ムービー・マンスリー2005年4月
ロング・エンゲージメント
ジャン・ピエール・ジュネ監督の新作は、戦地で行方不明になった恋人を探し続ける女性の物語。原作がセバスチャン・ジャプリゾなので全体的にミステリー・タッチ。次々と戦争に人生を傷付けられた人々が描かれ、ジュネ作品としては、これまでより重いテーマとなっている。とはいえ、独特な人物描写は健在で、ヒロインとその周囲の人々の描写に生かされている。特に郵便配達が面白かった。信じ続ければ希望はかなうというヒロインと、アンチテーゼとして登場する復讐者の女性との対比も鮮やかだった。
ローレライ
シリアスな戦争映画かと思ったらSFファンタジーだった。いくら終戦秘話にしても荒唐無稽なストーリーで、残念ながら前半は演出の力が物語にリアリティーを持たせるまでに至っておらず、ドラマが空回りしている。後半、行動目的が定まり、展開が一本化すると、さすがに盛り上がってくる。多用されているCGがイマイチなのは「鉄人28号」と同様だった。脚本的には日本国内のドラマが尻つぼみ。ラストも、もう少しホラ話の楽しさが出ていれば良かった。
ナショナル・トレジャー
サービス精神満点の冒険映画。ニコラス・ケイジ出演作としては「コン・エアー」以来の娯楽大作という気がする。影の位置をヒントにするなら、時間だけでなく、年月日まで計算しなければ無理じゃないか、とか、突っ込みどころも、ちゃんとある。現在のアメリカを舞台にトレジャー・ハント物を、大きな破綻もなく成立させてしまうパワーには感心した。テンポもあるし、泥棒物のサスペンスや敵組織との争奪戦も手際良く描かれている。ジョン・ボイドが久しぶりに良い味を出していた。
カナリア
演出はしっかりしているし、主役二人の演技も上手く最後まで引きつけられた。元カルト教団の少年が施設を脱走、途中で知り合った少女とともに妹を取り戻すため旅に出る、というロードムービー。テーマが掴みづらい作品という気がする。主人公がカルト教団の呪縛から脱却していくドラマかと思ったが、そうでもなかった。むしろ大人たち、特に男社会への失望感が表されているように感じた。主人公の父親はすでに他界しているが、ヒロインの父親と主人公の祖父は否定すべき存在として描かれる。途中で二人を助けるのはレズビアンのカップル。作品中で最も平穏な場所として描かれるリサイクル会社は盲目の老女を中心とした一種のコミューンのように見えた。
ピアノを弾く大統領
前半はおバカギャグの連発で笑わせ、終盤をメロドラマで盛り上げるサービス精神豊かな娯楽作。冒頭でホームレス集団に潜入して市民の声を聞く大統領やコスプレで転校生に化けて情報を集めるチェ・ジウを登場させ、観客になんでもアリを印象づけてしまい、その後いかに飛躍した展開でも納得させてしまうのが上手い。(最初に引いてしまったら、最後まで映画の世界に入れないという危険性はあるが)チェ・ジウはコメディエンヌぶりから涙の女王の本領発揮まで多彩な顔を見せるので、ファン必見かも。さすがに大統領の恋人が万引犯というのは、まずい気がした。
アビエイター
ハワード・ヒューズは、かなりエキセントリックな人物だったらしく、「映画秘宝」では莫大な財産を趣味に費やすオタクな大富豪として紹介されていた。とにかく逸話の多い人物なので2時間50分近い上映時間の本作でさえ駆け足のダイジェスト版のような印象になってしまった。退屈せずに観られる作品ではあるのだが。そのためヒロインが途中で入れ替わってしまい、メロドラマとしても盛り上がりを欠いてしまっている。話を短期間に絞って描き込んだほうが深みのある作品になった気がする。
コーストガード
全く予備知識がなく、「海猿」や「ベイウォッチ」のような海難救助物かと思っていたくらいなのだが、とんでもなかった。民間人を射殺して発狂した海岸線警備兵と、恋人を目の前で殺されて発狂した女を中心に陰惨なドラマが展開していく。狂気は次第に隊全体に広がり、終盤は多くの兵が顔に迷彩を施してしまうので誰が誰だかわからなくなる。混沌としてピリピリした空気は伝わってくる。ただ、結局何がテーマなのかは良く分からなかった。
隣人13号
イジメからニ重人格になった男の復讐を描いた作品。ニ重人格を二役で演じているのがミソだが、1988年の「もう、ひとりじゃない」では二人の多重人格者を13人の俳優で演じていたので斬新というほどではない。復讐者といっても、実際にはキレた殺人鬼にしか見えないし、対する側も社会人になってもイジメを続けるボンクラなので、いずれにしても感情移入はしづらい。ストーリーが、どう進んでもいいや、という気分になってくる。ラストのオチは、後味の良い作品を狙ったのかもしれないが、それまで見てきた内容が無駄になったように感じてしまった。
ジェイルブレイカー
ようやく刑務所脱獄に成功したと思ったら、実は特赦がかなっていたという男たちを描くドタバタコメディー。序盤はイマイチ乗りが悪く感じたが、主人公たちが特赦を知って引き返そうとするあたりから面白くなった。押さえた演技など誰ひとりしない韓国コメディーとあって、ヴァイタリティーに溢れている。必ずしも全体のバランスが取れているわけではないし、ベタなギャグも多いのだが、魅力のある作品に仕上がっている。広がったストーリーを、きちんと収めたラストもなかなか良い。
コンスタンティン
キアヌ・リーブス主演のアクション・ホラー。映像的には凝った場面もあり、退屈しなかったが、畳み込む快調なテンポというほどには至っていない。ストーリー自体は、低予算B級ホラー向けのものを、無理やり大作化してしまった印象で、スケール感が伝わってこなかった。キアヌ・リーブスのダーク・ヒーローぶりは、まあ悪くないのだが、対する悪役が不在。クライマックスも、主人公があまり活躍しないし、堕天使ルシファーが妙なオッサンだったりで、もう一つ盛り上がらなかった。
天国からの手紙
序盤、死んだ父親が火星に行ったと信じて手紙を出す少女と、父親のふりをして文通する少年のエピソードはなかなか微笑ましいのだが、主人公が成人してしまうと、ドラマのピントがはっきりしなくなってしまう。主人公が朴訥(ぼくとつ)とかいうよりも、無神経、鈍感に見えてしまう場面があるのも難点。無理やりファンタジックにまとめた終盤も唐突で、理解に苦しむ展開だった。
地球を守れ!
妄想に取り付かれた男が、恨みのある社長をエイリアンだと言って誘拐する。カルト作というか、超異常のブラック・コメディー。なんとなくオタクな風貌のシン・ハギョンは「天国からの手紙」の役よりも、こちらの方が合っている気がする。ラストのオチは、ある程度予測がつくが、途中の展開は予断を許さないものがあり楽しめた。残念なことは、回想シーンの内容が把握しづらかったこと。刑務所と化学工場の場面が区別できなかった。