ムービー・マンスリー2005年2月
パッチギ
「ガキ帝国」「岸和田少年」などの暴力青春物と「のど自慢」「ゲロッパ!」などの音楽物という、井筒監督が得意とする2大ジャンルを合体させた集大成的(?)快作。快調なテンポで力強く描かれた青春映画。ケンカの描写は勢いがありすぎて、次の場面でピンピンしているのが不思議に思えるくらいだが、井筒監督の本領発揮というところか。オダギリジョーの珍演も楽しめた。国家間、民族間の深い溝を、さらりと乗り越えてしまう若さが輝いて見える。グループサウンズからフォークソングに流行が移り変わっていく時代の雰囲気も良く出ていた。
ターミナル
クーデターによって国籍を失った主人公が空港に閉じ込められてしまうというコンセプトが面白い作品。時にはユーモラスに時にはシリアスに演じ分けるトム・ハンクスは、相変わらずうまい。その他のキャラクターも魅力的に描かれている。多少長い気もしたが、ラストでちょっと良い話としてまとめるあたりが、スピルバーグの上手さだと思う。
スパイバウンド
劇場公開作品としては、かなりレベルの低い作品。フランス製スパイ・ドラマで、国家の策謀に翻弄される諜報員たちを描くが、ストーリーが平板で演出にもテンポがない。船の爆破シーンが海中に広がるアブクのワンカットで処理されるなど、安手な印象もつきまとう。クライマックスも見せ場がなく盛り上がらない。画面に写っていなかった主人公の脱出が防犯ビデオで再生すると何故か写っているのもあきれた。
スーパーサイズ・ミー
マイケル・ムーアとは違った切り口でアメリカの危機を描いたドキュメンタリー。テーマは肥満。確かにアメリカでデブというと極端な体型が多いので深刻な問題なのだろう。1ヶ月間マクドナルドの商品だけを食べ続けたらどうなるかの実験に監督が挑戦。作品自体は面白く、最後まで一気に見せる力を持っている。基準となるカロリーの倍を食べ続けたら、ファーストフードでなくとも太るし、身体を壊しもするという気がするが。子供たちに対してCMやアニメで情報を刷り込む手口は悪どいと感じるが、大人に関してはやっぱり自己責任と思う。ファーストフードの有毒性というだけでなく、栄養バランスもカロリーも考えずに食べ続ける人たちへの警鐘と考えれば、より奥深く感じられる。関係ないけどアメリカでもお茶を飲む習慣ができれば少しはダイエットになるんじゃないだろうか。
復讐者に憐れみを
韓国映画らしい濃い演出、濃い演技。陰欝で救いのないドラマが展開していく。前半はユーモラスな描写もあるが、物語が進むにつれ登場人物は皆ドツボにはまっていく。憎しみが憎しみを呼び、殺し方も凄絶にエスカレートしていく。さすがは「オールドボーイ」監督の前作と感じたが、語り口がドライで、登場人物に感情移入しにくいことから客観的に見られ、少し気楽だった。
オーシャンズ12
豪華な顔触れが売り物のシリーズ第2弾。1作目も、舌を巻くほど鮮やかな手口というわけでもなく、まあまあ程度の出来栄えだった。今回はさらにストーリー展開が弱く、物足りない作品となった。ジュリア・ロバーツの活躍シーンは楽屋落ちだし、クライマックスも極秘の搬送ルートを教えてもらってたりして意外性に欠け盛り上がらない。娘に再会するために、これほど大がかりな仕掛けが必要とも思えない。来日プロモーションでは、次の舞台は東京だ、というリップサービスもあったらしいが、実現するなら、もっと脚本に力を入れてほしい。
呪怨JUON
サム・ライミ監督をして「こんなに恐い映画見たことない」と言わしめたという「呪怨」。確かにショック演出の上手さは圧倒的で映画版第3弾(ビデオを含めれば5本目)となっても、その冴えは衰えていない。残念なのは物語性が希薄すぎて、見終わってしばらくすると印象が薄くなってしまうこと。ファンからすれば、だからこそ恐いんだということになるのかもしれないが。今回は映画版第1作と、ほぼ同じ展開。外国人キャストということで、異国に来た人間の不安間も織り込まれているが、全体的には新鮮味がない。一度、清水監督に「血を吸う」シリーズのような、オーソドックスなホラーを手掛けてみてほしい。
北の零年
北海道に流され見捨てられた人々の苦難を描いた力作。情熱的な侍の成れの果てが重婚男だったり、私利私欲のために開拓地を牛耳っていた男が見方を変えれば人々を救っていたりという、人間の多面的な描き方が面白かった。吉永小百合はもちろん良いのだが、侍の意地を見せる豊川悦史、柳葉敏郎、石橋連司が、儲け役だった。テーマ曲の中に「ルパン三世のテーマ」に似たフレーズが登場することと、大作のわりに撮影が良くないことが、少し気になった。
マシニスト
不眠症で1年以上寝ていない(不可能なことなので、これ自体すでに妄想という気がする)機械工に起こる不可解な出来事を描いたスリラー。クリスチャン・ベイルは、「モンスター」のシャーリーズ・セロンと両極をなす肉体改造で鬼気迫るキャラクターを作り上げている。誰が狂っているのかは、前半で分かってしまうので、謎が謎を呼ぶというわけにはいかないが、終盤になると、ここまで幻覚だったのか、と感心させられる場面もある。原因と結末がきっちり描かれているので、見終わって納得出来る作品に仕上がっていた。