ムービー・マンスリー2004年6月
ドーン・オブ・ザ・デッド
オリジナル版は観ていないのだが、今回のリメイクはホラーというより冒険アクションの趣きが強かった。ゾンビが蔓延した理由は分からずに終るし、世界全体がどうなっているのかも不明。このことが緊張感を増してもいるのだが、ちょっと欲求不満を感じたりもした。この手のゾンビ映画としては上質の部類と思うのたが、ひねったつもりでお決まりのラストは面白くもなんともなかった。
キューティハニー
庵野秀明監督やりたい放題といってもタランティーノには及ばないか。全体に薄っぺらい感じはするが、けっこう楽しめる作品ではある。演出はアクション・シーンよりもベタなギャグに力が入っているし、ストーリーもパンサークローとの対決よりも女警部との友情に重点が置かれている。及川光博は「1980」といい本作といいセルフ・パロディに陥っている気がするが、決戦前に一曲は笑えた。コギャルなんだか老婆なんだか分からないキャラクターを演じた新谷真弓も面白かった。大量のおにぎりをたいらげながらスタイルを維持した佐藤江梨子も大変だったろうと思う。それと「キューティーハニー」の主題歌って、なかなかの名曲だったんだなあと感心した。
クリムゾン・リバー2黙示録の天使たち
1作目はミステリアスな雰囲気を盛り上げながら大味な結末で腰砕けに終ったが、今回は更にタガが緩んでしまった。実現不可能と思われる連続殺人だが謎解きは大雑把。キリストの使徒と同じ名前と職業なんて話はどこかへ行ってしまい、単なる偶然だったのかと思うしかない。加速度的に説得力を失う展開で、ラストはインディ・ジョーンズもどきになるが、たいした見せ場ではないし、せっかくのクリストファー・リーも十分に生きていない。
深呼吸の必要
キビ刈り隊として沖縄で一ヶ月強のバイト作業を行うことになった者たちの物語。広大なサトウキビ畑での作業が淡々と描かれていく。いくつかの事件も起こるが、あえてドラマチックに描こうとはせず、これもまた日常のひとコマであるかのように過ぎ去っていく。にもかかわらず作品は不思議な力を発散し、最後まで惹きつけられて見終わった。人生は日常の積み重ねなんだなあ、と改めて思ったりした。登場人物は、この日常の繋がりを見失っていた人たちで、連綿とした作業の中で人生を取り戻していく。それぞれの抱える問題が解決したわけではないが、正面から向き合う力を得たところで映画は終る。静かなる敗者復活戦映画という印象の作品。
天国の本屋〜恋火
天国と現世を交互に描いていく異色のラヴロマンス。演出としては平均的で、個人的には天国の場面がもっとファンタスティックに描かれていても良かった気がする。二つの世界で恋人同士が一度も顔を合わせることなく12年越しの恋を成就させるという設定は魅力的。二役を見事に演じ分ける竹内結子の演技力にも感心させられた。新たな恋を予感させて終るラストもいい。
海猿
佐藤秀峰による原作は大好きで全巻読んだ。NHKが2度ドラマ化しているが、こちらは見逃してしまった。今回の映画化ではストーリーもキャラクターも、ほぼオリジナルになっているが、骨格の太い直球勝負の青春ドラマになっており、原作に引けを取らない力強さを持っている。登場人物の一人一人が魅力的に描かれているし、水中撮影の場面も迫力がある。ユーモラスな場面を織り交ぜながら緊張感を途切れさせない演出も鮮やかだった。ラストの予告編は見切り発車だったとのことだが、続編製作が決まったとの報道もあり、次回作も頑張ってほしい。
デイ・アフター・トゥモロー
ローランド・エメリッヒはSF大作をきっちりと捕り上げる職人肌の監督(1番好きなのは非SF作品の「パトリオット」だけど」。今回もソツなくまとめて楽しませてくれた。まず新たなる氷河期の到来を映像で見せてしまう。ドラマ部分も風呂敷を広げすぎず、父子の絆に絞って成功している。ただ、ヘリが飛べたので救出されたけれど、飛ばなかったら単独でどうするつもりだったのだろうか。単なる無謀な行動になってしまう。
世界の中心で、愛をさけぶ
大ベストセラーの映画化だが、原作は読んでいない。ちょっと偶然が多すぎるのが気になったが、運命的なめぐり合わせによって、18年前の恋が完結していくというストーリーは悪くない。2時間20分近い上映時間を飽きさせずに見せるが、テンポよく流れすぎて感動作というだけのインパクトには欠けてしまった気がする。高校時代の主人公を演じた森山未來が大沢たかおに似ていて感心したが、場面によってはコロッケにも似ていて、大沢たかおとコロッケは似ているんだろうかと余計なことを悩んでしまったりもした。
21グラム
死んだ時に失うという21グラム。その21グラムを生きているうちに失ってしまった人間たちの物語。交通事故で夫と子供を失った女性、事故を起こして人殺しとなるべく神に運命づけられたのかと悩む男、死んだ男の心臓を移植され二人の魂を救うために今しばらくの生を得たかのような男。設定そのものは、なかなか面白い。地味ながら演技派をそろえたキャスティングで見せるが、時系列を無視して入り乱れる編集は凝りすぎ。せっかくの重厚なドラマが、かえって軽くなった気がした。