ムービー・マンスリー2004年10月
ヴィレッジ(ネタバレ)
ひねったラストがウリのM・ナイト・シャマラン監督。今回はちょっとハズした。足を踏み入れてはならない森に囲まれて外界と完全に遮断された自給自足の村、という設定のわりには物資が豊かすぎる。工場もなさそうなのに生活がきちんとしすぎていて、まず映画の世界に入り込めなかった。父親が盲目の娘一人に行かせるのも理解できなかった。掟の秘密は前半で見当がついてしまうが、さらなる秘密が隠されているあたりがシャマラン監督らしさではある(やっぱり説得力には欠けるが)。いっそ村の地下に秘密通信基地があってインターネットによる投機で莫大な資金を得ていたというような展開にしてしまったほうが面白かった気がする。
ヘルボーイ
ヒーローコミックの映画化。怪優ロン・パールマン主演という事で期待したのだが、いまいちノレなかった。悩めるヒーローっぽくせず、活劇に徹したほうが良かった気がする。内容も「X-MEN」「スポーン」「スパイダーマン」などから寄せ集めて作ったような印象。それらのエッセンスが消化しきれていない。ラスプーチンの目的も分かりづらかった。
隣のヒットマンズ
まあまあのブラック・コメディーだった「隣のヒットマン」の続編。ブルース・ウィリス主演作のわりには宣伝もせず、ひっそり公開されたので、ちょっと不安だったが予想が的中、失敗作だった。ブルース・ウィリスはこれでもかと珍演を繰りひろげるが、ストーリーもギャグもハズしている。ぶつかったり転んだりという原始的なギャグが目立つのもイマイチ。オチのひねりも中途半端、上映時間の長い作品ではないのに間延びして感じられた。
感染
すでに経営破綻、改装が途中で中止になって病室は廃墟みたいだし、縫合のできない医師と採血のできない看護婦がいるという、とにかく絶対に入院したくない病院を舞台にしたホラー映画。診療ミスをめぐる話から、正体不明の病原菌感染へと展開はちょっと荒いが、配役がしっかりしているので飽きずに観ていられた。観終わって納得のいかない部分があるし、不条理なラストもあまり好きではないのだが。
予言
つのだじろうの「恐怖新聞」の映画化とは言うものの、ほとんどオリジナルのストーリー。中盤のドラマ展開に工夫が足りず、間延びした作品になっている。妙に「リング」に似た雰囲気があるのもマイナス。アカシックレコードがどうとか言うセリフもあるが、恐怖新聞の性質が不明なままなのも不満を感じた。そのため、せっかくのラストも盛り上がりに欠けるものとなってしまった。
チューブ
パワフルな演出で引っ張る韓国製娯楽作品だが、ストーリーには強引な点が目立つ。スリ集団とヒロインが持つヴァイオリン・ケースの設定は、舞台挨拶での説明がなければ絶対に分からなかった。そこまで背景設定に凝るならストーリーも、もう少し丁寧に考えてほしかった。犯人の行動が目的にそぐわなく感じる部分があった。三谷幸喜似の乗客が時おり重要な行動を取るが、何者なのか不明。主役の二人は好演だと思うが、儲け役のはずの上司はいささか演技オーバー。レバーを押さえ続けないと切れてしまう非常電源って設計ミスじゃないのか、固定する方法もありそうだし。というわけで突っ込みどころも多いが、観ていて退屈はしなかった。いろいろな意味で楽しめる作品。
ボーン・トゥ・ファイト
タイ製肉弾アクション。麻薬組織の一団が村一つ占領。逮捕された将軍の釈放を要求するが、そこには最強の刑事とスポーツ選手たちがいた、という「ダイ・ハード」と「トイ・ソルジャー」を合わせたような設定。細かい作戦など考えずに村人が一斉蜂起、バリバリ乱射する中をバタバタ倒れながら敵に襲いかかっていく壮絶な戦いぶり。悲壮感溢れる戦いの中にも、スポーツ選手が特技を生かしたり、やたらと強い老人がいたりと笑えるアクションを忘れないサービス精神。核ミサイルのエピソードが尻つぼみなのはちょっと残念だったが、久々に燃えるアクション映画。個人的には「マッハ!!!!」より面白かった。信じられないほど危険そうなスタントは、綿密な検証のうえ撮影され、たいした怪我人も出なかったそうだが、エンディングに映るメイキングでは検証というより、ほとんど人体実験の状態に見えた。
