ムービー・マンスリー2004年11月
エクソシスト・ビギニング
「エクソシスト」は、やっぱり呪われているのか。一世を風靡したウィリアム・フリードキンも今は職人監督。リンダ・ブレアはB級映画専門女優になってしまい、最近とんと見ない。ジョン・ブアマン監督による第2作は、製作側に難解だと判断されて、勝手に再編集されてしまったとか。そして本作は一旦ポール・シュレーダー監督により完成したものの、恐くなかったとかで、レニー・ハーリン監督が撮り直すハメに。というわけでようやく出来上がった本作。第1作で、なぜ悪魔が最初からメリン神父の名前を知っていたかが明らかにされる。というふれ込みだが、今回も最初から知っているので結局謎は解けない。出来栄え自体は、成功作でなくても駄作にはしないハーリン監督なので、それほどひどくはない。ハイエナは、いかにも悪魔の手先といった風貌だし、誰に悪魔が乗り移っているのか、というサスペンス・タッチも生かされている。決定的な見せ場にはかけるが、一応は見せる作品。
アイ、ロボット
アイザック・アシモフの小説に原案を得た作品。読んでいないのだけれど、ほとんどオリジナルのストーリーなのだと思う。冒頭からコンバースがスポンサーと分かる明解な作りの娯楽大作。ウィル・スミスがちょっと陰のある刑事を好演しているし、ロボットとの関係は「夜の大捜査線」を連想させて興味深かった。CGを駆使した派手な見せ場もたっぷりあるし、捜査ドラマとしての面白さもきちんと織り込まれている。傑作というほどではないが、特に欠点もないよくまとまった出来栄えの作品。
コラテラル
変な殺し屋を描いた変な映画だった。髪をブリーチして殺し屋を演じるトム・クルーズはなかなか雰囲気があるし、巻き込まれる運転手、女検事、敏腕刑事と脇のキャラクターも悪くない。だが、基本的な設定が納得できなかった。冷徹な殺し屋のはずが、手間暇かけてリスクを増やしてばかりいるように見える。運転手の腕を見込んだという設定なのだろうが、無駄にしている時間のほうが長いので、交通手段なんかどうでもいいじゃないかという気になってくる。こんな調子で6年間も素顔を見せない殺しのプロで通用してきたとは、とても思えなかった。
2046
小説家と、彼を取り巻く女性たちを描いたドラマ。主人公は文筆業者に見えないが、記者くずれの三文文士という設定なので、こんなものかもしれない。この主人公の性格があまり明確でないのが残念だったが、多彩な女優陣を見ているだけでも楽しめた(今年4本目のチャン・ツィイー出演作だった)。なんとなく前半と後半で主人公のキャラクターが違う気もした。いっそ「恋する惑星」や「天使の惑星」のように主人公を途中で交替して、同じホテルに住む二人の作家の物語にしても良かったのではないかという気もした。5年に渡る撮影でたまった膨大なフィルムを編集したためか、ほとんど出演場面がなくなったスターもいたりするので、ディレクター・カット版とか出来たら楽しみ。劇中劇の近未来ドラマは、映像的には面白かったが、内容的には今一つピンとこなかった。
キャットウーマン
当初撮影したコスチュームが不評で、ケチがついてコケると分かっていながら撮り直ししなければならなかったというから、映画作りも楽じゃない(理由は「バットマン」の新作に悪影響を与えないためだとか)。出来上がった作品は、「エクソシスト・ビギニング」と同様、それほど悪くはない、というレベル。ダークな雰囲気の中にもおバカギャグを織り込んで飽きさせない。アクションも頑張っているが、四つん這いでガサゴソ壁を這うように見えるカットはカッコ悪かった。ヒロインが事件を探っていくくだりは、観客がすでに真相を知ってしまっているので興ざめ。観客も同時に真相を知っていくストーリー構成にしたほうが良かった気がする。
80デイズ
ジュール・ヴェルヌ原作「80日間世界一周」のリメイク。前作はお洒落な紳士を演じたらピカ一のデヴィッド・ニーヴンが主演したが、若返ったキャスティングでアクション色が強くなった。初期の宣伝ではジャッキー・チェン主演ということを隠していた(「クリフハンガー」の時のシルヴェスタ・スタローンもそうだった)が、それほど集客力が落ちてしまったのだろうか。個人的にはジャッキー・アクション作として「ラッシュアワー2」以来の出来だと思ったのだが。導入部が多少もたついたが、多彩な見せ場が配され、主人公たちの友情も織り交ぜて楽しめる作品になっている。場面転換にカラフルなCGを使用しているのも楽しい。世界一周そのものは、なんだかのんびりしているように見えた。万里の長城を歩いたりしているので、80日どころか80週間くらいかかるんじゃないかと思ったりした。帆船のクライマックスは原作と似ても似つかぬ展開だが、ラストのオチは同じだった。
血と骨
力強い演出で一気に見せてしまう作品ではあるが、内容的に魅力を感じなかった。閉鎖的な社会の中で内側(家庭)に向かって暴力を振るう人間たちの物語で、ろくな奴が出てこない。特に主人公は、日本での青年期が全く描かれていないため、どうしてこんな人格になったのか理解できず、単なる暴力オヤジにしか見えなかった。だから、ラストで日本到着を回想しても、何の感慨も湧いてこない。唯一、序盤にのみ登場するオダギリ・ジョーが演じたキャラクターは、父親に対する憎しみと同時に、弟に出会えた喜びが表現されていて魅力を感じた。
隠し剣鬼の爪
さすがは山田洋次監督と唸らせる、完成度の高い作品。原作者が同じこともあり、前作「たそがれ清兵衛」と似通った点が多いことが少し気になったが、それ以外は見事な出来栄え。海外から火力の強い兵器が流入し、武士道の時代が終焉を告げていくという背景も生かされ、ドラマに幅を与えている。「必殺」っぽくなったクライマックスは好みが分かれるかもしれないが、ラストを含めて全体的に明るい雰囲気に仕上がり、娯楽性という観点では「たそがれ清兵衛」以上という気もする。ただ、伝授された必殺技が、それほど凄そうに見えなかったのが、ちょっと残念。
オールドボーイ(ネタバレ)
15年間監禁された男を描く韓国製スリラー。長い年月を経た犯罪のわりに犯人が若くて主人公とバランスが取れていないように思えた。展開の荒い部分はあるがパワフルな演出で押し切っている。演技もすごく濃い。見応えはあるが、近親相姦をテーマとしているだけに後味の悪さは、この手の映画の中でも飛び抜けている。作者の意図がそこにあったとすれば大成功なのだろうが、個人的には好きになれない作品。