ムービー・マンスリー2005年1月
カンフー・ハッスル
チャウ・シンチーの新作はCGとワイアを駆使したアクション・コメディー。次から次へと武道の達人が登場して殺し合いを繰り広げる。とにかくド派手な格闘シーンで見せる作品。ハチャメチャなストーリー展開で楽しませてくれるが、ドラマ的には弱い。子供時代の拳法への思いとか、幼馴染みの少女とか、せっかくの設定が生かされていない。そのため、前作「少林サッカー」に比べると盛り上がりに欠けてしまった。
銀のエンゼル
いつもは脇役の小日向文世が主演した作品。北海道の片田舎にあるコンビニを舞台にした群衆ドラマ。コンビニ・オーナーの家族の絆を中心にドラマが展開し、少々ぎこちない部分もあるが、全体的には良い雰囲気にまとまっている。クライマックスのネオンサインの件(くだり)がイマイチ盛り上がらないとか、3本パックのバナナがいつのまにか1本になってたりするとか、気になる点もあったが、けっこう楽しめた作品。
マイ・ボディガード
前半で少女と過去を持つボディガードの交流を描き、中盤が誘拐サスペンス、後半がハードな復讐戦となる3段構えの作品。2時間半近い長丁場で多少まとまりに欠けるきらいはあるが、トニー・スコット監督の手堅い演出で飽きさせない。政界や警察に根を張った巨大誘拐組織という触れ込みだったわりに、チンケな悪党しか出てこないのは残念。主人公の過去が明確に描かれていなかったのも物足りなかったが、これ以上長くなっても困るか。ろくに見せ場もないミッキー・ロークの凋落ぶりには哀れを感じた。
僕の彼女を紹介します
前半は快調なテンポのラブコメ。チョン・ジヒョンの演技は歯切れ良いし、はにかんだ様子などなかなかチャーミング。後半シリアスになってくると展開の粗さが気になった。パラパラマンガの落書きとか、効果的に使われている部分もあるのだが、全体的には大味な印象。いっそ全編ラブコメに徹してしまった方が良かったのではないかという気がした。グルグルまわるカメラワークの多用も気になった。校庭の場面だけに絞った方が良かった気がする。ラストに出てくる男が、かまやつひろしみたいな顔をしているのもピンとこなかった。
Mr.インクレディブル
ピクサー社の新作はスーパーヒーローの家族ドラマ。相変わらずキャラクター作りがうまいのだが、「モンスターズ・インク」や「ファインディング・ニモ」ほど新鮮には感じなかった。「スパイ・キッズ」のヒーロー版みたいな印象があってマイナスしているが、見せ場はきっちりと作ってある。ボートにもゴム紐替わりにもなって大奮闘のお母さんが笑えた。背景の書き込みも見事な出来で、実写の合成だと思っている観客もいた。
約三十の嘘
主要登場人物は、インチキ羽毛布団を売る6人の詐欺師のみ。舞台も、ほぼトワイライト・エクスプレス内のみと凝った設定になっている。達者な俳優たちの演技合戦が見物といいたいが、伴杏里一人が素人っぽい芝居で全体のバランスを崩している。演出も、イマイチ洒落っけに欠け、物足りない作品になってしまった。
インストール
ある事件で人生観の変わってしまった女子高生の再生を描く作品。部屋にあった物を全て捨ててフォーマット状態にしてみたものの、何をインストールしていいか分からないという設定が面白かった。周囲の大人たちの反応が妙だったり、昼間店に出ているはずの人妻風俗嬢が同時刻にチャットしている設定だったり、半年間粗大ゴミが置きっぱなしでしかも汚れていなかったり、現実感が剥離している。ドラマ全体がヒロインの空想なのではないかという印象を受けた。アダルトサイトを扱ってエロティックな要素もあるが、ボーイッシュで元気な上戸彩が演じると生臭くならないところが魅力。
ネバーランド
スランプに陥った作家バリが、4人の子供とその母親との交流を通じて「ピーターパン」を執筆していく姿を描いた秀作。様々な出来事を通して想像力が翼を広げ、物語が形を成していく過程が魅力たっぷりに描かれている。登場人物も各々が、きっちりと描かれていて、出演者は子役たちを含め充実した演技を披露している。ジョニー・デップの代表作が、また一つ増えたと思う。昔はネバーランドって”ないない島”と邦訳されていたと思う。