ムービー・マンスリー2005年3月
セルラー
なかなか上質なサスペンス映画だった。巻き込まれ型の主人公に、きちんと説得力を持たせているし、携帯電話の機能をうまく織り込んでいた。脚本が良くできているうえに、テンポの良い演出で最後まで一気に見せてしまう。キム・ベイシンガーは、このところ地味な印象の女優になってしまった気がするが、演技自体は冴えている。ユーモラスな持ち味を活かしながら、優秀な警察官を演じたウィリアム・H・メイシーも良かった。ただ、どうして主人公が犯人の携帯に電話できたのか良く分からなかった。
オペラ座の怪人
大ヒット・ミュージカルの映画化だが、いつもは手堅い演出を見せるジョエル・シューマカー監督とは思えない平板な作品になってしまった。特に主人公3人の描写が弱く、ストーリー展開の都合によって行動が変わっているような印象を受けた。次の場面で罠にかける手筈を整えるなら、墓地で捕まえれば良かったのではないかと思う。楽曲は悪くないのだが、決定的な魅力には欠け、同じロイド・ウエーバー作品なら「ジーザス・クライスト・スーパースター」の方が名曲揃いという気がする。
MAKOTO
死者の霊が見える検死医をめぐる3つの切ない事件を描いた作品。ということで、悪い話ではないのだが、それほど意外性のある展開ではなく、インパクトに欠けるのが残念。特に思い入れたっぷりに描かれるクライマックスをハズしてしまった。やけに古びた法医学部の建屋なんか雰囲気出てるし、主要登場人物が変人揃いだったりとか、凝った部分もあるのだが、肝心のストーリーにひねりが足りなかった気がする。
シャークテイル
声を担当したスターをイメージしてデザインした人面魚が大活躍するCGアニメ。なんか、、ライヴァル関係のドリームワークスとピクサーって似たテーマを扱うことが多い気がする。今回は、「ファインディング・ニモ」に軍配を上げる。こちらも、きちんとまとまって楽しめる作品なのだが、こじんまりした印象で見終わった後の満足感に欠けた。キャラクターについても、スターのイメージに縛られてしまったのか、突き抜けた個性が感じられない。長いエンド・クレジットも、遊びが少なくて残念だった。
大統領の理髪師
1960年代から、およそ20年間の韓国を舞台にしたコメディー。11才の息子を拷問で半身不随にされても大統領を信奉し続ける愚直な理髪師の数奇な運命と家族の絆を、おバカギャグと痛烈な風刺精神をふんだんに盛り込みながら綴っていく快作。庶民の喜怒哀楽と国家を横暴を描いて野村芳太朗監督往年の名作「拝啓天皇陛下様」を想起させれた。
あずみ2DEATH OR LOVE
アクションはすごかったが、ドラマ部分に少々不満を感じた1作目。今回は監督を金子修介にバトンタッチして手堅い演出となり、ドラマ的には1作目に比べしっかりしているし、アクションも前作ほど鮮烈ではないが悪くない。ところがクライマックスがどうにも盛り上がらなかった。不意討ちをかけるために潜入していたはずの栗山千明が正体をバラして戦い返り打ちになるのもイマイチだし、いくら重傷を負っていてもあの状況で高島礼子があずみにとどめを刺さずに立ち去るのは不自然。演技的には貫禄たっぷりの平幹二郎も、最後の敵としてあずみと決闘するには高齢すぎた。原作とは大幅に違うキャラクターとなった金角を演じた遠藤憲一が儲け役だった。
レーシング・ストライプス
競馬馬になりたいシマウマの奮闘を描くファミリー映画。体格が小さくて足も短いけど、走る心は負けないって、ちょっと「みどりのマキバオー」みたいな設定。人間のドラマも動物のドラマも、まあ定番であるけれども、丁寧に描かれて楽しめる好編となった。キャラクター作りもうまくて、それぞれの登場人(動)物に魅力がある。体格が違うのでレースの場面はさすがに苦しいカットもあるが、編集でうまくまとめている。
鉄人28号
半ズボンで拳銃をぶっぱなす少年探偵ではリアリティに欠けると判断したのか、今回の正太郎は奮起する弱虫少年になってしまった。それが災いして根性ドラマに走り過ぎ、原作の持つ冒険浪漫の面白さが失われてしまった。中村賀津雄や柄本明といったヴェテランの珍演が空回りしているのも痛い。特に、いつもは的確な演技を見せる香川照之がミス・キャスト。扮装が全然似合わないし、悪役としてのカリスマ性が感じられない。映像的には、ちょっと面白い絵づらもあるが、CGがCGにしか見えない場面が多く残念だった。
いぬのえいが
どこを切っても堂々たる犬の映画。犬と人との出会い、ふれあい、別れを、さりげないタッチで描いている。配役もなかなか良いのだが、やはり表情豊かな犬たちが魅力。どのエピソードも、ストーリー的には、あまりひねっていないのだが、今回はむしろそれが成功して素直に楽しめる作品となった。さすらいの犬ポチには懐かしの「名犬ロンドン」を思い出したが、後半は哀しい物語だった。終盤切ないエピソードが続くので、個人的な好みからいうと最後にドッグフードのコマーシャル第2弾のエピソードかなんか追加してギャグで締めて欲しかった。