ムービー・マンスリー2003年11月
ティアーズ・オブ・ザ・サン
正統派の冒険映画。軍の命令に違反して難民たちとともに国境を目指す特殊部隊隊員たちの活躍が力強く描かれている。ブルース・ウィルスは、出る作品にムラがあるのだが基本的には好きな俳優。今回は深みのある演技で渋く見せてくれる。モニカ・ベルッチも好演。職業軍人だった主人公が意思をひるがえすきっかけが明確に描かれていたら、より迫力ある作品になっていたと思う。実は難民に秘密があったりしてストーリーも面白い。悪役側がもう少し描きこまれていると良かったのだが。ラストはちょっぴり「七人の侍」を思わせた。
キル・ビルVol.1
タランティーノ監督やりたい放題のバカ大爆発映画。オープニングに名曲「バン・バン」のメランコリックなバージョンが流れて、まず引き込まれたのだが、開巻「鬼警部アイアンサイド」テーマ曲の使い方からして大爆笑。今回の音楽の使い方は、ピンク・フロイドから「黒いジャガー」まで好き放題に使っていた無法時代の香港カンフー映画へのオマージュという気がした。ダリル・ハンナが眼帯というのも香港っぽい趣味だし。アニメで描かれるイシイの半生も可笑しいが、日本という名の異世界に舞台を移してからはさらにフル・スロットル状態。この日本では日本刀が常備品らしく飛行機内も持ち込み自由。手前にも日本刀が写りこんでいる機内カットがあったので、一般的な携帯品らしい。数十人と対決しても銃を撃とうなんて不心得者は一人もいない。ユマ・サーマンとルーシー・リューが片言の日本語で対決するのだから、脳ミソがメンタイコになるという古いフレーズを思い出してしまった。障子を開けると料亭の庭園だけが突然の雪景色。こんな場面転換やってサマになるのはタランティーノと寺山修司くらいではないかと思った。今回は結局ストーリー説明のないまま終わるが、第2部でもこのパワーを維持できるか楽しみ。主人公の名前がピー音で消されるのは意味不明だが、この意味も次回で明かされることを期待している。
サンタ・スモークス
自主制作映画という印象のチャーミングな小品と言いたいのだが、それにしても主人公に魅力がなさ過ぎる。「タクシー・ドライバー」の下手なマネばかりしているヘボ役者で、サンタのバイトをしても全くやる気がない。サンタ姿でタバコを吸って通行人とケンカして、金があれば盗んでしまう。監督によると、ダメ男が少しだけ成長する姿が描きたかったらしいが、少しも成長したようには見えない。その分、周囲の人物たちが魅力的に見えるという皮肉な結果になっている。
オーメン
主演はタイのアイドル歌手3人組というオカルト・サスペンス。ストーリーの根本的な部分に辻つまの合わない部分があるのが残念だが、演出に力があるのでそれほど気にならずにすんだ。テンポの良い展開で見せるし、登場人物も魅力的に描かれている。今回は製作・脚本を手がけたパン兄弟の作品は、どれも後味の良いエンタテインメントを目指している。「ワン・テイク・オンリー」はちょっと無理があったが、いつか傑作をものにしてくれるんじゃないかと思う。

昔別れた妻の顔が思い出せなくなった初老の男と、脳手術を受けると記憶を失ってしまうかもしれない若者が陸路で鹿児島を目指すロード・ムービーの秀作。登場人物が皆魅力的に描かれ、脇の出演者も厚みがある。特に大沢たかおは、これまで見た中で一番良い演技をしていると思う。また、思い切り走らされた樋口可南子も敢闘賞もの。切羽詰った状況は決して変わらないが、それでも登場人物たちが少しずつ理解を深め、人生の歓びを再発見していく展開は「マイ・ルーム」にも共通した印象があり、感動的だった。
恋は邪魔者
1962年を舞台にウーマンリブの教祖的存在のなった女流作家とプレイボーイで鳴らした記者の恋の駆け引きを描いた艶笑コメディ。音楽、ファッション、セットや書割までオールド・ファッションでまとめていることが特徴。レニー・ゼルウィガーは相変わらずチャーミングだし、ユアン・マクレガーはこれまでのイメージをくつがえした色男ぶりを発揮している。ひねりすぎたともいえる終盤は、人によってはやりすぎと思えるかもしれないが、個人的にはけっこう楽しめた。テレビ版「おかしな二人」のトニー・ランドールが老獪な会長役で顔を見せていたのも懐かしかった。
東京ゴッドファーザーズ
クリスマス・イブに捨て子を拾った三人のホームレスに襲いかかる数奇な出来事、というわけでガイ・リッチー顔負けの奇妙なめぐり合わせの物語が展開する。ハイテンポなストーリー展開の中に家族の絆というテーマがきっちりと描かれた脚本は見事と思う。絵もていねいに書き込めれものすごくリアル、逆に実写でも良かったのではと思わせてしまうくらいだが、表情のアクションでアニメならではの魅力を出していた。「座頭市」に続いて鈴木慶一の音楽センスも光っている。ハリウッドがリメイクしたがりそうな作品と思ったら、すでに世界公開も決まりアカデミー選考の作品にも残っているとか。ジャパニメーションの評価をさらに上げてくれることを願っている。
昭和歌謡大全集
オバサンVS.少年、ということなのだが女優陣はオバサン・パワーを感じさせるには上品すぎるし、男優陣は少年というにはトウが立ち過ぎている。まあ、ちょっと前まではイケていたのに曲がり角に来て焦燥感を募らせている女性たちと、社会人になっても方向性が見つからず鬱屈している男性たちということなのだろうか。古田新太、原田芳雄、市川実和子らの脇役陣がユニークな個性を見せているし、オバサン化の象徴としてピップエレキバンを用いたりと面白い部分もあるのだが、ドラマ自体は今ひとつ盛り上がらない。主役たち全員が最初から殺人に禁忌を持たない狂った存在として登場するので、感情面で過激にエスカレートしていく展開とならず、見ている側のテンションも上がってこない。武器だけがエスカレートすれば面白くなるわけではない。ラストの「また逢う日まで」はエンド・クレジットではなく爆発シーンにかぶせた方が「博士の異常な愛情」のオマージュっぽくなって面白かったんじゃないかと思う。
g@me
多少説得力のない展開の部分もあるが、最後まで飽きさせずに見せるロマンティック・サスペンス。悪くはないのだが小さくまとまりすぎて面白みに欠けてしまった気がする。サスペンスを持続させるためには登場人物の感情の動きを隠さねばならず、感情の起伏が見ている側に伝わらなくなるというジレンマに陥っている。ストーリー展開に併せて登場人物の感情を動かしているように感じさせてしまうのも欠点。