ムービー・マンスリー2005年6月
オペレッタ狸御殿
独自の映像世界を作り上げる鈴木清順監督だが、今回は異世界が舞台ということで、更に奔放な表現となっている。限られた予算を逆手にとって水墨画を背景に合成したり、大胆な試みがなされている。ユニークなキャスティングも魅力的で、特に由紀さおり、平幹二郎、薬師丸ひろ子は、歌と怪演の両方で楽しませてくれる。チャン・ツイイーも、これまでにない楽しげな表情で美声を披露してくれる。オダギリジョーは、演技は良いのだが、歌は並みというところか。ハワイアン調、ロック調など曲もバラエティ豊かだが、ラヴソングに決定的なメロディーラインがないのが少し残念だった。
ザ・インタープリター
タイトルどおり通訳が事件に巻き込まれるサスペンス。このところ監督作では不振が続いたシドニー・ポラック。今回は、最盛期には及ばないものの、水準以上の娯楽作に仕上げた。ニコール・キッドマン、ショーン・ペン、主役二人の魅力によるところも大きいと思う。キャサリン・キーナー演ずる捜査官も、特に見せ場があるわけではないにもかかわらず、存在感があった。国連ビル内初のロケが売り物だが、裁きを国連に託す玉虫色の決着は撮影許可を得るためのものだろうか。
ブレイド3
マーベル・コミックを映画化した3部作完結編。CGやワイヤを多用したアクション、適度にスタイリッシュな映像が魅力のシリーズだった。ヴァンパイアが景気良く消滅していく描写が売り物だったが、3作目ともなると多少マンネリ気味。今回の敵は、ボスキャラ以外はちょっとオマヌケっぽくて、ユーモラスだが迫力には欠ける。結局ヴァンパイアが滅び去ったのかどうか分からず、やっぱり続編への未練を残しているように感じた。
交渉人 真下正義
「踊る大捜査線」のスピンオフ第一弾。おなじみの顔ぶれからゲストまで、キャラクターの立て方が相変わらずうまい。演技者たちも乗っているのが分かる。寺島進の一見ガラが悪いが実は人の良い刑事だとか、國村隼の「お母様」とかも楽しい。演出、編集にもテンポがあり、見ていて引きつけられた。残念なのは、犯人との対決から事件解決へと進むクライマックスが大味なこと。犯人像を全く謎のまま終わらせてしまったことも、ネゴシエート、プロファイルをテーマとした作品としては手抜きの印象を受けた。シリーズ次回作「容疑者 室井慎次」では、事件もしっかりと描き込んでほしい。
エレクトラ
「デアデビル」は、続編を狙ったのか悪役が二人とも生き残ってヒロインだけ死ぬ歯切れの悪いラストだった。ところがヒロインのエレクトラが評判をとったため、生き返らせてスピンオフ作品を撮る事態となった。残念ながらトホホなできばえ。これだったら「キャットウーマン」のほうがまだしもという気にさせられた。前半は地味な展開で後半に奇人怪人軍団との闘いが描かれるが、格闘シーンが淡泊で物足りない。不死身のごとく現れたボブ・サップなんか、ろくに闘いもせずに消えていく。主人公が2回も倒されるのも情け無い。変な東洋思想も描かれるが、それにしても至高の瞑想「キマグレ」なんて誰が名付けたんだか。ジェニファー・ガーナーが片言の日本語を話すのは分かるが、対する忍者も片言なのはおそまつ。冒頭のナレーションで偉大な存在として語られる「宝」も、終盤では殺し屋の卵程度の意味合いになってしまう。組織が簡単に手を引くとは思えず、ラストで「普通の生活に戻れる」とか言われても、なんか安心できない。
キングダム・オブ・ヘブン
