ムービー・マンスリー2005年10月
NANA
ハチと呼ばれるナナの夢のような日々を正攻法で描き、見ていて心地良い気分にさせてくれる青春ドラマ。もちろん青春の痛みも描写されるが、全体的には心優しい空間が描き出されている。他の女性を好きになってしまう恋人も含めて、登場人物が皆誠実に行動していることも清々しく感じた。宮崎あおいは、巧みな演技で少し子供っぽいヒロインを演じ切っている。中島美嘉はちょっと恐そうなメイクで実は世話好きというキャラクターが、少し固めな演技にうまくハマっていた。回想場面でフリルのドレスが似合っていないところが妙に可愛い。続編は2年後の公開予定という記事を見たが、もっと早く作ったほうが良いような気がする。
SHINOBI
意外と丁寧に作られており、映像も美しいし、ストーリーもまとまっている。仲間由紀恵が凛々しく演じるヒロインをはじめ、個性的なキャラクターが揃っている。オダギリジョー演じる主人公は、一人戦いを回避しようとする先進的な思想の持ち主だが、ドラマの中ではちょっと地味な役回りとなってしまい気の毒。品格を感じさせる作品だが、忍者の戦う描写は少々品が良すぎてあっさりした印象。せっかくCGとワイヤアクションを駆使して描くのだから、忍術や忍者の死に様の描写は、もっとケレン味たっぷりであったほうが満足のいく作品になったと思う。
タッチ
コミックもアニメ版も見ていないのだが、それでもあらすじを知っているほど有名な原作。悪くない出来なのだが、そつなくまとまってしまった印象が残り、犬童一心監督作品としては物足りなかった。弟に兄が乗り移って、一球だけ変化球を投げさせるクライマックスには魅力を感じたので、もっとドラマチックに盛り上げても良かった気がする。長い原作を要約したためか、多少はしょった印象もあり、安藤希演じる恋のライヴァルのエピソードなんか中途半端。主人公3人は、達者な演技とはいえないが、脇を固めるヴェテラン俳優に支えられて健闘している。死体のまぶたが動いてしまった場面は、撮り直し出来なかったのだろうか。
メゾン・ド・ヒミコ
これまた犬童一心監督作品。ゲイ専門の養老院を舞台に、親娘の愛憎を中心としたドラマが綴られていく。死期の近いゲイのカリスマを演じる田中泯、ユーモラスな歌澤寅右衛門(プロフィールを見たら、まだ50前だったので驚いた)といった異色の顔ぶれが面白い。柴崎コウは、魔法少女ポーズ(アニメを見るタイプとは思えないのだが、どうして知っていたのだろう)とかコスプレが、見事に似合っていないところが可愛らしかった。オダギリジョーも良いのだが、ちょっと格好よすぎる気もする。心の通う部分を感じながらも、結局は父親を許せずに終わるあたりが味わい深い。ラストの落書きも魅力的で、素敵な幕切れだった。
シン・シティ
トーンを効かせたモノクロームの映像を部分的に着色した超スタイリッシュなハードボイルド・アクション。原作もアメコミならぬグラフィック・ノベルズ(直訳したら絵本か?)だそうで、やたらとモノローグを多用しているのも、原作の雰囲気を出すためなのだろう。原作者に加えてタランティーノ+ロドリゲスのタッグなので、おバカ・テイストもきっちり盛り込まれ、最後まで飽きさせない。正義や悪ではなく、自ら律した掟のために生きて死んでいくアウトローたちが力強く描かれている。豪華なキャスティングの中には原形をとどめぬ特殊メークのスターもいて、ちょっと「ディック・トレイシー」を思い出したりもした。ブルース・ウィリスやミッキー・ロークは、久々の当たり役と思うし、ジェシカ・アルバも続編の活躍に期待がかかる。タールの池に潜っても次のシーンではお肌ツルツルの殺人兵器ミホも格好いい。ミホVS.ゴーゴー夕張なんてエピソードを作ってほしい。
スパイ・モンキー
