ムービー・マンスリー2004年2月
悪霊喰
ブライアン・ヘルゲラント脚本・監督による、かなり宗教色の強いオカルト映画。悪霊喰いは作中では罪食いで、死に際に司祭による秘儀を受けられない人間の罪を自分に取り込み、その人を天国に送る能力。という設定からして、どうも馴染みにくい。不慮の死を迎えた人は全て天国から閉め出されてしまうという宗教観なのだろうか。雰囲気はあるのだが、ドラマ自体はテンポが悪く、ストーリーも分かりにくい。
バレット・モンク
チョウ・ユンファ主演のスチャラカ冒険アクション。コミックの映画化らしい。同じスチャラカでもジャッキー・チェン主演だと軽快さが強調されるのに対し、チョウ・ユンファが演じると重厚感が出てくる。アクションは切れるのに中途半端な位置にいるジェット・リーは少し損しているかも。細かいストーリーはいい加減で、ロシアン・マフィアの娘が何でショボいチンピラとつるんでいたのが理由不明。善人のスリという設定も無理を感じる。でもテンポが良いので、見ている間はそれほど気にせずに楽しめた。不老の孤独も二人なら寂しくないというラストも嬉しかった。
着信アリ
超異常の多作を誇る三池監督のホラー映画。遊びすぎてヘンな印象になる作品も多いのだが、今回は柴崎コウ主演のメジャー作品ということでわりと普通。派手な効果音で恐怖感をあおり、見ている間は一応楽しめる作品。殺すのが目的でないなら、前半の連続する惨殺は何故、とか疑問点は多い。脈絡がないから恐いんだ、と言われればそれまでだけど。ラストは憑依された無気味感をもっと明確に表現した方が良かった気がする。
解夏
なかなか美しい日本映画に仕上がっている。失明しつつある不安の中で生きていく男と、彼を支える周囲の人間たちが、瑞々しい映像の中で描かれていく。視力が衰える、というテーマは病気ではなくても年齢を感じる今日この頃では身につまされるところがあった。このところ好調の大沢たかおも良かったが、しなやかで強い女性を演じる石田ゆり子が魅力的。母親役の富司純子や、久しぶりに見た松村達夫も良い味を出している。和菓子屋での富司純子と渡辺えり子とのユーモラスなやりとりも、絶妙なアクセントとなっていた。
ジョゼと虎と魚たち
単純なハッピー・エンドではないけれど見終わって清々しさの残る力強い作品だった。ヒロイン・ジョゼと外の世界との架け橋になるフワフワした好青年を演じた妻夫木聡も良かったが、圧倒的なのは存在感にあふれた池脇千鶴の演技。どこか達観したようでいて、激しい情熱を秘めた主人公を見事に演じている。青年が逃げたのは、障害のためというより、情念に圧倒されてしまったためではないかと思える。虎を見ることはできたが、本物の魚を見ることは出来なかったジョゼだけれど、外の世界に出てこれから多くのものを見るのだと思う。
ルビー&カンタン
おバカ泥棒カンタンと暗黒街に生きるクールな男ルビーの腐れ縁を描いた爆笑コメディー。内容も楽しいが、フランスの2大俳優ジェラール・ドパルデューとジャン・レノのとぼけた演技が、更に笑いの渦を広げている。行き当たりばったりの逃亡に翻弄される警察の慌てぶりも面白いし、ブーブークッションや牛の鳴き声オモチャなんて古典的な小道具を使ってしっかり笑わせるのも大したものだと思う。大事件を巻き起こした2人がシャバに出られる日は来るのか?この後の話が観たくなる作品だった。
シービスケット
挫折と復活を繰り返しながら栄光へと登りつめていく、オーナーと騎手と馬と調教師の物語。実話に基づいた典型的なサクセス・ストーリーだが、抑制の効いた丁寧なタッチで描かれ、なかなかの感動作に仕上がっている。自動車で財を成した男が、その自動車で息子を失い家庭が崩壊する。その主人公が馬主となって再起するのだが、今度は新しい家族とも言うべき騎手が危機に直面する。といった人生の皮肉を乗り越えていく脚本が秀逸だった。キャスティングも良い。
タイムライン
楽しめる作品ではあるが、大作のわりに少々こじんまりとした印象の作品。という点で昨年の「ザ・コア」にちょっと似ているかも。原作マイケル・クライトンということで、ひねった面白さがあり、ラストには遊び心を感じられる。細部には大雑把な面もあって、タイム・パラドックスを惹き起こしているのだが、まあ、このテーマの作品では仕方のないことかもしれない。現代人が600年前の時代に行く、という設定が十分には生かされていない気もした。現代の知識が火薬の調合程度にしか生かされていないのが、ちょっと寂しい。
跋扈妖怪伝・牙吉
人間の台頭によって追いやられ安住の地を求める妖怪たちと、その力を利用しようとする邪悪な人間たちとの抗争、というテーマは好みのものなのだが、出来栄えはちょっと残念だった。セリフの音量がやかましいほど大きく、聞き取りやすくて助かる利点もあるのだが、不自然に感じた場面もあった。CGを使わず着ぐるみに徹しているのだが、予算が足りなかったのか主人公の狼男も含めてかなりチャチ。手作り感覚ということで目をつぶりたいところなのだが、せめて蜘蛛女の足は何とかならなかったか。クライマックスが盛り上がらないのが最大の欠点。いくら妖力が弱まっているという設定にしても妖怪が弱すぎる。大半は逃げまどうだけでバッタバッタと殺されていく。宙を舞えばワイヤ丸見え、手にした手榴弾が破裂したはずなのに背中が爆発したりと、無造作な演出も目立つ。
嗤う伊右衛門
蜷川幸夫は「魔性の夏」で四谷怪談に挑戦。このときも高橋恵子が、あまりメークをしない美しい岩を演じていた。「魔性の夏」は萩原健二扮する伊右衛門の野心と挫折を描いた青春ドラマの趣きだったが、ストーリーそのものは従来の四谷怪談だった。今回は京極夏彦原作により全く違った伊右衛門と岩の物語となっている。一人の邪悪な男を中心に、登場人物たちの愛憎から巻き起こされるドラマは、まるでシェークスピア劇を見ているような面白さがある。幼い頃のトラウマで人を切れず野心もなく生きてきた伊右衛門を演じる唐沢寿明や、気丈な武家娘の岩を演じる小雪もいいのだが、狂言回しの役回りを演じる香川照之の存在感が光っていた。椎名桔平は、邪悪を体現するには少し貫禄不足か。
ヘブン・アンド・アース
女子供を殺さなかったため反逆者にされた男と、その男を殺さなければ日本に帰れない遣唐使、二人の間で揺れ動く将軍の娘。というドラマが全て中途半端になってしまった作品。せっかくの中井喜一やヴィッキー・チャオが生かされていない。群集による戦闘シーンは、それほど悪くないが、「MUSA」のほうが歯切れ良く迫力もあった。唐突なクライマックスのムチャクチャさは「DEAD OR ALIVE」に匹敵するとは思うが。