ムービー・マンスリー2003年12月
シャンハイナイト
ジャッキー・チェン主演作は安定して面白いのだが、これはという決定打に欠ける作品が多いことも確か。本作も楽しく見ていられるし、スチャラカすぎる展開もジャッキー・チェンなら許せるという気分になってくる。でも、そこまでしか評価できない。今回は二人の敵を強く設定したのはいいけれど、そのため倒し方が格闘アクションとしてはスッキリしないものになってしまった。コナン・ドイルやチャーリー・チャップリンを登場させた遊びも、それほど効果をあげていない。
フォーンブース
細部まできっちりと作られたサスペンス映画ではある。逆探知とか銃弾とか、見ていて気になった点に、ちゃんと説明が用意されていた。極限状態で自分の非を認める主人公や冷静に状況を分析して真相に近づいていく刑事にも説得力がある。にもかかわらず見終わって釈然としない気分になってしまった。犯人の人物像が見えてこないためだ。主人公の態度が尊大で仕事のためなら嘘もつくし女優と浮気したいと思っている。褒められた人物じゃないけど、その程度のことのために用意周到な罠を準備して、赤の他人を殺す非道さ。犯人には狂気を感じるよりも、実はマヌケなんじゃないのという印象を持ってしまった。
幸福の鐘
進境著しい寺島進の(確か)主演第二作。失業して歩く続ける男が、多様な人物の生死に立ち会っていくという一種のロード・ムービー。主人公がラスト以外では全く口を利かないという実験映画の趣きもある。配役も多彩で見ていて飽きないのだが、主人公の心境の変遷が掴みにくく感じた。「幸福の鐘(金)」というタイトルが逆説的なもので、人の人生の幸せは金の中にはないんだ、というテーマのように感じたが、イマイチはっきりしない。高額の当選宝くじは、その場では換金してくれないはずなのだが、寓話的物語ということなのだろう。
マトリックス レボリューションズ
相変わらず映像的にはすごいのだが、このシリーズ結局はその映像に見合うだけのストーリーを作り出せずに終わってしまった。質より量という印象のスミスが最後の敵、というのが先ず物足りないし、マトリックス世界そのものを脅かす存在になっているという説得力に欠ける。そのためクライマックスが迫力不足になってしまった。ラストで機械も平和を望んでいた、みたいな描写があるのもマイナス。それじゃ、これまでの闘いは何だったのって気になってしまう。
アンダーワールド
ヴァンパイアと人狼、宿命のの闘いを描いたアクション・ホラー。色褪せた感じの独特な色調の画面が雰囲気を出しているが、凝った編集はさほど効果をあげなかった。というより、もったいぶった演出がせっかくのストーリーを盛り上がりの欠けるものにしてしまった気がする。普通の監督がタランティーノやガイ・リッチーの真似をするのは、なかなか難しい。正攻法で描いたほうが、もっと面白くなったのではないかと思う。戦いが銃撃戦中心なのも少々雰囲気に欠けた。
あたしんち
けらえいこの原作は、日常のちょっとした出来事と風変わりだけどどこかにいそうな登場人物のカラミが絶妙だったりする。映画化に当たっては大事件に遭遇する「くれよんしんちゃん」方式をとらず、これまで幾度使われたか分からない「おれがあいつで、あいつがおれで」ネタで日常にこだわった作品となった。昨年は同じ母娘入れ替わりが「フリーキー・フライデイ」リメイクとしてハリウッドで製作されたくらいで、新鮮さは感じられないテーマとなっている。ただし作り方そのものは非常に丁寧で、コミカルな中に親子の理解、家族の絆、友情の尊さ、そしてなにげない日常生活がいかにかけがいのないものか、といった事柄がきっちり描かれている。残念なのは二人の声がどうなっているのか、はっきりしなかったこと。原作ファンとしては、一番マトモそうでかなりエキセントリックなユズの生態がもっと描かれていれば嬉しかったのだが。
1980
1980年を舞台に、一世代ずつ年の違う三人の異母姉妹をコミカルに描いている。1980年といえば、高度成長期は石油ショックで終わり、バブル時代はまだ先、かといって不況でもない中途半端な時代。流行りの音楽はテクノ、シンセサイザーが一般的な楽器として使われ始めた時期でもあった。でドラマの方は、なかなか面白いのだが、必ずしもその時代を繁栄しているという印象はなかった。もしかしたら時代性を感じさせない時期だったのかもしれないが。主人公は三人とも好演しているし、演出のテンポも悪くないのだが、なにか物足りない作品。年の離れた異母姉妹という設定がもっと生かされていれば良かったのでは。串田和美演じるとぼけた父親が面白かった。
ブルース・オールマイティ
ツキのなさを周囲のせいばかりにしている自己中心的な男が神の力を手に入れたら、というコメディ。ジム・キャリーの演技も演出のテンポも明快で悪くないのだが、主人公そのものはやっぱり魅力に欠ける。脚本が弱い気がする。モーガン・フリーマン、ジェニファー・アニストンに犬も好演なのに惜しい。主人公がもっともっと悪戦苦闘すれば面白かったが、床掃除すれば全部オッケーってのは虫が良すぎる。ジム・キャリー作品としては「ライアー・ライアー」に近い持ち味と思うのだが、あちらのほうが遥かに味わいがあった。舌がもつれるニュースキャスターのスティーヴ・キャレルには大笑いした。
ファインディング・ニモ
予告編が丁寧にストーリーを追っていたので、見る前に20回くらい見た気分になっていた作品。実際見てみると、やっぱり21回目に見たような気分だったのも事実だが、それでも十分楽しめたのは、キャラクター作りのうまさによるものだろう。登場キャラクターは豊富で個性に富んでおり見事。ディズニーというかピクサーの底力を感じさせられた。特にアルツハイマー気味なドリーの能天気な暴走ぶりには大笑いした。大海原と水槽内の冒険を交互に描いていく演出の手際もうまい。冒頭の悲劇以外は軽いタッチでまとめられており、気軽に楽しめる作品となっている。
フル・フロンタル
スティーヴン・ソダーバーグが「ソラリス」に続いて討ち死にした作品。なぜか劇中劇だけが鮮明な映像で、本筋のドラマはピンボケ画面、凝ったつもりだろうがはずしている。せっかく良い顔ぶれなのに表情もよく分からない。登場人物の描き方が中途半端で群集ドラマとしての面白さにも欠けてしまった。そのためプロデューサー以外は皆一応のハッピーエンドになってもあまり嬉しく感じなかった。ラストの展開も荒っぽいし。劇中の映画「ランデヴー」もなんかつまならそう。