ムービー・マンスリー2004年5月
アップルシード
セル画風のアニメキャラと立体感のあるCGを融合させた新感覚の作品。今後この技術が発展・普及すれば原作キャラのイメージを損ねることなく3DCGアニメが作れるようになるんじゃないかと思う。大いに期待したい。ストーリーも面白く。人間と人造人間の確執を主軸に、主人公が過去を探っていく展開がスリリングに描かれる。「CASSHERN」に続いて、今回も老人の妄執に端を発しており、潔く年を取ることの難しさを感じた。クライマックスも迫力たっぷりで盛り上がったが、パスワード入力のくだりが少し分かりにくかった。
恋人はスナイパー
テレビで2話放映されたシリーズの劇場版完結編。西村京太郎作品をベースに作られた日本人全てを人質にするというアイデアが面白く、前半はかなり引き付けられた。後半オリジナル・ストーリーの展開になると少し雑な展開となるのが残念だが、一応は楽しめる作品になっている。このシリーズの見所のひとつは、JAC出身の水野美紀によるワイヤー・アクション。今回は少なめだったが、それでもクライマックスには堪能させてくれた。
コールド・マウンテン
これまで観たアンソニー・ミンゲラ作品は、映像は綺麗なのだがドラマにメリハリが足りず、評価の高さほど面白いと感じなかった。今回は数奇な出来事に遭遇する脱走兵と、彼を待ち続けるヒロインのドラマが見事な演出で描かれた秀作だった。ジュード・ロウが出会う人々は皆個性的でドラマを陰影に富んだものにしているし、生活力の全くない牧師の娘がタフな女性の協力を得てたくましく成長していく変貌ぶりも鮮やかだった。ニコール・キッドマンの演技力に改めて感心させられた。ジュード・ロウ、レニー・ゼルウィガーも良いし、ドナルド・サザーランド、ナタリー・ポートマンを始めとする脇役陣も皆好演している。
ゴッド・ディーバ
実写とCGを合成して独自の世界を作り上げたSFファンタジー。CGはなかなか丁寧に描き込まれているが、それでも人間のキャラクターは本物の俳優で統一したほうが良かったと思う。天空の神ホルスの降臨が描かれるが、自分の再生しか考えていないので、あまりありがたい存在ではない。ラストを含めてホラーっぽい描写もあり、悪魔という設定でもあんまり変わらなかったなと思ってしまった。意味の良く分からない部分もあったが、深読みするより表面的なストーリーと映像を楽しんだほうが良さそうな作品。
花嫁はギャングスター
女組長の結婚騒動を描いた韓国製ドタバタコメディ。人情話になるかと思ったのだが、けっこうドライな展開だった。ドラマ全体のバランスよりも、その場のノリを重視した印象もあり、香港映画の感覚に似ている。展開にテンポがあり楽しめる作品だが、ヒロインの感情の変化がもう少し丁寧に描かれていれば、もっと素敵な作品になったと思う。続編とハリウッド版リメイクの企画があるそうで期待したい。
キル・ビルVol.2
細かい説明抜きで、やりたい放題トバシまくった前作だが、完結編ともなると、まとめに入らなくてはならない。ブライドの名前も判明するが、わざわざピー音で消した意図は不明のままだった。序盤は少しテンポが落ちたかと感じたが、ダリル・ハンナが登場するあたりから回復した。マカロニ・ウェスタンから香港カンフー映画、果ては「お前はもう死んでいる」風必殺技まで、ぎっしりとタランティーノのエッセンスが詰め込まれている。B.B.を主人公にした続編企画の噂が流れているが、実現したらダリル・ハンナの女座頭市が見られるのだろうか。楽しみである。
ビッグ・フィッシュ
ティム・バートン監督渾身の作品。空想力豊かでホラ話の達人である父親と、その父が家庭を嫌って現実逃避しているのではないかと不信感を募らせる現実主義者の息子。不和を続けた息子が、死期の近づいた父親に接し、空想によって人生がいかに素晴らしく彩られていくかに気づいていく。父親の真の姿を追う主人公に語られるのが更なるホラ話だったりして、現実と空想の垣根が次第に不明になっていく感覚が見事。クライマックスの葬儀シーンはどこまでが現実か分からないイマジネーションに満ちた名場面だった。
ロスト・イン・トランスレーション
女優としては大成しなかった(「ゴッドファーザーV」では、ラジー賞ワースト助演女優賞とワースト新人賞をダブル受賞、後にも2回ノミネート)ソフィア・コッポラだが監督としての実力はたいしたもので、本作も小品ではあるがセンスの良さが光っている。架空の異郷日本(ジェームズ・ボンドといえばロジャー・ムーアを意味する国)で孤独感を募らせる落ち目のスターと人妻。孤独をテーマとした内容なのにコミカルなシーンを多く織り交ぜているのが洒落ている。特にビル・マーレーの渋さとユーモラスさを兼ね備えた演技が良かった。
トロイ
ウルフガング・ペーターゼンは骨太の娯楽作を得意とする職人監督。今回もきっちりとした演出で見せてくれる。ブラッド・ピットとエリック・バナの戦士ぶりもなかなか見事。トロイの木馬ってわりとセコい策略なので、実質的には二人の決闘がクライマックス。久々のピーター・オトゥールも、善良にして勇敢でありながら、息子の言うことを聞かず神官を信じたため国を滅してしまう国王を好演している。ただし、アガメムノンがクズみたいな男として描かれていることもあり、全てが虚しい殺し合いと感じられ、英雄譚の爽快感はなかった。