ムービー・マンスリー2004年4月
ロスト・メモリーズ
日本が朝鮮半島を支配し、米国と連合で第2次大戦を戦い、原爆はベルリンに落とされていた、という、ゴジラ上陸で東京が壊滅し大阪が首都になっていた「ゴジラVSメガギラス」」より、ものすごい設定の作品。日本語のセリフが、やたらと多いのだが、日本人俳優以外は片言なのでイマイチ臨場感には欠ける。歴史を変えるほどの秘宝が展示会場に無造作に出品されていたり、やたらとフラッシュバックされる主人公の記憶が結局意味不明だったりと、大雑把な部分も多い。アクション・シーンはなかなか迫力あるのだが、銃撃戦の途中に思い入れたっぷりの演出に切り替わったりしてアクションのテンポをそいでいた。
殺人の追憶
実際に起こった未解決事件をモチーフにしたという、かなりブラックな感覚の刑事ドラマ。死体発見現場では子供からトラクターまで走って証拠を踏み荒らし、容疑者は拷問するは証拠は捏造するはで、これじゃ解決しないだろうなあという気分になってくる。なにしろ一番役に立ったのが婦警の発見なのだから。陰惨な事件と徒労の捜査を骨格の太い演出で見せ、後味は悪いが、強いインパクトを持った作品ではある。
クイール
動物と子供には勝てないという言葉を実証した作品。一流の役者がしっかりとした演技を見せるのだが、犬が切ない表情をすると画面をさらってしまう。元気な子犬時代も良いのだが、老犬クイールの演技は真に迫る名演だった。遊びたい盛りに訓練所に連れて行かれ、今度はようやく盲導犬になったのに一生の大半をセンターに閉じ込められて過ごしたクイールの哀しさ伝わってくる作品。ふと子供時代に遊んだ熊のぬいぐるみを回想するあたり、犬版「市民ケーン」という雰囲気だった。
恋愛適齢期
適齢期っていうか、人間年相応の相手を選びましょうという作品。頭が薄くて(元々か)少々ガラの悪いオヤジになってもラブコメこなしちゃうジャック・ニコルソンはやっぱりすごい。ジャッキー・チェンみたいに尻出して笑いを取るし。いこじな作家だった「恋愛小説家」から、うって変わってバイアグラ愛用のエロオヤジ。ダイアン・キートン、キアヌ・リーヴスから脇役まで皆良い演技をしているのだが、ニコルソンが画面をさらっている。ドラマ展開は後半多少もたれるのだが、うまくまとまっていた。
イン・ザ・カット
今をときめくニコール・キッドマンが主演を取りやめて製作に回った作品。あまり女優心を誘う企画ではなかったのかもしれない。というわけで新境地を模索するメグ・ライアン主演となった。揺れ動くカメラ・ワークが観る者の不安感を掻き立てるが、それだけだった。サスペンス映画としては完成していない気がするし、かといってメロドラマというわけでもない。ヒロインの父親に対する思い、というのが一つのポイントとして描かれるのだが、この点も結局中途半端で終わっている。
ババアゾーン(他)
「地獄甲子園」に続く山口雄大監督の漫☆画太郎実写化第二弾。オムニバス映画というのは数多くあるがタイトルに(他)とついたのは初めてという気がする。ちゃんとババアによるブリッジのある一本の作品になってるし。今回は漫☆画太郎が得意とする同じコマの使いまわしの実写化に挑戦。ドラマのバランスを崩しつつも、とことん再現しているのには笑った。原作では絵は同じでも吹きだしのセリフは変えてあるのだが、こちらはセリフも同じなので少々くどい印象になった。低予算を逆手に取ってチープさをギャグにするヴァイタリーティーが魅力でもある。根岸季衣は原作に比べればマトモなキャラだが大怪演。温水洋一のオチにも笑った。
オーシャン・オブ・ファイア
「シービスケット」に続いて馬がタイトル・ロールを演じた作品。実在の人物、馬をモデルにしているという点も「シービスケット」と同様。こちらは砂漠の長距離レースを描いている。名馬をめぐる陰謀もあり、正統派の冒険映画となっており、職人ともいえるジョー・ジョンストン監督の手際よい演出が冴えている。見せ場も多く飽きさせない。主人公にはインディアンの血が流れているという設定がドラマに幅を与え、女性蔑視の風潮が残る砂漠の部族に生まれた女性の生き方と共鳴していくのだが、感動的というほどには描かれていないのが残念。
CASSHERN
大スケールで描かれるアンチ・ヒーロー・ドラマ。部分的に難解だったり、突如降臨したいかずちの正体が明かされないなど謎が謎のまま終わる部分もあるが、パワフルな演出でラストまで一気に見た。一人の老人の妄執に端を発し、狂気と憎しみが止めどもなく拡散していく様が、独自の映像で描かれる。ビジュアル中心のため、シリアスなドラマというより寓話的な印象となったが、テーマは明確に打ち出されている。アクション・シーンは細かいカット割りでごまかしている感じで本格的とはいえないが、絵的な勢いはあったと思う。個性派の揃った演技陣だが、それぞれの狂気を演じた寺尾聡と唐沢寿明が特に印象的だった。
ホーンテッド・マンション
「パイレーツ・オブ・カリビアン」に続くディズニー・アトラクションの映画化第二弾。残念ながら「パイレーツ〜」より数段見劣りする出来栄え。ファミリー・ムービーなのはいいのだが、コメディとしてもホラーとしても中途半端。エディ・マーフィーの演技も今回はキレが悪い。特に前半から中盤まで見せ場が少なく、もたついてしまった。ラストはうまくまとめたのに残念。テレンス・スタンプは思わず笑ってしまうほどの怪演を見せて楽しませてくれた。