ムービー・マンスリー2003年10月
シモーヌ
人気女優に逃げられクビになった監督がCGで女優を作り上げてしまう騒動記をブラック・ユーモア感覚で描いたコメディ。マスコミの前どころか撮影現場にも主演女優が姿を現さないという異常事態が発生するが、大人気女優だからそれでも通っちゃう。実在しないトップ・スターに翻弄される監督をアル・パチーノが熱演。脇の顔ぶれも良く見応えのある作品となった。主人公が実在+非実在の女たちにいいように操られていく様が可笑しくも哀しい。
SWAT
TV人気シリーズの映画化、というか劇中でオリジナルの番組を見てたりテーマ曲を口ずさんだりと、テレビドラマに憧れてSWATを目指そうとした連中という印象のドラマになっている。SWAT新チームの結成と、そのトレーニング、そして小さな事件でも活躍というエピソードがテンポ良く描かれ、平行して交通違反で捕まった男が国際指名手配の大物だったという事件が描かれていく。登場人物の描き方も明快で、アクション・シーンも迫力があり正統派ポリス・アクションの佳作となっている。クライマックスは「ガントレット」みたいに壮絶なアクションが展開するかと思ったのだが、意外と渋かった。ただ、二度のチャンスがありながら、犯人が主人公を殺さないという展開は不自然で残念だった。
バリスティック
アントニオ・バンデラスとルーシー・リューという個性派二人を起用して、これほど凡庸な作品に仕上げるとは、監督と脚本家はある意味で只者ではないのかもしれない。第一に悪役がショボ過ぎるし、説得力のないストーリーをもったいぶって描き必要以上に分かりづらくしている。映像的にもスタイリッシュに決まらず、どこか野暮ったい。ポスターのイメージとか、なかなか格好よくて期待していたのにガッカリ。ルーシー・リューは本作が今年5本目の日本公開作。6本目となる「キル・ビル」に期待している。
マッチスティック・メン
極度な潔癖症にしてヘヴィ・スモーカー(吸殻と灰だけは気にならないらしい)の詐欺師という難儀な主人公の再生物語。リドリー・スコット作品としては珍しく軽妙なタッチで描かれ魅力的な作品に仕上がっている。詐欺師の親子というと名作「ペーパー・ムーン」を思い出すが、こちらは相当ひねってあり、ちょっとブラック。ストーリーの仕掛けは早い時点で分かってしまうしラストの落ちも見当つく、それでも十分楽しめるのは監督による正攻法な演出のたまものだろう。下手に観客を引っ掛けようとしていないので堂々とした作品になっている。皮肉な結末をエピローグで爽やかな印象にまとめるあたり、さすがはヴェテラン監督と感心した。
レッド・サイレン
政財界にコネを持ち犯罪組織を仕切って殺人も平気という性格超異常の母親と娘+テロリスト+女刑事が闘うというフランス製サスペンス・アクション。冒頭の戦時中という描写でちょっと迷ってしまった。第二次世界大戦にしては片田舎の道がやけに立派に舗装してあるし主人公の年齢も合わないと思ったのだが、どうやらボスニア戦争だったらしい。本筋はシャープな映像と音楽に乗せてテンポ良く進み楽しませてくれる。ただ、母親の行動が「天使の牙」のショーケンと同様エキセントリックすぎて説得力に欠ける展開となってしまった部分があるのは残念。
インファナル・アフェア
香港製ノワールの快作。麻薬組織と警察、それぞれに潜入した男の駆け引きが緊張感たっぷりに描かれていく。特に追い詰められていく主人公に扮したトニー・レオンの焦燥感に満ちた演技に惹きつけられた。スパイがいると分かったチームの中から内部調査間を選任するのは、どうもありえなさそうに思えてしまうが、その点以外はストーリー構成もしっかりしている。タイプは違うがアンダーカバー物としては「フェイク」以来の出来ではないだろうか。
リーグ・オブ・レジェンド
有名キャラクターが一同に会して戦ったら、というヒーロー版魔界転生。ヴェニスのシークエンスとか部分的に説得力のない展開もあるものの、全体のストーリーは意外ときっちり作ってある。ヒーローたちの人選にも理由付けがされているし、Mの正体もこの作品らしいもので面白かった。とはいえ、あの厭世的なネモ船長がうって変わった好人物として描かれ、しかも剣と格闘技の達人というのはどんなものか。ジキル=ハイドは小型版ハルクみたいだし(今年の映画版ハルクよりはキャラが立っていたとは思うが)。ドリアン・グレイなんて今どきどれだけの人が知っているのか(これはアラン・クォーターメインも同様だが、「インディ・ジョーンズ」のヒットに当て込んだリチャード・チェンバレンのシリーズがあったのでまだしもだろう)。こんなこと考えながらけっこう楽しめたのだから、製作意図は成功したといえるのだろう。続編を作るなら口やかましいチャレンジャー教授が参加してさらに大混乱というのはどうだろうか。
陰陽師U
野村萬斎がハマリ役の第二弾。伊藤英明も好演、敵役の中井喜一も貫禄のあるところを見せている。深田恭子は時代劇ではちょっと力不足か。日本神話を題材に取り壮大なストーリーのはずだが、今ひとつ大作感がなく、ドラマとしても盛り上がらない。映像的にスケールの大きさを感じさせないのが致命的だった。背景が、のっぺりとした印象で奥行きを感じさせない場面が多かった。次回作を作るなら無理して大規模な話にしないで、日本的幽玄さを追求してみたらいいのではないかと思った。
妖夜廻廊
東京国際ファンタスティック映画祭「アジアン坩堝ナイト」第一弾はダニエル・ウー製作・主演による香港製実験映画。意欲作なのは伝わってくるが、面白いかというと、迷ってしまう作品。階上のティーチ・インでも言及されていたが、確かにこれまでの香港映画にはないヨーロピアン・テイストの雰囲気になっていると思う。ダニエル・ウーはロマン・ポランスキーの名を上げていたが、フェリーニも意識しているのではないかと思う。でも、ダリオ・アルジェントやジェス・フランコになっちゃったような部分もあり、全体的には未整理な印象の作品となった。
悪夢
第二弾は韓国製サイキック・ホラー。「ボイス」の監督のデビュー作だそうで、ここでも大きな効果音や音楽で恐がらせる手法を多く用いている。ただ、処女作とあって必ずしも成功していないのが残念。ストーリー展開もかなり苦しい。特に謎を解き明かすビデオ画像が、一人では絶対に撮れない画面構成で、しかもきっちり編集してあるのは興ざめだった。
ワン・テイク・オンリー
第三弾はタイ製チンピラ映画。気が弱くてケンカも弱いチンピラと童顔の娼婦の恋愛と破滅が軽いタッチで綴られていく。主役の二人はなかなかいいし、作品自体も悪くないのだが、テンポ良く流れすぎてしまい情感が盛り上がらないのがちょっと残念。ラストは良い話として綺麗にまとめたが、無理して持ってきたような印象でなんだかしっくり来なかった。