのんばあとおれ」のとぼけた父親役を見て以来、岸田森亡き後、最も気になるバイプレイヤーとなっている。
サラマンダー
人類とサラマンダー(本編中でこの呼び名が使われているかどうか確認できなかった)の死闘を描いたSFアクション。それなりに見せる作品だが基本的にはB級映画。全世界の軍隊を撃破し、核兵器も歯が立たなかった不死の存在、というわりには簡単に死ぬ。一個小隊くらいの連中が「200匹以上殺した」とか言うし。オス竜とメス竜のスケール比も、なんだかいい加減。ぱっくり咥える場面では十倍くらい違うように見えるのだが、近距離で襲ってくると大差なく見える。
TAXi3
スピーディーなカーチェイスとおバカなギャグが売りのシリーズ第3弾。前2作もそこそこ程度の出来だったが、今回は大幅に減速してしまった。カーチェイスにゆるいリズムの音楽をかぶせて緊張感をなくす、演出意図の分からない場面もある。タクシーの雪上モードはビジュアル的には面白いのだが、やはりスピード感に欠ける。事件自体も何の盛り上がりもないまま解決してしまう。結局、一番インパクトがあったのはバイ・リンの悪趣味なメイクだった。
少女の髪どめ
一番印象的だったのは舞台となる建築現場。まるで廃墟の迷宮みたいに見えるし、使っているレンガやブロックは枠組みだけで空洞。壁を積み上げては崩したりしている。かなり大きなビルのようだが、こんなんで大丈夫なんだろうかと不安になってしまった。無償の愛を描いて清々しさの残る作品ではあるのだが、主人公がとらえどころのないキャラだし、ドラマが寡黙に過ぎて想いの伝わらない部分もあった。
ボウリング・フォー・コロンバイン
ドキュメンタリー映画は滅多に見ないのだが、この作品は題材と、その評価に強く惹かれた。銃社会というか銃殺社会と化したアメリカの闇に踏み込んだ作品で、多方面からアプローチして問題点を明らかにしていこうと試みている。銃火器販売の普及しすぎに抗議活動を行ったりもしているが、その一点が原因と決めつけたりはしていない。さらなる原因の一つとしてアメリカ人の心の奥底に潜む不信や恐怖感にもメスを入れる。男の中の男を演じ続けるチャールトン・ヘストンが「銃に弾が込めてあると少しだけ安心できるんだ」と気弱な本音をもらしたりもする。だが、恐怖心や不信感をあおって生け贄を求める集団の構図は、何もアメリカに限ったことではないという気もする。監督のルックスに似合わず、鋭くて奥行きの深い作品だった。
X-MEN2
豪華な顔ぶれが魅力の、コミック映画化シリーズ第2弾。主人公たちと、過激派超能力者マグニート、超能力者殲滅を企む大富豪の三つ巴の戦いが描かれ見飽きない。レクター博士みたいになってきたマグニートと腹心ミスティークの活躍が目立ち、人数の多い分X−MENのメンバーは見せ場が減ってわりを食う形となった。まだまだ謎の残るウルヴァリン、ジーン・グレイの消息、パイロのその後、など続編を期待させる部分を残しながらも、きっちりとまとまった作品になっているのはさすが。
8マイル
カーティス・ハンソンは、ラッセ・ハルストレム、ピーター・ジャクソン、エドワード・ズウィックと並んで、特に動向の気になる監督の一人。今回は白人ラッパーのサクセス・ストーリーかと思ったら大違い。主人公が本当にラップの世界に挑戦することを決意するまでを描いた苦くて鮮烈な青春ドラマだった。周囲の人間たちは口ではいろいろ言うが、何もしない。母親からして、その日暮らし。ちょっと羽振りのいい親友も町内ラップ・コンテストの司会者というにすぎない。見方を変えれば傷をなめ合って面白おかしく暮せる、居心地のいい世界。そこに残れば町内ラップ王としていい気でいられるが、羽ばたくためには地道に残業してスタジオ代を貯めなければならない。夢を追うためには、カッコ悪さを選択する勇気も必要と教えてくれる秀作。余談ながらこれを見て思い出したのは黒木和雄監督の「祭りの準備」。シナリオライターを目指して故郷を捨てる主人公と、指名手配になって逃亡しても地元から離れられない親友が印象的な名作だった。