ムービー・マンスリー2003年8月
ブロンド・ライフ
今回のアンジェリーナ・ジョリーはコメディエンヌとしての軽快さに欠け、前半が今ひとつ面白くならなかったが、後半ではドラマが盛り上がって持ち直し好印象の作品となった。どうして予言が外れたのか、という展開にひとひねりしてあると一層楽しくなったと思うのだが。このところ「摩天楼はバラ色に」や「ワーキング・ガール」のようなバリバリのサクセス・ストーリーが減り、故郷に帰って自分の生活を大切にして、仕事もそこそこ成功という作品が増えてきている気がする。でも、この手の作品でお気に入りなのは、けっこう前の「赤ちゃんはトップ・レディがお好き」だったりする。
茄子アンダルシアの夏
50分弱の小品アニメだが、完成度はなかなか高い。故郷、家族や友人たちを愛していながらも、兄と結婚する元恋人への想いから各地を転々とする自転車レーサーになった主人公の心情が、アニメとしては抑えたタッチの中によく出ていた。ここだけは全く抑えなかったラスト・スパートの描写も熱くて笑えた。自転車や観客の群集シーンもていねいに描き込まれていて感心した。
踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ
テレビ番組で人気を得て、映画でも好調に活躍中の監督というと頭に浮かぶのは堤幸彦監督と本作の本広克行監督。堤監督が変化球投手とすれば、本広監督は直球勝負という印象がある。今回も真摯な態度で捜査に臨む青島刑事が熱く描かれている。複数の事件が起こる中、乗り込んできたキャリア組との対立を中心に快調なテンポでストーリーが進んでいく。おそらく青島刑事にとっては、末端の警察官を消耗品として扱うキャリア組指揮官も、すべてを経営者の責任にして現実逃避する犯人たちも、同様に否定すべき存在なのではないだろうか。エンド・クレジットの中で本編では描かれなかった登場人物たちのプライベート・ショットが織り込まれているのも嬉しいサービスだった。
ハルク
アメリカでは絶大な人気を誇るヒーロー・ハルクだが、日本ではTVシリーズ「超人ハルク」で知られている程度。今回の映画化は、「グリーン・ディスティニー」で見事な伝奇ロマンを撮りあげたアン・リー監督作品としては、かなり不満の残る出来となった。もともとバーサーカーでアンチ・ヒーロー・タイプの主人公だから、ドラマ中心になるのは良いのだが、そのドラマが淡々としすぎてメリハリがなく盛り上がらない。CGのハルクは、コミックスのキャラクターと主演のエリック・バナをうまく融合して作ってあるのだが、いかにもCGぽくってルー・フェリグノが演じた実写版のほうが味わいがあった気がする。せっかくカメオ出演したフェリグノが一瞬しか写らないのは、そういう不満が噴出するのを避ける目的だったんじゃないかと思えてくる。アメコミの軽快さを出そうとしてか、画面の分割、転換に工夫がされているのは面白かった。
パイレーツ・オブ・カリビアン
海賊映画は難しい。「海賊大将」はちょっとヘンな印象だったし、レニー・ハーリン監督もかけ過ぎた予算ほどには効果を上げられなかった。ロマン・ポランスキー監督でさえ大失敗した。というわけで今回は、今まで見た海賊映画の中では一番面白かったと思う。メリハリの利いた演出で長丁場を乗り切っているし、キャスティングもいい。特にジョニー・デップはオカマっぽいしぐさだが実は女たらしで、女にひっぱたかれるのが繰り返しギャグになるというキャラクターをユーモラスに演じて楽しませてくれる。ところで、このストーリー展開だと主人公の父親は、クライマックスの時点に海底で死んだことになる。なんだか、とても気の毒。
HERO
この作品には、いろいろな面で圧倒された。映像は重厚で奥行きがあるし、配役も魅力的だ。特に達観した雰囲気のトニー・レオンと愛憎の炎を燃やすマギー・チャンの存在感は見事だし、ヴェテランに混じって見劣りしないチャン・ツイイーの熱い演技も良かった。場面ごとに色分けされた衣装も面白く、特に秦皇帝家臣たちの黒子のような扮装が印象的だった。ストーリーはアクション中心としながらも、一つの話が語られるたびに様相を変え、次第に真実を明らかにしていくという構成が「羅生門」を想起させた。実を言うとチャン・イーモウ作品は「あの子を探して」と「初恋の来た道」しか見ていないのだが、ぜひ全作品見たくなった。
コンフェッション
ジョージ・クルーニーの初監督作品。全米ワースト番組の有名プロデューサーが、実はCIAの暗殺者で、裏切り者による連続殺人に巻き込まれるという奇想天外なストーリーが、実在プロデューサーの自伝に基づく実話だって?どこまで本気か分からない、いかがわしさが魅力ではある。オバカでスタイリッシュ、主人公はインテリだが中身はただのスケベ。色彩も妙に人工的な感じで、モノクロにコンピューターで彩色した映画を思い出した。テーマはイミテーションの人生ということだろうか。セットをうまく使った場面転換も面白かった。終盤、テンションが下がってしまったのが残念。
呪怨2
ショック・シーン・オン・パレードが売りのシリーズ第4弾。とにかく一軒の家に関わった人々が、片っぱしからとり殺されていく。このシリーズ、確かに怖いことは怖いのだが、ストーリーに起承転結がないので、個人的にはどうも盛り上がらない。見終わると印象が薄れてしまう。今回は比較的ストーリー性のあるほうだが、それでも大味で、時間の経過も前後して描かれる部分が多い。残念なことに、ちょっとマンネリ気味というか、これまでの作品ほどには怖さを感じなかった。
地獄甲子園
漫☆画太郎原作のバカ大爆発映画。原作は過激な描写とストーリー性の破壊が作風なので、映画化に当たっては後半がほとんどオリジナルとなっている。死んでも生き返る能天気な内容となり、多少アナーキーさが薄れたとはいえ、かなり笑えた。野球映画なのだが試合のシーンはなく、必殺の魔球をめぐる物語となっているが、復活した魔球は投げられることがない。乱闘するだけなのに九人にこだわったクライマックスには野球にかける情熱を感じた。背後から突然バットを取り出す「DEAD OR ALIVE」をパクッたような繰り返しギャグははずしたが、最終兵器のケースを延々と台車で運んでくるシーンは爆笑だった。