ムービー・マンスリー2005年12月
ALWAYS三丁目の夕日
日本のSF映画に新しい局面を切り開いてきた山崎貴監督が、その特殊効果技術で懐かしい東京を作り上げた。高度成長期、日本が希望に満ちていた時代の人情物語。原作のエピソードを下敷きにしながらも、キャラクターは映画独自のものとなりオリジナルな世界観が描かれている。ベテランから子役まで皆魅力的な人物像を作り上げている。特に女優陣が溌剌としていた。オーソドッケスなストーリー展開が魅力で、腰のすわった人情噺として完成している。一平の初恋を描いた続編とか作られると嬉しいのだが。
イントゥ・ザ・サン
スティーヴン・セガール自身が原案・脚本に参加しているのだが、ストーリーはないに等しい作品。ヤクザとチャイニーズ・マフィアによる都知事暗殺事件をCIAとFBIが調査するという設定なのだが、途中でほとんど忘れ去られてしまう。これほどの大事件に日本の警察が絡んでこないのも変。次に出てくる麻薬密輸の件も途中から誰も気にしなくなってしまい、殉職した間抜け捜査官は犬死に以下の扱い。そのくせ露店でのいざこざに関する顛末には妙にこだわって描写され、バランスの悪さを感じた。感情を面に出さないセガールの芸風が今回は裏目に出てしまったように思う。大沢たかおはキャリアのプラスにならなかったし、寺尾聰は小遣い稼ぎ程度。栗山千明にいたってはカメオ出演にもなっていない。
私の頭の中の消しゴム
主演の二人が良かった。ソン・イェジンは魅力的なヒロイン像を次に上げているし、チョン・ウソンも男気を感じさせる風貌と演技だった。演出はテンポ良くラストまで引っ張っていくのだが、軽く流れてしまった印象で強く迫ってくる物を感じなかった。医者のキャラクターはエキセントリックすぎて違和感を持った。本人に告知する主義というのは分かるが、アルツハイマーの患者一人に話すというのは理解しがたい。ラストも不自然で中途半端。妙なコンビニの場面は幻想なのだろうか。「ここは天国ですか」というセリフは二人の心中を暗示しているのだろうか。よく分からなかった。
イン・ハー・シューズ
カーティス・ハンソン監督らしい、きっちりした演出が光る作品。キャメロン・ディアスとトニー・コットが演じる、全くタイプの違う姉妹の絆を中心に軽妙なタッチでドラマが描かれる。「8mile」では人生の大きな一歩を踏み出していく主人公をシリアスに描き出したが、今回は人生を変えることなんて、ちょっとしたきっかけがあればいいんだよというフットワークの軽さを感じた。「奥様は魔女」に続いてシャーリー・マクレーンの健在ぶりも楽しめた。
エンパイア・オブ・ウルフ
予測のつかない展開の作品。記憶障害の起こった女性と、フランスのトルコ人街で起こった連続殺人を追う刑事たちの物語が並行して描かれ、沈んだトーンの画面がフランス映画らしい雰囲気を盛り上げる。それが「ボーン・アイデンティティ」を風な話になり国家的陰謀かと思わせるが、麻薬がらみの犯罪で少々スケールダウン。クライマックスには戦闘アクションも登場。ジャン・レノの出番は意外と少なく、終盤までは脇役みたいに感じたほど。少々チグハグな印象もあるが、サービス精神旺盛な作品で飽きずに楽しめた。
シルバーホーク
上映10分前に入ったら場内が無人だったので驚いた(ロビーには二人いたが)。ウルトラ警備隊風のユニフォームはともかく、マスクのデザインはもう少し何とかならなかったのかという印象は予告編を観たときから感じていた。ヒーロー・アクション物の王道を行く設定とキャラクター作りだし、アクション・シーンも悪くない。ストーリーが単調なのは残念。他愛のない作品だが、お気楽に楽しむことはできた。「SAYURI]でも貫禄の演技を見せたミッシェル・ヨーがどうしてこんな役を、という気もしたが自身が製作に加わっているし、きっと好きなのだろう。
ザスーラ
「ジュマンジ」の続編というか姉妹編。前作はけっこう好きなので今回も期待したのだが、物足りない出来栄えだった。にぎやかに見せ場をつなげているので飽きはしなかったが、ドラマ的には単調で盛り上がりに欠けている。せっかくのティム・ロビンスもゲスト出演程度。宇宙飛行士の正体もパラドックスを感じさせるだけで、それほど効果をあげていない。
キング・コング
ピーター・ジャクソン監督念願のリメイク。「ロード・オブ・ザ・リング」以前に撮るはずだったのが、「さまよう魂たち」が期待ほどの成績を上げなかったので見送られていたのだとか。「ロード・オブ・ザ・リング」の成功によって予算をふんだんに使えたし上映時間も思いのままになったので、結果的には良かったと思う。キング・コングの造形、特に細かな表情の動きが見事で、男優賞をという声が上がったというニュースにもうなずける。コングとは対照的に繊細な脚本家を演じるエイドリアン・ブロディ、コングに癒しを与えるナオミ・ワッツ(あれだけ振り回されて平気なのはヴォードビリアンとしての平衡感覚の賜物という設定か)、憎まれ役に陰影を与えたジャック・ブラックも皆良い。カイル・チャンドラーのB級スターぶりも楽しかった。大幅にパワーアップした骸骨島の冒険シーン、個人的には恐竜より虫のほうが怖かった。終盤は詩情を感じさせ味わい深い。「タイタニック」を超える制作費なんて話も聞いたけど、本国でも日本でも成績は並程度とか。続編を2本作って3部作にする構想もあるという記事も読んだけど大丈夫なんだろうか。
SAYURI
あらかじめ考証にはこだわらず作ったと聞いていたので、それほど変とは思わなかったが、ヒロインの青い目は異様に感じた。碧眼にする必然性はないように思うが。ロブ・マーシャル監督の演出は、女の争いのドラマを手際よく描き出しているし、映像も美しい。芸者の"芸"の描写は物足りなく、特に舞踏発表会の場面は良くない。オーソドックスな日本舞踊を見せるべきだったと思う。チャン・ツィイーをはじめとする中国の女優陣は、日本人から見て芸者らしく見えるかどうかは別として熱演。工藤夕貴も、一人前になってもパンプキンと呼ばれるのは妙だが、やっぱり上手い。日本のベテラン陣も的確な演技で映画を支えている。ラストは、とってつけたような印象もあり、もっと深みのある終わり方は出来なかったかなあと感じた。