ムービー・マンスリー2005年8月
アイランド
特に新鮮味はないが、マイケル・ベイ監督の得意とする無意味にド派手な見せ場を織り込みながら、飽きさせずに見せる力を持った作品。ヒロインがアイランドの非実在をあまりにも簡単に納得してしまうとか、スティーヴン・ブシェミ扮する職員がいきなり危険を顧みず協力してくれるとか、傭兵が突然心変わりしたりとか、心境の変化が都合良すぎる傾向が気になった。そのため、良くも悪くも軽い娯楽作というレベル。クローン人間のアイデンティティに対する苦悩が、もう少し織り込まれていれば深みが増した気がする。
姑獲鳥の夏
原作は読んでいないのだが、あの分厚い冊子の内容がこの程度なのか、それとも全然違う内容なのかが気になった。映像的には多少凝った部分もあるのだが、ドラマが弱すぎる。事件そのものが、きっちり描かれていないので、クライマックスに謎ときが始まっても、あまり興味が湧いてこない。豪華な顔触れも空振りで、名優といってもおかしくない出演者まで凡庸な演技に終始している。実相寺昭雄監督作品は、テレビの特撮物と官能的なエロス作品という両極端に興味深いものが多く、一般映画にハズレが多い気がする。
0:34レイジ34フン
地下鉄を舞台にしたイギリス製スブラッター映画。この手のジャンルとしては、水準以上の映像と演出とは思うが、やっぱりB級作には違いない。特にストーリーは大ざっぱというかデタラメ。ネタをばらしてしまうことになるが、どうやら地下だけ残された廃病院に閉じ込められた男がネズミを養殖して生き延びていたが、壁が壊れて地下鉄につながったので今度は人間も養殖し始めた、という設定らしい。これだけでも、かなり苦しい。地下に閉じ込められていたにしては強靭すぎるのではないかという気がしたが、これはこのジャンルのお約束ということで仕方ないのだろう。それでも地下鉄の運転まで出来てしまうのは納得できない。だいたい地下鉄が勝手に動いたり停まったりしたら、すぐに調査しに来るだろう。クライマックスもテンポが悪く感じられた。ヒロインのフランカ・ポテンテは、いかついドイツのオバサン的風貌になってきたが、このまま最低映画界の住人になってしまうのだろうか。
スターウォーズ・エピソード3/シスの復讐
映像的には、さすがに良く出来ていて、冒頭の空中戦シーンは奥行きがあって引きつけられた。火山でのクライマックスも大迫力だが、あんなところで戦ったらハナから燃え上がってるんじゃないかという気はした。これまでにないダークなタッチが魅力だが、ドラマ的には、期待したほどには厚みがなく、辻つま合わせの印象がぬぐいきれなかったのが残念。なるほど!そうだったのか、と唸らせるような、ひねったアイデアが盛り込まれていると嬉しかったのだが。シスの暗黒卿はショぼいじいさんという感じでカリスマ性に欠ける気がしたが、ユアン・マクレガーの不気味な美形悪役ぶりは鮮やかだった。
ロボッツ
このところ人間の皮膚やフサフサした毛皮の質感を見事に表現したCGアニメが作り出されているが、今回は金属の質感に挑戦している。硬質さを表すとともに温もりを感じさせるキャラクターとして描き出されていて、なかなか見事。ポンコツロボットたちの敗者復活戦という内容も良かった。(旧式ロボットをスクラップにしようと企む邪悪な母親が一番ボロく見えるが)ドミノのシーンも圧巻の出来。手描きではちょっと不可能な物量と思った。キャラクターの設定もうまく、魅力的な登場人物が多い。
亡国のイージス
