ムービー・マンスリー2004年1月
MUSA
ワイア・アクションを使わない本格的な剣戟アクションで白熱の戦闘が描かれている。思わず惹きつけられてラストまで一気に見てしまった。功をあせって裏目に出てばかりの隊長や勝気な姫君は、よく分かるキャラクターなのだが、主人公の性格がつかめないのが難点。文句なしに格好良いのだが、感情移入が出来ない。反感を持つ漢人たちと廃墟となった要塞に取り残された姫君は生還できるのだろうか。
コール
前半は、同じ手口で完全犯罪を重ねる誘拐のプロ集団、というふれ込みのわりには、ずさんな犯行で、どうもピンとこない。実は復讐だったと明かされる後半は少し面白くなるが、前半とはチグハグな印象が残った。クライマックスも荒っぽくて、自分の子供が乗っていることを忘れているんじゃないかと思ってしまった。ダコタ・ファニングを始め、配役は悪くないのだが。
すべては愛のために
魅力的なタラコクチビルというと思い出すのはアンジェリーナ・ジョリーと「銃夢」のガリィ。軽妙な演技は苦手なようで前作「ブロンド・ライフ」はイマイチだったが、今回は難民救済と不倫に、文字通り命を賭ける女性を熱演している(お気の毒にもラジー賞ワースト主演女優賞ノミネート)。難民に関する描写は、問題提起にはなっているかとは思うのだが、年代記として描かれるので一つ一つのエピソードは掘り下げが浅く中途半端。結局は不倫ドラマだし。メロドラマの主人公にしては、クライブ・オーウェン扮する医師に魅力が欠けているのも残念。
半落ち
原作は読んでいないのだが、映画を見た印象では本格ミステリーというよりは浅田次郎に通じる人情物ではないかと思う。寺尾聡は相変わらず良いし、脇の登場人物も国村隼や石橋蓮司が演じる儲け役だけでなく、田辺誠一や斉藤洋介が演じたちょっと嫌な役まで、きっちりと描かれて存在感がある。主人公に対し一面的に同情して描くのではなく、アンチテーゼとして吉岡秀隆が演じる判事の家庭を描くことによって、作品に厚みを持たせるのに成功している。
ミスティック・リバー
クリント・イーストウッドの監督としての底力を感じさせる作品ではある。3人のホワイト・トラッシュを中心にアメリカの暗部を暴いたドラマが繰り広げられ、とにかく陰陰滅滅として暗い気分にさせられる。結末も救いが無いし。家族を思ってのことなら間違って人殺しをしても正義よ、と無茶苦茶を言う妻が登場するが、これがアメリカの本音か?脚本ブライアン・ヒルゲランドのわりには事件の真相に説得力が無いのが残念。
ラスト・サムライ
前作「マーシャル・ロー」では、ストーリーを追うのに手一杯だったエドワード・ズウィック監督が、今回は得意とする骨太なドラマ演出で本領を発揮した。舞台となるのは「キル・ビルVol.1」とはまた違う架空の国「日本」。良くも悪くも本来の日本とは違うので、好みは分かれるかも知れない。移り変わる時代とともに殉じようと死に場所を求める侍と、彼とともに戦いながら自分の生きる場所を見出していく主人公がスケール感豊かに描き出されている。ハリウッド大作だから、「ニンジャ」「ハラキリ」も落としていない。
アイデン&ティティ
地元高円寺の風景から始まる映画だが、残念ながら主人公に全く魅力を感じなかった。ロックの魂を叫ぶが、若い頃の鶴瓶と南こうせつを足したようなキャラはせいぜい四畳半フォークという印象。いつもウジウジして、そのくせ嫌なことは周囲のせいにして噛みつくのは得意。恋人に受けるため人生を歩んでいるように見え、主人公が登場人物の中で一番アイデンティティーを感じさせない。もしかしたら本当は存在していなくて、ヒロインの想像が生み出した影のような存在なのでは、と思えるほど。中村獅童の役を主人公にした方が面白くなったのではないかと思う。