ムービー・マンスリー2004年9月
忍者ハットリくん
今年はコミックの映画化作品が多いのだが、劇画調の作品よりも本作のようにキャラクターがデフォルメされたマンガ調の作品の方が難しいのではないかと思う。今回は香取慎吾がテンションの高い演技に徹して作品に力を与えている。ゴリのケムマキは中途半端な悪役かと思ったが、クライマックスでは大活躍した(少々カッコ良すぎる気もしたが)。気軽にに楽しめる質の高いファミリー映画に仕上がっている。以前、盲目の女性が手で触れた犯人の顔をスケッチする「ブラインド・ウィットネス」というコートニー・コックス主演の映画があったが、本作のヒロインは触らなくても描ける。デアデビルのような超能力者なのだろうか。
リディック
小品ながら楽しめた「ピッチブラック」の続編。予算が増えたのか外観はスケールアップしているのだが、作品自体はまとまりのない失敗作。細部も適当で、迫り来る高熱の夜明けから走って逃げるなど説得力のない展開が目立つ。気温が700度に達しているのなら、ちょっと洞窟に入ったくらいで涼しい顔はしていられないと思う。「デスレース2000年」並の大ボケなオチにもあきれた。アカデミー賞女優ジュディ・デンチは作品にハクを与えているが、本人のキャリアにとっては何のプラスにもならなかったと思う。
華氏911
イラク戦争の裏側を描いたマイケル・ムーア監督の新作。傑作「ボウリング・フォー・コロンバイン」ほどには鮮やかで多方面からの切り口が見られないが、アメリカの戦争なんてどうせ利権がらみだろ、という気分を裏付けてくれる痛快作だった。これまでアメリカの反戦作品には自国の人間が何人死んだから戦争は良くないという切り口のものが多く、他国の犠牲者はどうでもいいのか、という気分にさせられていた。今回は戦場に行く兵士が貧困層から消耗品として徴用され、政財界の金持ちたちは自国の犠牲者にすら関心ないと知って愕然とした。金拝主義も、いい加減にしろと言いたくなる。
テイキング・ライブス
被害者になりすまして別の人生に乗り換え続ける殺人鬼とFBI女捜査官の戦いを描くが、設定も展開も強引すぎて説得力が全くない。特にオープニングとクライマックスに無理があるのが致命的。最大のミステリーは、こんな作品にアンジェリーナ・ジョリー、イーサン・ホーク、ジーナ・ローランズ、チェッキー・カリョ、キーファー・サザーランドという一流の顔ぶれがどうして集結しちゃったのかということ。特にキーファー・サザーランドはちょい役にすぎなくて、ちょっと悲しかった。アンジェリーナ・ジョリーはラジー賞ワースト女優賞の2年連続受賞でも狙っているのだろうか。個人的には期待作の「スカイキャプテン」でも、「キル・ビル」のダリル・ハンナに続いて眼帯の悪役を怪演しているみたいだし。
LOVERS
唐の時代を舞台に、秘密結社前首領の娘、結社のアジトを突き止めようとする官吏、二人の道行を追う追う仲間の官吏。三人の戦いと愛憎を描いた力作。チャン・ツイイーは情念に燃える女性を演じるとピカ一だし、軟イメージの金城武、硬イメージのアンディ・ラウの対比も面白い。アクション・シーンも前作「HERO」ほどの絢爛さはないが、工夫が凝らされ見ごたえがある。ただ、ストーリーをトリッキーにひねった分、登場人物の感情がストレートに伝わらなくなってしまったのが残念。中盤くらいで真相を明らかにして、三人の心の葛藤に焦点を絞ったほうがドラマとして盛り上がったのではないかと思う。
ヴァン・ヘルシング
B級アクション・ホラーを高予算とCGを駆使してパワーアップさせるスティーヴン・ソマーズ監督の新作。ジキルとハイド、ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男とユニバーサル・モンスターが大挙登場するのも魅力の一つ。力技で押し切った面もあり、多少大味な印象もあるが、見せ場の連続で飽きさせない。アクション・シーンはこれまで以上に派手な動きで、アニメを意識してるんじゃないかと思ったほど。せっかく主人公の正体にひねりを加えたのだから、伝奇ロマンの雰囲気をもう少し濃くすれば、エンディングの余韻がもっと深まった気がする。半魚人を登場させてヴァン・ヘルシングがクトゥルー神話に挑む続編とか作られたら嬉しいのだが。
トゥー・ブラザーズ
トラの兄弟の数奇な運命を描いた作品。「子熊物語」で動物映画には実績のあるジャン=ジャック・アノー監督の丁寧な演出が光る。動物が主体なこともあり、人間の登場人物は金目当ての悪党が多かったりして、人間描写がひねってあるのがフランス映画らしいと感じた(イギリスとの合作らしいけど)。人間悪というのが浮き彫りになってくる場面もあった。近辺の住民にとってトラは人食いの脅威というアンチテーゼも入れてバランスを取ろうとしているが、基本的に家族映画なのでラストは甘めになっている。ちょっと中途半端な印象を残したのが残念。2頭のトラは驚くほどおとなしく、エンディングに実際のトラは飼いならされていても危険なので決して近づかないでくださいといったテロップが出たのには笑った。
スウィング・ガールズ
短編は観ていないのだが、デビュー作「裸足のピクニック」から長編では外れなしの矢口史靖監督。今回もコメディ・センスが冴え、思い切り楽しめる作品となった。登場人物のそれぞれが魅力的で、キャラクターを立たせることの重要さが伝わってくる。ジャズ演奏のためなら手段を問わない主人公も良かったが、惚れっぽいけど実を結ばない友人と彼女のネズミのマスコットが特に惹かれるキャラクターだった。ジャズのリズムに開眼しただけで見事な演奏をしてしまうなど、「ウォーターボーイズ」の珍特訓に比べると淡白なドラマ展開となってしまったが、演奏シーンは盛り上がり見終わって爽快感の残る作品。
バイオハザードUアポカリプス
前作のストーリーを引き継いだ、意外と几帳面な続編だった。閉鎖された町でのサヴァイヴァルがテンポ良く描かれ、前作ラストの展開についても補足されていく。DVDセットが出たら続けて観て内容を確認したくなる上手い構成。新キャストも加わったが、やはりミラ・ジョボヴィッチの魅力に支えられた作品。行動範囲が拡大した分、前作より緊迫感は低くなったが、見せ場も多く十分に楽しめる作品。ヒロインが、どんどん人間離れしていくのが気になるところ。そのうち「アリスVS.リプリー」なんて作られそうでこわい。