ムービー・マンスリー2006年1月
ディック&ジェーン泥棒は最高
ジェーン・フォンダとジョージ・シーガルが主演したコメディーのリメイク。前作は、細部は覚えていないのだが、手堅い出来栄えの作品だったと記憶している。今回の作品も同程度の印象で、わざわざリメイクする意味があったかどうかは微妙なところ。丁寧に作ってあるし悪い作品ではないのだが、大笑いするほどの場面もない。脇にもっと突き抜けたキャラクターを配せば盛り上がったかもしれない。
奇妙なサーカス
ドロドロなサイコ・サスペンス映画。虚構と現実、幻覚の区別がつかない展開が特徴だが、いしだ壱成の演技力をもってしてもクライマックスに説得力を持たせることはできなかった。痩せぎすで目をギョロリとさせた宮崎ますみは、サイコ・サスペンスのヒロインとしては適役と思うが、こめかみに青筋を浮かべて悶える様子にエロティックな魅力を感じなかった。下手に気取った演出をせずに、イタリアのモンド・ホラーみたいな作りにしてしまったほうが面白かった気がする。
ロード・オブ・ウォー
一人の偽ユダヤ人を主人公に、死の商人の世界をブラックな感覚で描いた快作。歯切れの良いテンポで、畳み掛けるように展開し、最後まで引きつけられた。ドラマ版「華氏911」といった趣もあるのだが、実在の人物をモデルにしているというからすごい。身内の人間まで不幸に巻き込みながら、それでも死を売り続ける姿が巨大国家を体現しているように見えてくる。ニコラス・ケイジは、初期に見た「バンパイア・キッス」と「アパッチ」の印象が悪かったせいか、一般の評価されているほどの俳優とは思っていない。今まで見た中では本作が一番面白かった。ちなみに「ザ・ロック」は、あまり評価しておらず、むしろハチャメチャな「コン・エアー」の方が好き。
ハリー・ポッターと炎のゴブレット
このキャスティングもお馴染みとなって登場人物の成長ぶりが楽しみになってきた。今回は主人公たちの恋模様が描かれるが、それほど深くは踏み込んでいない。この際10作と言わずに(6作目以降のキャスティングは未定のようだが)、ファンタジー版「男はつらいよ」を目指してハリー・ポッターの初孫誕生くらいまで続けてほしい。今回の作品自体は話のつなぎというところで、それなりに見せ場を用意してはいるが、強いインパクトを感じる部分はなかった。3つの試練も意外とあっさり終わってしまうし、クライマックスもとりあえずの顔合わせといった程度。ファミリー映画ということを意識したのか闇の帝王の凄みが足りない。次回作ではパワーアップした姿で登場してほしい。簡単に敵の侵入をゆるすホグワーツも、ちょっと情けない。他校に遠征して事件に巻き込まれる展開のほうが緊張感が増した気がする。これまでで一番ダークな作品という触れ込みなのだが、仲間が犠牲になることより、人間の命を学校行事に賭ける第2の試練に暗黒面を感じた。
輪廻
亡霊による復讐という従来の怪談に、転生という要素を加えた作品。転生というものにそれほど詳しい訳ではないのだが、同じ日に死んだ人々の生まれ変わりだったら同い年で誕生日も同じになるのではないだろうか。ストーリー的にも被害者が転生した人たちまでたたりを受けているように見えるのは符に落ちない。主人公がどうなったかは理解できたが、監督や他の人たちがどうなったかは分からなかった。「呪怨」シリーズと同様ショック描写にはこだわっているが、ストーリーのディティールはなおざりにされているように感じた。
スタンドアップ
事実にヒントを得て作られたセクハラ訴訟のドラマ。ホワイト・トラッシュが大多数を占める鉱山を舞台にした、一人の女性の戦いの物語。演出が丁寧だし、演技陣も素晴らしい。シャーリーズ・セロンの力強い演技が魅力だが、脇のキャラキターも皆存在感がある。問題意識が全然足りない経営者も印象的。日本でバカ丸だしの記者会見をしてる経営者と同レベルと感じた。三代にわたる家族の絆を描いたドラマとしても見応えがあり感動させられた。映画のクライマックスにマッチした邦題も良かった。
Mr.& Mrs.スミス
結婚5年か6年の夫婦が迎えた倦怠期を解消する刺激とは、というと艶笑喜劇になりそうだが、今回はブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが大暴れのアクション・コメディーとなった。二人とも久々の当り役という感じで、特にアンジェリーナ・ジョリーのSM女王姿はハマリすぎ。かなり楽しめる作品なのだが、予告編の絶好調さには及ばなかった。「ボーン・アイデンティティ」でも感じたのだが、見せ場をたっぷり盛り込んでいるにも係わらず、全体的にはメリハリに欠けてしまっている。ロバート・ロドリゲス監督あたりであれば、もっと歯切れのよい作品になったかもしれない。
男たちの大和
昭和の映画界を支えてきた監督が次々と鬼門に入っていく中で、ヴェテランの佐藤純弥が底力を見せてくれたことを嬉しく感じた。現在のドラマから始まったので、60年という年月をきちんとつなげることができるか不安に思ったが、脚本がしっかりしていて、ラストシーンも印象的だった。キャスティングも豪華で、仲代達矢は渾身の演技を見せるが、やはり実質的な主役である松山ケンイチと蒼井優の清冽な演技が魅力だった。死に場所を求めているようにすら見えた中村獅童が長寿を全うし、戦局を冷静に見据えていた反町隆史が大和と運命をともにしていく展開も奥深く感じた。軍人が皆立派なのは見ていて気分が良いのだが、震えながら戦っている水兵とかもいたほうがドラマに陰影が生まれたという気もする。
THE有頂天ホテル
三谷幸喜監督作品は見ている間だけでなく、後になって思い出し笑いをしたりすることがある。それだけギャグが良く練られているということなのだろう。前2作も賑やかな顔ぶれだったが、今回は一層豪華なキャスティングになっている。文字通りグランドホテル方式のコメディで、大勢の登場人物をきっちりと整理して、大晦日の混乱ぶりを鮮やかに点描する手腕はさすがだと思った。小道具の使い方も上手いし、伊東四郎の白塗り、近藤芳正と津川雅彦の耳、オダギリジョーと唐沢寿明の髪型、とビジュアル的(?)な見せ場も用意されている。ただし見終わった後の満足感は前2作のほうが高かった気がする。多くの人たちが係わり合いながらラジオ・ドラマや家を作り上げていく前2作のほうが達成感が味わえたということなのかもしれない。監督作品としての次回作も待ち遠しいが、先日ファイナルと銘打って高視聴率 を稼いだ古畑任三郎も、高倉健とか吉永小百合クラスを犯人役に映画版で締めくくってほしい。