十字軍をテーマにリドリー・スコット監督らしいダイナミックな映像とドラマで綴った力作。十字軍遠征が結局は狂信者に牛耳られ、富と領土をめぐる侵略行為に終始したことを描き出している。かかった予算のわりにアメリカでの成績が奮わなかったのは、キリスト教徒よりイスラム教徒のほうが紳士的に見えるせいだろうか。十字軍は、ろくに水もないのに進軍しちゃうバカの集団に描かれているし。オーランド・ブルーム演じる潔い清廉な主人公が魅力。本当に神がいるとするならば極めて寛大な存在で、「異教徒は殺してしまえ」なんてことは言わない気がする。
フォーガットン
記憶操作を扱ったSFサスペンス。序盤はミステリアスで、なかなか面白いのだが、だんだん怪しげな展開になってくる。飛行機消失事件までなかったことにできるのだから、あとは何でもあり。かなり強引なストーリーで、次第にどうでもよくなってくる。ラストまで見れば、なるほどと思える部分もあるのだが、全体的には高い評価にならない。
戦国自衛隊1549
前回の映画化は、半村良原作のストーリー部分をすっとばした愚作だったが、今回はオリジナル・ストーリー版。いろいろ工夫しているのは分かるが、突っ込みどころ満載の珍作となった。設定、展開ともにかなり強引、力技で押し切った印象が強い。電子機器は全てストップするとか言いながらヘリコプターが飛び続けているし、伊武雅人が防弾チョッキで不死身になるなら嶋大輔が死ぬのは納得できないとか、生瀬勝久の死は中盤の見せ場となるはずだが犬死ににしか見えないとか。だいたいバッテリーをどう改造したら核爆弾並みの破壊力になるのか。まあ突っ込みながら観られる見飽きない作品ではあるが。歴史のつじつまを合わせると言いながら結果的には新しい歴史を作ってしまっていると感じた。北村一輝のサムライぶりが魅力だったが、綾瀬はるかの姫様はなんだかコギャルみたいで実は彼女もタイムスリップしてきたのかと思った。
ミリオン・ダラー・ベイビー
主役の三人は見事な演技を披露するし、時にはユーモラスに時には冷徹にドラマを描いていくイーストウッドの演出も冴えている。その分、終盤はしんどいものがあった。ホワイト・トラッシュとして一生を過ごすより、輝いた瞬間があったのだから満足なはずだ、とか言われても納得できない。前作「ミスティック・リバー」に比べれば共感できる部分もあったが、見終わってドンヨリした気分にさせられた作品。イーストウッド監督作は、うらぶれたロデオ一座が、ささやかな敗者復活戦を果たす「ブロンコ・ビリー」の頃が一番好きだった。
電車男
新しいメディアをテーマとしたラヴストーリーだが、ひたむきだが不器用な青年の恋と、それを応援する仲間たちという基本的にはオーソドックスな構成にしたことが成功。素直に感動できる作品に仕上がった。違う自分を見せようと必死になるあまり空回りしてしまう主人公には共感を覚えたし、少しずつ描かれるチャット仲間のドラマも作品に厚みを与えている。エルメスの人物像かなかなか見えてこないのが不満だったが、ラストで少し描かれていたのでホッとした。
ホステージ
なんとなくブルース・ウィルスは、オープニングで失態をやらかす役が多い気がする。「薔薇の素顔」「シックス・センス」「スリー・リバーズ」とか。ちょっと情け無いけど、ドラマに陰影を与える効果はあるかもしれない。今回は二重の人質事件、サイコな犯人描写、子供版ダイ・ハード(シリアス版ホーム・アローン」というべきか)等、ごった煮的展開で、とりあえず飽きさせない。大仰なセキュリティーシステムが何の役にもたたずチンピラが簡単に侵入したり、犯人が誰一人として人質の少年を気にかけないとか、緻密なストーリー展開とはいえないが、それなりに楽しめる作品に仕上がっている。主人公が 、かなり無茶やってるので後始末どうするのだろうかと心配になった。