ムービー・マンスリー2006年3月
ダイヤモンド・イン・パラダイス
娯楽に徹した映画作りに手腕を発揮するブレット・ラトナー監督の新作。軽くまとめた小品で派手な見せ場はないが、手際良い演出で楽しめる作品になっている。あくまでも拾い物のB級サスペンス・コメディといった位置づけではあるが。出演者の個性も生かされており、特にウディ・ハレルソンのコミカルな役作りが作品全体を楽しいものにしている。このところラトナー監督とコンビを組むことの多いラロ・シフリンのスコアも冴えていた。
ナイト・イン・ザ・スカイ
フランス製B級航空アクション。空中戦などアクション・シーンは、それなりに撮ってあるので一応見られるが、全体の完成度は低い。展開が大味で陰謀の全容が見えてこないし、主人公二人もパッとしない。陰謀を暴いてやる、とか言いながらナンパに精を出してる。真面目に調査しているのはヒロインだけ。シリーズ化を狙ったのか、ラストもハギレが悪い。
アブノーマル・ビューティ
これまで見たオキサイド・パン監督作品の中では少々見劣りのする出来栄え。編集は凝っているが、ストーリーにひねりが効いていない。前半は事件が起こらず、トラウマを克服するヒロインを描いた普通のドラマかと思い始めたところでスリラーになった。少々タイミングが遅い。前半から事件が起きて、果たして犯人はヒロインなのか、という不安感を観客に与える構成にすれば、もっと面白くなったと思う。事件が後半だけでトントン進むので恐怖感が盛り上がらないのも難点。ラストのオチの一言も、ハナから予想のついている事柄なので衝撃はない。
県庁の星
織田裕二が「踊る大捜査線」とは逆にキャリア官僚を演じたのがミソの作品。といってもコネがなくて主流になれないのだが。改革はほんの些細なことから始めてでも、決して諦めないという意気込みは織田裕二らしいキャラクターだと思う。官僚一人一人はすごく優秀なのに、組織に組み込まれてしまうとマイナスのベクトルに動いてしまうということが良く分かる。うまくまとめてあり、悪い作品ではないのだが、何かスパイスを入れ忘れたような物足りなさが残ってしまうのが残念。脇のキュラクターも魅力的ではあるのだが、決め手となる描写がない。
プリティ・ヘレン
バリバリのキャリアウーマンが子供と暮らすことになって、という設定は「赤ちゃんはトップレディがお好き」とかいろいろあるけど、今回は子供が三人で思春期の女の子がいたりするのが特徴。フランク・マーシャル監督らしく手際良くまとめて楽しめる作品に仕上げている。ヒロインが母親らしい態度を取れるようになるまでが描かれるが、なんだかようやく振りだしで終わったような印象も残る。そうすると、仕事のほうは大丈夫なのだろうかという気がした。
ナルニア国物語/ライオンと魔女
全7部作だそうだが、少なくとも第1作は完結したストーリーになっている。テンポの良い演出で2時間20分飽きさせない。「ロード・オブ・ザ・リング」とは比べ物にならないが、ディズニーらしく手際よくまとめたファミリー・ムービーになっている。次男の救出とかクライマックスとか、見せ場が軽くまとめられているので多少物足りない印象も残ったが、次回作が楽しみな作品。ティルダ・スィントンの魔女ぶりが見事で、中盤のドレスは肩口のデザインが不恰好な気がしたが、クライマックスの戦闘モードがポーズも含めて決まっていた。
イーオン・フラックス
高予算で作ったB級SFアクションという印象だが、それなりに楽しめた。あまり力まずに軽いタッチにすれば、もっと面白くなった気がする。シャーリーズ・セロンとしては異色ともいえるアクション作だが、ここでも魅力を発揮している。脇のキャラクターが少々弱い印象なのと、クライマックスの銃撃戦が迫力不足だったりするのが残念。反乱軍女指導者の正体も不明なまま終わってしまう。シャーリーズ・セロン・ファン向けの作品と言った方がいいのかもしれない。
春が来れば
小品佳作。全体的に淡々と描かれるので、ややメリハリに欠けるが、そのことが落ち着いた味わいを生み出してもいる。チェ・ミンスクは愛すべきダメ男を好演。母親とのやり取りが微笑ましい。音楽ドラマとしては少々弱く、吹奏楽部の再建という側面はあまり良く描かれない。主人公は講師をやめてしまうようだが、吹奏楽部の行く末は描かれない。二人暮らしの祖母をなくした少年が、どのように生きていくかについて触れていないことも気になった。
SPIRIT
ジェット・リーが「ドラゴン怒りの鉄拳」で有名な精武門の創始者を演じたクンフー・アクション。ストレートで分かりやすいストーリーで正攻法の力作になっている。監督が「チャイニーズ・ゴースト・バスターズ」「シンデレラ・ボーイ」を経てハリウッドに進出したロニー・ユー監督なので娯楽映画のツボを押さえた出来栄え。武道家の精神が凄烈に描かれている。エンディング主題化が不評の日本バージョンだが、他のバージョンも見てみたい。allcinema onlineによれば、タイ人武道家との格闘シーンがあるバージョンもあるとか。中村獅童は、アクションとセリフが吹き替えなのが残念だが、潔い武道家を好演している。