ムービー・マンスリー2003年9月
ゲロッパ!
井筒和幸監督は'99年、私にとっての邦画ベストワンとワーストワンの両方を作った。ベストが「のど自慢」でワーストがその続編「ビッグ・ショー!ハワイに唄えば」だった。今回は幅広いキャスティングで楽しめる作品となった。娘に会いたい主人公、主人公にジェームズ・ブラウンを会わせようとする兄弟分と子分、そっくりさんショーを成功させようとする娘、という面々に謎のフィルムを追う内閣調査室員まで入り乱れたストーリーを、きっちりまとめて見せたのはさすが。演技面では、やっぱり西田敏行と岸部一徳のファンキーぶりが光っていた。
天使の牙
大沢在昌原作のハード・アクション。原作は未読なのだが、かなりの長編をまとめたたためか映画のストーリーは少々大味な印象となってしまった。萩原健一が特異なキャラクターの犯罪組織首領を演じるが、行動がエキセントリックすぎてヘンな人物になってしまった気がする。個人的には頭脳の移植手術より、嶋田久作のあの顔というか顔の骨格を整形手術して他人に成りすましたり他人が成り代わったりするほうが不可能と感じた。
ファム・ファタール
ブライアン・デ・パルマ監督久々の新作だが、演出に勢いがなく緊張感に欠けるため、凝ったストーリー展開に無理を感じてしまう部分があった。カメラワークは流麗だし、坂本隆一の音楽はヒッチコック映画風で悪くないのだが。結末は意外で、それなりに面白かったが、よく考えると昔よく使っていた手法のヴァリエーションという気がする。ラストのワンカットは鮮やかで気分よく見終わることができた。
ドラゴンヘッド
原因は最後まで明かされないが、とにかく崩壊した日本を舞台にしたサバイバル映画。「マッドマックス2」以降文明崩壊後を舞台とした近未来ドラマは山ほど作られたが、低予算で荒廃感に欠けるものばかりだった。この作品は、映像的には非常に優れていると思う。主人公二人以外の登場人物は、発狂しているか感情を失っているかのどちらかで、現れては消えていく。見ているうちに、実は死んでいるのは主人公二人で、果てることのない地獄めぐりに落ち込んでいるのではないかと思えてくる。状況はさらに絶望的になって終わり、エンド・クレジットに陽光が描かれても全然安心できない。キャラクターの描き方や演技に今ひとつ魅力がなく、感情移入しづらいのが返って幸いし、見終わっても意外と暗い気分にならないという皮肉な効果があった。
28日後
悪くはないのだが、決定的な魅力には欠けているように感じた。ゾンビは人間が開発したウィルスによるものだし、生き残った軍人たちは狂気に取りつかれ異常な行動に走っている。人間の愚かさがテーマということなのだろうか。古くなったビデオを思わせる粒子の荒れた画面で独特な雰囲気を出し、ラストだけタッチを変えているが、それほどの効果はあげていない。アメリカでは公開2週目からラストが差し替えられたと伝えられたが、オリジナルはどのようなエンディングだったのだろうか。
ブラック・マスク2
ジェット・リーから主役を新人に変えての第2作。「X-MEN」+「ダーク・エンジェル」あたりを狙った企画なのだろうが、出来上がったのは悪の組織を脱出して正義のために戦う改造人間VS.動物系変身レスラー怪人という、まんま昔の仮面ライダーという内容。ツイ・ハーク、ウエン・ユーピンという顔合わせにしては、ワイヤ・アクションもCGも中途半端。ドラマ面も盛り上がらずに終始した。最後の陰謀も「X-MEN」1作目をけち臭くしたようなもので、腰砕け。元未成年ポルノ・クイーン、トレイシー・(エリザベス)・ローズも出稼ぎで参戦。儲け役となってもいいキャラだったのだが、メリハリのない演出で空振り。トウがたったなあという印象で終わってしまった。
座頭市
北野武監督作品としては、これまでよりも娯楽性が強く、殺伐としたストーリーではあるのだが、ユーモアにあふれ魅力に満ちた作品となった。悪役が子供に優しかったりする一面を描いているのも面白かった。音楽は常連の久石譲から鈴木慶一に交代。久石メロディーほどの味わいはないが、パーカッションと擬音を組み合わせたり、群集タップダンスが繰り広げられたりと、リズミカルで楽しいものになっている。黒澤明との比較という記事があったみたいだが、鎧を着て走り続けるバカ、というイメージは「どですかでん」の少年に対するオマージュなのだろうか。目を開けていたほうが足元が危ないというオチも可笑しかった。
閉ざされた森
証言を得るたびに話の内容が食い違ってくるという設定は「羅生門」を思わせるが月とスッポン。入り組んだストーリーを整理しきれていない。ストーリーが進むにつれ、あの男は何でこんな偽証をしたのか、という疑問がふくらむのだが、捜査を混乱させるための一言で片づけられてしまい、説得力がない。森の中で本当に起こったことが映像として描かれないのも、がっかり。そのためスマートに決めるはずのオチも空振りに終わってしまった。今回はトラボルタも、ちょっと精彩に欠けた。
私は「うつ依存症」の女
実在のジャーナリストによる伝記小説を映画化したものらしい。クリスティーナ・リッチ、ジェシカ・ラング、アン・ヘッシュという年代の違う三人の演技派女優の力で見せてしまう作品。特にクリスティーナ・リッチは、両親の離婚以来そううつ症で、現実逃避のため虚言癖と妄想癖があり、時として暴走するという困った状態にあるヒロインを好演。対極ともいえるクールな女医を演じたアン・ヘッシュも印象的だった。いくつかの要因から主人公は快方に向かうのだが、最も効果をあげたのが抗うつ剤だったというのが現代アメリカらしいという気がした。