今年3本目の福井晴敏原作映画。「ダイ・ハード」タイプのアクションで、突っ込みどころも多いのだが、3作中では一番楽しめた。勇壮さよりも悲壮感が先立つのが日本映画らしいところか。寺尾聡は相変わらず良い演技をしているし、真田広之も頑張っている。中井貴一も、ゴタクを並べる不気味なテロリストを好演。ただ、この犯人が何を目的に行動しているのか最後まで判然としないので、盛り上がりを欠いてしまったのが残念。もっと長い上映時間になるはずだったのをカットしたような印象も受けた。特に犯人と妹の描写は中途半端。突然挿入される野球場の場面は意味不明だった。政府首脳の犯人に対する言葉使いが丁寧すぎて、テロリストに下手に出ているように見えるのも気になった。
マダガスカル
動物園育ちの都会派アニマルたちがマダガスカルに漂着、野生にかえるってことは、草食動物と肉食動物は仲間ではいられないってことで、というストーリーだが、全体的にファミリー映画に徹し、展開は他愛ない。懐かしい曲が次々とかかるし、キャラクター・デザインも悪くない。健康オタクのキリンなんかデヴィッド・シュワイマーの雰囲気が出ていて笑ってしまった。特に印象深い場面はないのだが、見ている間軽く楽しめればOKという作品なのだろう。
霊リョン
意外と拾い物だった韓国製ホラー。突然バカでかい音響を入れて脅かそうとする。ちょっと卑怯な手口だが、確かに驚かされた。ドラマの設定全般が見えてくるのが全体の半分くらい過ぎてからので、少々まだるっこしいのだが、後半は良くまとまっている。真の悪霊は何者かというミステリアスな展開がなかなか面白かった。キム・ハヌルの悪い顔もハマっていて、なかなか怖い。ラストの母親の目つきは、意味が良く分からなかった。今度はこっちに取りついたということなのか。
チーム・アメリカ/ワールド・ポリス
他国でテロリスト以上の破壊行為をしてアメリカの正義を守るチーム・アメリカ。「サンダーバード」タイプのマペット・ムービーとして描かれるのだが、表情の豊かさなど、技術的な進歩に驚かされた。人形の個体数も多く用いられており見映えがする。残念ながらギャグそのものは不発で、人形のセックスやゲロにこだわったタブーのない描写がトレイ・パーカーらしいものの、爆笑するほどの場面はない。ドラマ自体アクション・シーン以外は痴話喧嘩みたいな内容だし。何もかもおちょくっちゃえば楽しいや、という作り方で明確な視点はないので、結局は火薬とCGの量で勝負して強いアメリカを歌いあげるハリウッド・アクションと大差ない印象に終わっている。アレック・ボールドウィンがこれほどの大物とは知らなかったので意外だった。マペットのタイプは違うけど、人形バイオレンスのブラック・コメディならピーター・ジャクソン監督の「ミート・ザ・フィーブル怒りのヒポポタマス」の方がはるかに好き。
妖怪大戦争
神木隆之介は天才子役って振れ込みだけど、確かに上手い。菅原文太のボケ老人ぶりも面白かった。魔人加藤の豊川悦史はすごんでみせるが、嶋田久作の存在感あるキャラクターがインパクト強すぎて、今回はガラの悪いホテルの支配人という印象になってしまった。SFXがきっちり出来ていて見ごたえがある。妖怪の群衆シーンも迫力あった。すねこすりにぬいぐるみを多用して手づくり感を残したあたりも楽しい。個人的には、中盤主人公が山で妖怪たちに驚かされるあたりが、お化け屋敷感覚で一番楽しめた。クライマックスは、思い切り盛り上げておいて、この決着というのは、かなり脱力感を覚えた。豆の力がもっと具体的に描かれていれば良かったのだが、赤飯食べてたら襲われないという描写にしても麒麟草子に祭られた物だからという印象だったし。アルバート・ピュンかと突っ込みたくなった。水木しげるのカメオ出演も楽屋落ちっぽいので、ラストには持ってこない方が良かったかもしれない.。いろんな意味で、なかなか楽しめる作品ではある。