ムービー・マンスリー2005年7月
ザ・リング2
ハリウッド・オリジナルの続編。今回は憑依物のオカルト映画となっており、リングらしさには欠けてしまった。冒頭のビデオに関するエピソードなんか、とってつけたような印象になっている。親子の愛情がテーマで、水がキーポイントというあたり、なんだか同監督作品「仄暗い水の底から」のリメイクを見ている気分になった。本物のリメイク版「ダークウォーター」は、後からの公開なのでだいぶワリくったのではないだろうか。全体的に地味な作品で盛り上がりに欠けている。やっぱり地味だったけど「仄暗い水の底から」の方が情感があったと思う。脚本の差なのだろうか。
50回目のファースト・キス
ナンパ男の獣医が初めて本気になった相手は、新しい記憶を持てない女性だった。悲劇的設定を完成度の高いラブコメにまとめてみせるところがアメリカ映画の強さ。笑って泣かせる王道的作品。ギャグは下品なものも多いので好みが分かれるかもしれない。ドリュー・バリモア久々の当り役という気がするし、「ウォーターボーイ」以来気になるアダム・サンドラーも快演と思う。主役二人だけでなく、動物を含めた脇役も魅力的に描かれていた。
バットマン・ビギンズ゙
バットマンの新作は過去にさかのぼって若き日のブルース・ウェインを描く。コスチュームやバットモービルの誕生秘話も楽しめる。ブルースがヒマラヤ山中で修行する姿は、なんだかジュダイを連想させて興味深い。マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマンとバットマンをサポートする側が豪華なのに比べ、序盤で渡辺謙が退場してしまうと、リーアム・ニーソン終盤の孤軍奮闘くらいで悪役が弱く感じられるのが残念。そのためクライマックスも、大規模テロにも係わらずスケール感に欠ける展開となってしまった。これまでのシリーズ作品に比べて女優が弱いのも難点。
マラソン
自閉症の息子を思うあまりエゴイスティックになってしまう母親と、走ることに喜びを見いだしていく青年。この二人の物語に、青年をコーチすることによって酒びたりの生活から再生していく元オリンピック選手を絡めた人生ドラマが丁寧に描かれていく。韓国映画としては比較的控え目な演出で均整のとれた作品。難しいもので、逆に淡々とした印象になってしまい、感動作とまでいかなくなってしまった気もする。とはいえ見終わって清々しい気分させてくれる佳作だった。
亀は意外と速く泳ぐ
「イン・ザ・プール」に続く三木聡監督作品。平凡な主婦がスパイとなって目立たない生活をするトボけたコメディ。旦那さんが単身赴任中で影が薄いため、あまり主婦っぽくないけど上野樹里のコメディエンヌぶりが魅力的。蒼井優の派手好きなキャラクターも楽しい。要潤の怪演も見もので、その他脇役もなかなかユニーク。極上ラーメンを作れる職人がヒロインに残したレシピが、そこそこラーメンだったというオチにペーソスを感じた。ビデオ撮りらしく、輪郭が妙にボケた映像なのが残念だった。
逆境ナイン
「地獄甲子園」「あゝ!一軒家プロレス」と、このところ年一本はバカ大爆発スポーツ映画を見ている気がする。今回は上記二作に比べ、まとまっている分アナーキーさには欠けてしまった。攻撃の間もグラウンドに寝ていたという設定は、さすがに無茶苦茶と思うが。とはいえ島本和彦原作らしい破天荒な熱血感は伝わってきた。その場のギャグかと思ったモノリスがずっとあって拭き掃除してたりする細部へのこだわりは好感が持てる。対戦相手にもっと強烈なキャラクターがいたら、もっと面白くなったと思う。
宇宙戦争
H.G.ウェルズの古典SFを映画化。最新技術を駆使して見せ場たっぷりのSFスリラーに仕上がっているが、全体的には1963年版の方に軍配が上がる。描写を主人公の周辺のみに絞り、観客に与える情報量を減らして不安感、恐怖感をあおる手法が、前半で効果を上げている。後半は視点を変えて事件全体を描いたほうがスケール感がアップした気がするが、あくまでトム・クルーズのスター映画に徹したということなのだろう。アスファルトの下にあんなバカでかいものが埋まっていたら、いくらなんでも気づくと思う。原作のオチをナレーションであっさり流しているので、原作も前回の映画化も知らない人には何が起きたのか分かりづらかったのではないだろうか。100万年準備したあげく、この末路というのは、すごくマヌケに見える。いきなり来襲したら失敗しちゃった、という設定の方が説得力あった気がした。米軍の勇姿も見せなきゃと思ったのか、とってつけたように倒れかけたトライポッドに総攻撃をかけて気勢を上げるのもイマイチ。ラストの再会も唐突で御都合主義と感じた。
ヒノキオ
車椅子の生活で家に引きこもる少年が、リモコン式ロボットを使って登校するファンタジー。合成音声による会話、ディスプレイを通した視界、痛みを感じない身体。それらは少年から現実世界とゲームの境界線を失わせていく。前半の展開は楽しさと同時に、結局は現実を避け続ける不安感を感じさせる。父子の確執、友情、恋、嫉妬。様々なエピソードが織り込まれ、多少未整理ではあるが、心の光と闇が描かれていく。全体には軽やかなテンポを持っており、さわやかな後味の作品となった。このところ竹内結子が心霊ファンタジー映画の女王的存在になっているが、元祖的存在は原田美枝子だったなあと懐かしく思ったりもした。ところで武器製造疑惑は晴れたのだろうか?
人形霊
人形ホラーの中では、わりと楽しめた作品。人形は、ひっそり置かれていると不気味だが、実際動きだしてしまうとなんだかユーモラスに見えてしまう場合が多い。(1作目のチャッキーとか例外もあるが)今回は、そのあたりをうまく処理している。もっともサスペンス・タッチの演出で退屈しなかったが、ショック描写は弱く、実際にはそれほど恐くないのが残念。ドライなヒロインと彼女を慕い続ける人形の対比や、犯人たちの葛藤など、ドラマ的に興味深い部分もあり、もう少し掘り下げても良かった気がする。かんじんの人形が、どうなっているのか分からないのも物足りなかった。
星になった少年
日本で始めての象使いになった少年の短すぎた人生を描いた作品。素朴な印象の演出に好感が持てたが、シャープさには欠ける。ギャグも、スベリ気味。せっかくタイでロケした中盤も、こじんまりとまとまってしまったのが残念。坂本龍一の音楽に映像が負けてしまっている気がした。柳楽俊弥の象使いぶりは、なかなか堂に入っていて感心した。象への想いは伝わってきたが、家族の絆に関する描写は少々くいたりない。主人公の死後、動物プロダクションがどうなったのか、よく分からないのも気になった。(セリフでは移転したと言っているが、さびれて廃業したような印象を受けた)