ガルーダ
タイ映画界初の怪獣映画とのこと。映像的には頑張っているが、このガルーダのスケールはかなりいい加減。人間が戦えるほどのサイズだったり、人間を鷲づかみにして舞い上がるほどの大きさだったりする。洞窟内を舞台にした前半は「エイリアン」と「プレデター」を合わせたような印象だった。それなりに見せ場はあるのだが、怪獣映画というには、こじんまりした作品。人物描写が弱く、特にヒロインがあまり魅力的に描かれていないのも欠点だと思う。
リザレクション
製作時点で韓国映画史上最高の予算をかけたという作品。CGやワイヤを多用してはいるが、それほどの大作感は感じなかった。映像的には面白い部分があるし、歪んだ展開も興味深く見飽きなかったが、観終わると結局ボンクラ青年の現実逃避物語にすぎないじゃないかという気になる。こんな内向的なストーリーを大作として作らなくてもいいんじゃばいだろうか。ラストも説得力に欠ける。現実の主人公は植物状態にでもなっているのだろうか。以前、三池監督の「アンドロメディア」でも感じたのだが、監督自身がコンピューターに詳しくないのではないかという印象が強い。IDがなくなって、2度とログインできないという設定だったのに、ゲームのエンディングやり直してるし。舞台挨拶ではとてもチャーミングだったイム・ウンギョンが、作中では感情の変化を出さない役柄でセリフも少なく、魅力を充分に発揮できていないのも残念だった。
ソウ
質の高い猟奇サスペンスで、ストーリーが良く練られている。全くおかしな点がないわけではないが、演出にも演技にも力があるので、観ている間は気にならなかった。ラストは、ちょっと苦しいけど、意表をつくものではある。キャッチコピーでは「セブン」「キューブ」と比較されているが、この2本より面白かった。映像や編集もしっかりしていて、撮影18日間の低予算作品には見えない。舞台挨拶したリー・ワネルは、いかにも映画好きという雰囲気で好感が持てた。ダリオ・アルジェントへのオマージュも所々見られるが、アルジェント作品よりスマートな出来だと思う。
スピーシーズ3
シリーズ第3作。やっぱりストレートに戦いを描ききった1作目が一番面白かった。上映直前にようやく完成版のプリントが届いたということが関係しているのかもしれないが、全体的にくすんだ画面で、映像が鮮明でなかったのが残念だった。シル、イヴに続く3代目サラでキャスティングが変わり、ついでに設定も変わって混合種は免疫力が弱いことになっている。1作目の男漁りは無駄だったわけだ。退屈ではないが、特別な見せ場もない作品。原子炉内での戦いというのは無理じゃないかという気がしたが。
ハウス・オブ・ザ・デッド
ゲームの映画化ということだが、プレイしたことがないので、雰囲気を生かせているかどうかは分からない。個人的にはゾンビ版「フロム・ダスク・ティル・ドーン」という印象で意外に楽しめた。画面変りのワイプ代わりにゲーム場面を使ったりしているのが、遊び心なのだろう。ちょっとうるさい感じもしたけど。主人公たちは、どう見てもボンクラなんだけど、戦闘能力が素人とは思えないほど高いのがゲームっぽいとは言える。剣の修行中とか、東洋娘だから格闘技の達人とか、医学生とか、それぞれのスキルを(ちょっとあからさまに)生かしてストーリーを作っているのもそれらしい。
デビルマン
