ムービー・マンスリー2005年9月
七人の弔
金に目がくらんだ親たちの、あさましい姿を描いた異色のドラマ。ブラック・コメディかと思ったのだが、笑い所は意外と少なく、けっこう張り詰めたドラマが展開する。脚本を担当した「生きない」といい、ダンカンはバスに乗って非日常世界へと入っていく物語が好きなのだろうか。設定も展開も現実感には欠けているので、寓話的作品ということなのだろう。見飽きない作品だったが、銀行強盗じゃあるまいし、一人減ったら分け前が増えるという大前提に説得力に欠けるのが残念。
奥様は魔女
リメイク版「奥様は魔女」の主演女優は本当の魔女だったという少しひねった設定だけに楽屋落ち的なギャグが多い。「俺が目立つように新人を使え」とか言いながら、スカウトするのがニコール・キッドマンだから、それだけで笑えてしまう。とにかくニコール・キッドマンのチャーミングさで見せてしまう映画で、マイケル・ケインとシャーリー・マクレーンのヴェテランもうまくサポートしている。ダーリン役がブサイク、という伝統もなぜか引き継がれている。「ズーランダー」の悪役が印象的だったウィル・フェレルだが、ロマンティックなタイプではないので、終盤に雰囲気が盛り上がらないのが残念。ヒロインの魔法を生かした華やかなクライマックスを用意したほうが楽しかったように思う。
サマータイムマシン・ブルース
「消滅するのは歴史かエアコンか」というSFオバカ・コメディー。このところ好調な上野樹里が、今回は準主役を溌剌と演じている。昨日と今日と過去と未来を右往左往する五人のオマヌケSF研と未来人が、とにかく可笑しい。時間旅行そのものがパラドックスという気がするので、矛盾がないかというと難しいが、凝ったストーリー展開で楽しませてくれる。主人公のヒロインに対する想いを、もっと前面に押し出したほうが印象深くなった気もする。もう一度見て細部を確認したくなる快作。
ビー・クール
前作では映画製作の世界に引き込まれていったチリ・パーマーが、今度は音楽業界で活躍するシリーズ第二弾。新人歌手を巡るギャングとの抗争(この業界は全員ギャングなんだとか)と、スチャラカなサクセス・ストーリーが、入り乱れて描かれる。アクの強い登場人物たちが、スタイリッシュとまではいかないが洒落たタッチで物語を展開していくのは前作と同じ。クライマックスがちょっと弱いことも前作と同様なのだが、演奏される楽曲が魅力的。エアロスミスのシーンなんか、けっこう盛り上がる。意外というかザ・ロックが演じたスターを夢見るオカマの用心棒がハマッていた。
容疑者・室井慎治
「踊る大捜査線」のスピン・オフ第二弾。眼力で勝負する柳葉敏郎、過去を引きずりながらも頑張る田中麗奈、男気を見せる筧利夫、カメオ出演で笑いをとるスリー・アミーゴスと、このシリーズは相変わらずキャラの立て方がうまい。ただ、対立する側が弱く感じた。エリート弁護士グループが変質者の集団にしか見えないので、彼らに翻弄される官僚も薄っぺらく見えてしまい、作品全体に厚みが欠けてしまった。大山鳴動してバカ娘一匹というオチも腰くだけ。事件解決が検察の活躍によるもので、現場の刑事たちの捜査がはとんど役に立っていないのも残念。途中で提示された、なぜ室井が標的にされたのか、という謎も立ち消えになっている。広げたフロシキにふさわしい陰謀が用意されていることを期待したのだが。とはいえ、次回作もぜひ作ってほしい。新婚旅行先で事件に巻き込まれて行方不明になったユースケ・サンタマリアを捜す水野美紀だとか。
チャーリーとチョコレート工場
ティム・バートン監督の新作はロアルト・ダール原作のリメイク。原作も前作も見逃しているのだが、本作は最新の技術を駆使し、映像、キャスト、音楽ともに見事な出来映え。ジョニー・デップの怪演も楽しいが、やたらと増殖しているディープ・ロイも笑わせてくれた。ティム・バートン一流のひねったユーモアも生きており、ラストで「エクソシスト」のスパイダー・ウォークみたいになっちゃう女の子なんか不気味に可笑しかった。父子の葛藤と和解をテーマの一つとしたあたりは、前作「ビッグ・フィッシュ」にも通じる部分があって興味深かった。
頭文字D
原作は大人気のコミックだが読んでいない。ヒロイン以外の主要キャストは香港俳優、役は日本名で舞台も日本の豆腐屋という異色作。字幕版と吹き替え版どちらで見るか迷ったが、吹き替えの予告編に違和感を覚えたので字幕版で見た。やはり、しっくりいかない印象があり微妙なところ。作品自体はなかなか面白かった。主人公はちょっと線が細いが、進む道を決めかねている段階なので違和感は感じなかった。鈴木杏は積極的なヒロインが似合っているし、「八仙飯店之人肉饅頭」が代表作のアンソニー・ウォンが演じる濃い親父もインパクトがあって良かった(ただし朝の早い豆腐屋のくせに、いつも酔いつぶれているので、家業としては成り立っていないと思う)。ようやく主人公が進路を決めたところで終わってしまうので、成長する姿を描いた続編を作ってほしい。
ファンタスティック・フォー
ザ・シングの苦悩とかも描かれるが、全体的には陽気なアメコミ・ヒーロー物。最近アメコミの映画化ではダークなヒーロー物のほうが主流という気もするが、ヴェトナム戦争の時代に悩めるヒーロー、スパイダーマンが登場するまで、本来のアメコミ・ヒーローは脳天気だった。気軽に楽しめる作品で、ヒューマン・トーチとザ・シングのやりとりが「キャプテン・フューチャー」グラッグとオットーを想起させて面白かった。メインのストーリーが倒産社長の仕返しなので、スケール感には欠けるが、気張らずに作ったのがかえって好結果をもたらしたのかもしれない。「X-MEN]と並ぶヒーロー・チーム物としてシリーズ化されると嬉しい。「ファンタスティック・フォー」は以前にも映画化されたが、「映画秘宝」によると低予算すぎてヒューマン・トーチが人間チャッカマンになってしまい、オクラ入りしてビデオ・スルーで発売されたとのこと。