ムービー・マンスリー2005年11月
蝉しぐれ
今回は東宝が藤沢周平の映像化に挑戦。丁寧な演出で映像も美しい。特に前半の若い主人公たちを描いた部分が瑞々しくて良い。後半、犬飼兵馬の登場シーンが妙に劇画っぽく、全体から浮いているように感じた。刺客たちが引き上げたあとに乗り込んでくるのも意味が分からない。クライマックスで与之介(今田耕司は上手い演技ではないのだが、儲け役で得した)が、絶妙なタイミングで現れてフォローするのだが、どうやって示し合わせたのが分からなかった。市川染五郎の抑えた演技は良いのだが、結ばれなかった恋という情感が盛り上がらず、お家騒動ばかり目だってしまっている。
ドミノ
ローレンス・ハーヴェイの娘にして先日開始を遂げた賞金稼ぎドミノ・ハーヴェイの伝記映画なのだが、実録っぼい印象はほとんどない。派手なヴァイオレンス・アクションが展開するのだが、凝り過ぎた編集がかえって散漫な印象を与えてしまった気がする。ストーリー自体は、それほどたいしたことないので、正攻法で撮るとジム・ウィノースキーのアクション映画みたいになってしまう可能性もあるが。事件に巻き込まれてしまった売れないテレビ俳優というのは面白かったが、セレブな人質とかいっても何の役にもたっていない。久しぶりのジャクリーン・ビセットをはじめ、クリストファ・ウォーケン、ミーナ・スヴァーリと脇も良い顔ぶれだっただけに残念。
コープス・ブライド
ティム・バートンの作品は、ユニークな世界観にもとづいていても、娯楽作品としてのツボを押さえているので安心して楽しむことができる。今回もダークな雰囲気でありながら、明るい気分で劇場を出られる物語になっている。展開は意外とストレートで中盤でオチも見当がつくが、キャラクターが魅力的に描かれているので、思わず引き込まれてしまう。「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」に比べると地味な印象になっているが、なかなか良くまとまった作品と思う。
春の雪
丁寧できちっとした演出がなされているし、演技的にも悪くはないのだが、主人公に共感できず、楽しめなかった。主人公は、クールに決めた自分を演じているが、その内面がけっこう幼稚なことを周囲に見抜かれている。前半ウジウジしていて全てが手遅れになってから行動しはじめるので、単なる破滅志向に見えてしまう。愛情表現そのものも、ピンとこなかった。もしかしたらヒロインは口実にすぎず、本当は親友の本多を愛しているのではないかと思える部分もあった。彼氏の腕の中でうっとりと息絶えたりしたら別の映画になったかもしれない。照明をあまり使わずに撮影して独特な映像を作り出しているようなのだが、コントラストのきつい画面が多く、個人的にはもっと落ち着いた映像のほうが良かった。
ブラザーズ・グリム
同じブラック・ユーモア好きでも、ティム・バートンと違ってイマイチ安心していられないのがテリー・ギリアム。今回も完成度の高い作品とは言えない。全体的にまとまりが悪いし、盛り上がりにも欠ける。グリム兄弟の童話キャラを登場させているが、遊び心を感じさせるほどには効果をあげていない。軽いタッチの冒険アクションにするか、重厚な伝奇ロマンにするか、どちらかに徹したほう良かったと思う。一応見せ場は用意されているのだが、監督自身あまりノッてないような気がした。製作の背景を知らないのだが、もしかしたら雇われ仕事なのかもしれない。
ソウ2
相手を極限状態に追い込んで死のゲームを仕掛ける殺人鬼ジグソウを描くシリーズ第2弾。さすがに1作目の鮮烈さはないが、緊張感にあふれドラマが展開する。主人公の刑事を含めて、知的なタイプの登場人物がおらず、誰もジグソウのゲームに乗ってこないので、ミステリー的な魅力には欠けてしまった。ところが、このこと自体が罠だったりするトリッキーな仕掛けは、なかなか鮮やかだった。すでに第3作の製作も決まったようなので期待している。
パープル・バタフライ
チャン・ツィイー、仲村トオル共演作ということで期待したのだが、全く面白くなかった。反日プロパガンダ臭が強すぎる、ということは別にしても、芸術作品を気取った学生映画を見せられている気分になった。登場人物が歩いている場面を延々と撮り続けたりしているため、たいしたストーリーでもないのに2時間10分近い長尺となってしまっているのもつらい。キャラクターも表面的にしか描けていない。収穫は、相変わらず熱演のチャン・ツィイーと出番は少ないが魅力的なリー・ビンビン(「ただいま」のほうが大役だし、地味ながら良い作品と思うが)、それに仲村トオル以外の日本語のセリフも比較的きちんとしていたことくらいだった。
エリザベス・タウン
ちょっと良い話ではあるのだが、とりとめない印象で決定的な魅力には欠けていると感じた。主役の二人は好演で、現代劇は初めてというオーランド・ブルームは繊細な演技をみせているし、キルスティン・ダンストはこれまでで一番魅力的に感じた。ただし、人物像の堀下げは不足している。告別式でスタンダップコメディアンばりのトークをしてタップダンスまで披露する母親というのも、ちょっとついていけなかった。演じているのがスーザン・サランドンでなかったら恥ずかしい場面になってしまったかもしれない。音楽の使い方の圧倒的なセンスとか、脇のキャラクターの生かし方とか、キャメロン・クロウ監督らしい良さもあるだけに惜しい作品。
少林寺キョンシー
邦題は原題通りのようだが、少林寺拳法は出てこないし、キョンシーもそれほどは活躍しない。相変わらず脚本がないんじゃないかと思えるベタで大ざっぱなストーリー展開で、CGもチャウ・シンチー作品なんかに比べると地味めになっている。とは言うものの、個人的には香港映画らしいおバカ・アクション・テイストが感じられて、それなりに楽しめた。これまでに使われたアイデアを寄せ集めたような印象で、新鮮味に欠けるのも残念。
奇談
稗田教授は、以前「妖怪ハンター・ヒルコ」で沢田研二が演じており、メインのストーリーはともかく、大仰に描かれる婚約者の死がなんだかオマヌケで情け無かった。今回は阿部寛なのだが、妙に硬めの演技になっており、「どんとこい超常現象」の上田教授の方が魅力的に感じた。他の出演者も皆構えた演技をしているのが気になった。場面場面は丁寧に演出されていると思うのだが、全体としてはメリハリに欠けている。ストーリーはものすごく強引で、聖書のもじりというのは分かったが、神隠しに何の意味があったのかは理解できなかった。「謎が謎のまま残った」とか適当なモノローグで片付けているし。グチャグチャシーンのないルチオ・フルチ映画を見せられている気分になった。