おサルのスパイは、日本消滅の危機を回避できるのか。文字通り全編サル芝居の家族向けおバカ・アクション・コメディ。演出・編集ともにスマートとは言えないのだが、個人的には「オースティン・パワーズ」より笑えた。特に可笑しかったのがお辞儀とニンジャ軍団だったので、ある意味日本人が笑える映画かもしれない。さすがのモンキーも開いた口がふさがらないパット・モリタの珍演が見もの。「バットマン・リターンズ」といい、西洋人の東洋観には、東洋の山奥には秘密結社のアジトがあるという不文律でもあるのだろうか。
四月の雪
韓国映画の中でも特に優れていた「八月のクリスマス」の監督が手がけた新作。ということで期待が大きすぎたのか物足りなく感じた。静謐(せいひつ)ともいえる抑制の効いたタッチで綴られるが、もう少しメリハリがあったほうが面白かった気がする。悪いドラマ内容ではないのに、少々退屈してしまった。時折見せるソン・イェジンの笑顔が良い。春の雪の中を二人が旅立っていくというラストは印象的なのだが、木々の葉がすべて落ちた状態で、風景がただの冬景色にしか見えないのが残念。
カースト
ウェス・クレイヴン監督、ケヴィン・ウィリアムソン脚本コンビの新作ということで期待したが、わりと普通の人狼アクション・ホラーだった。出来栄えも、まあまあといったところ。このコンビの作品らしく、ユーモア・センスの光る箇所があり、カミング・アウトには笑えた。誰が人狼かというミステリー仕立てにもなっているが、さほど効果はあげていない。クリスティー・リッチは、ちょっとした表情の変化など相変わらず達者な演技を見せているが、本領発揮というほどの見せ場がないのが残念。
フリーズ・フレーム
各種の監視装置を駆使して、自らのアリバイを作り続ける男。管理社会を逆手に取ったアイデアはなかなか面白い。展開が強引で、説得力に欠ける部分があるのが残念。特にヒロインの行動に一貫性がなく感じられた。低予算で工夫しながら作っているのは好感が持てたし、新しい才能を感じさせはするので、次回作に期待したい。
エイリアンVS.ヴァネッサ・パラディ
おバカはおバカでも、もう少しポップな感覚で作られているかと期待したのだが、かなり泥臭かった。エイリアンの侵略自体、クライマックスまではオマケ程度で、田舎町のドタバタがメインとして描かれる。しかも笑えないギャグが多い。いかにも作り物という犬は悪くなかったが。ストーリーはデタラメで、オチもつまらない。助けにきた宇宙のヒーローが勘違いで倒されてしまう展開も、「テラービジョン」などのB級ホラー・コメディで使われているので新味がない。
この胸いっぱいの愛を
「黄泉がえり」のスタッフによる作品ということで期待したのだが、ちょっと物足りなかった。タイムスリップの真相が今となっては使い古されたネタであったり、タイムバラドックスの問題があったりすることは、まあいいとしても、ドラマ自体が弱い。「黄泉がえり」のクライマックスがロック・コンサートだったので、今回はクラシック・コンサートにしたら受けると計算したのかもしれないが、強引な展開に感じられてしまった。ラストは悪くないのだが、地味すぎると感じたのか、取ってつけたようなファンタジー・シーンが付け加えれているのが減点。
マカロニウェスタン800発の銃弾
「銭形金太郎」のテーマパーク特集に出てきそうなメキシコのウェスタン村を舞台にした快作。客より出演者の方が多くて、経営が成り立っていそうには見えないが、出し物は(ちゃんとやっているときは)わりと面白そうだし、馬に乗って街を闊歩すれば、けっこう受けてたりする。主役たちはもちろん魅力的だが、脇役も個性的に描かれている。「俺はいつも地味な役だった」という本当に影の薄い葬儀屋役者、絞首刑専門の男、ダミ声の婆サマ、やけにかっこいい娼婦、ヘンに端正な顔立ちのインディアンetc.皆印象が強い。粗削りな面もあるが、「ビッグ・フィッシュ」や「チャーリー少年の夏休み」とは趣の異なるラテン系のホラ話として大いに楽しめた。