CGを使った映像は、なかなか迫力があったと思う。と書いてしまうと、褒めるところが残らない作品。ワイア・アクションもたいしたことないし。作者の那須夫妻は、原作に対する思い入れが、ほとんど無いんじゃないかと感じた。いくら原作とは別物といっても、あれだけ宣伝したシレーヌの中途半端な扱いはどうしたものか。致命的なのは主役たちの演技がいまどき珍しい程つたないこと。作品を引き締める名脇役もいない。ボブ・サップが何故ニュースキャスターなのか。短い撮影時間ですむ役を割り振っただけのような気がする。ミーコのキャラをふくらませたのは良いとしても、肝心の明と了のエピソードは完全に不発。個人的な原作イメージとしては、兄弟揃って顔が濃すぎると思った。突っ込みどころ満載なので退屈することの無い作品ではある。
ガガンボーイ/クモおとこ対ゴキブリおとこ
フィリッピンから来たバカ大爆発映画。どう見ても東京ファンタ向けの作品。これを「アジアの風」上映作品に選んだのは、ある意味大英断。あろうことか放射性物質に汚染されたクモとゴキブリを食べてしまった二人が超能力を得て戦うコメディ。「スパイダーマン」のパロディなのだが、予算は下手すれば千分の一くらい。ストーリーも行き当たりばったりで、ヒーローの活躍よりも、ヒロインをめぐる恋のさやあてに重点が置かれている。唐突に登場して、あっさり退場する女吸血鬼は意味不明。追いはぎに協力して現場検証する区長というのも分からなかった。悪役としての見せ場が無いまま滅ぼされるゴキブリおとこも情けない。ヒロインを拉致しただけ。銀行襲うシーンくらい撮ればよかったのだが、きっと面倒くさかったのだろう。とはいえ、(CGやワイアも使っているけど)ほのぼのとした手作り感覚に満ちた作品で、「デビルマン」よりは愛着を感じる作品。
ジャスミンの花開く
上海を舞台に直情的で男運の無い女性の家系を三代にわたって描いた大河ドラマ。三役を演じきるチャン・ツィイーの演技力で見せきってしまう(三代目の花は血がつながっていないので、同じ顔なのは妙な気もしたが)。他の演技者も良いし、演出もしっかりしているので見ごたえのある作品にはなっている。なんだか暗いエピソードが多いのが難点。ラストで新たな希望を感じさせているのは良かった。中国の歴史の変遷を、もっと色濃く織り込んだほうが、陰影に富んでドラマに深みが増したのではないかと思う。
モンスター
運命的な出会いが最悪の結果をもたらしてしまう、実話に基づいたドラマ。歪んだ愛が連続殺人を引き起こしていく物語が人間ドラマとして描かれた力作。主役二人の演技でラストまで引っ張ってしまうのだが、シャーリーズ・セロンの変貌ぶりは前評判以上で驚いた。娼婦というのに、ふてぶてしい面構えで、ジョン・ボイトが女装したらこんな感じじゃないかと思ってしまった(アンジェリーナ・ジョリーに似ていたという意味では、絶対にない)。体型まで変わっているが、スタンド・インか特殊メイクなのだろうか、やっぱり本物?ちょっと怖い。セロンにくらべると小柄なクリスティーナ・リッチは、童顔も手伝って本当に華奢に見える。ギプスをはめて登場するのは脆さを象徴しているのではないだろうか。自分では決め事をしない依存心の塊の女に、保護者として生まれて初めて自分の存在価値を見出したヒロインが泥沼にはまっていく。果たして本当のモンスターはどちらだったのか。見ごたえたっぷりの作品だった。
下弦の月ラスト・クォーター
画面作りは、なかなか凝っていて良かった。懲りすぎて必要以上に不気味になった場面もあるが。リインカーネーションをテーマとしたファンタジックなラヴ・ストーリー。ヒロインを助けるために主人公たちが過去を調べ始めるあたりから面白くなるが、序盤は間延びして感じた。二人のヒロインが出会う夜の場面から始めて、回想で織り込んだほうが良かった気がする。悪くないストーリーなのだが、ちょっと平板な出来で、せっかくのラストも盛り上がりそこねてしまった惜しい作品。脇で強烈な個性を放つ栗山千明だが、主役にはまだ力不足か。