ムービー・マンスリー2006年4月
大統領のカウントダウン
ロシアで大ヒットしたアクション映画ということで期待したが、ゲイリー・ダニエルズやマーク・ダカスコス主演のビデオ直行作品と大差なかった。装甲車の爆走シーンとか迫力ある場面づくりは魅力だが、黒幕がだまされているだけだったりして、悪役不在の印象が強い。主人公の娘が救出されるのが早すぎるし、クライマックスに主人公がプログラム解除を待つのが手持ち無沙汰そうで冒険映画としては盛り上がりに欠ける。空飛ぶ機上で娘を奪い合うくらい破天荒なクライマックスにしてしまったほうが面白かった気がする。
サウンド・オブ・サンダー
監督は初期の「カプリコン1」で頂点を極めちゃった感のあるピーター・ハイアムズ。とはいえ製作中にトラブルがあったと噂される本作を、とにかくまとめてしまう力量は、さすが職人監督。ただしストーリー的には大雑把で突っ込みどころが多い。同じ時間を使って恐竜狩りを繰り返すという設定からしてパラドックッスを引き起こしている。虫に襲われたビルから飛び降りるのも無茶すぎる。だいたい虫のエピソードは、このシーンのみで取ってつけたような印象。歴史の変化が波状攻撃を仕掛けてくるというのも、良く分からない。ハイアムズ監督のB級CGモンスター映画としては「レリック」のほうが楽しめた。
ドゥーム
元となったゲームについての知識はないが、研究所内探索というアクション・アドヴェンチャー・タッチでストーリーが進み、終盤主人公視点によるシューティング画面となり、クライマックスは格闘アクションで決着。どうだゲーム感覚に徹した作品だろう、という意気込みは良く伝わってきた。ザ・ロックの怪演ぶりに比べると主人公のインパクトが弱く、ヒロインもそれほど魅力的に描かれていないのが残念。B級SFアクションとしては、それなりに楽しめたが、クライマックスで隠れていた生存者を皆殺しにしたとセリフだけで片付けるのが無残な印象を残した。生存者を守るため死闘を繰り広げる展開にしたほうが盛り上がった気がする。
EYE2
1作目は、なかなか面白かったし、今回はスー・チーが主演ということで期待したのだが、イマイチの出来栄えだった。ストーリー的には前作に全く関係なく、霊視をテーマにしてはいるが特に目にこだわった内容でもない。スー・チーは体当たりの熱演を見せているのだが、ストーリー展開に無理があるため空回りしているのが残念。ラストを良い話でまとめようとしているのは分かるが、2度も飛び降りた後で真意を伝えるのは悪意があるとしか思えない。パン・ブラザース関連作では、先月見た「アブノーマル・ビューティー」でも感じたのだが、演出自体は悪くないと思うので、脚本をもう少し練ってほしいと思う。
プロデューサーズ
メル・ブルックス監督初期作品をミュージカル化した舞台の映画版、という流れとしては「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」と同様なもの。原作は、かなり以前に見たので細部まで覚えていないのだが、今回のほうが終盤の展開が丁寧に描かれ、余韻を残す出来栄えになっている気がした。序盤では主演二人の演技が大げさに感じたが、登場する人物が皆エキセントリックなので次第に気にならなくなった。ユマ・サーマン扮する大柄な女優や、ゲイなゲイの演出家とその弟子とかも良かったし、「奥さまは魔女」ではミス・キャストっぽかったウィル・フェレルも今回はハマッていた。エンディングで久しぶりにメル・ブルックスが見られたのも嬉しかった。
ファイアーウォール
ハリソン・フォードは、サスペンスとアクションに当りが多く、メロドラマとコメディはハズすことが多い気がする。という訳か今回は得意分野でソツない作品になっている。スピーディな演出できっちり出来ているのだが、少々メリハリに欠け見終わった後の印象が薄めなのが残念。犯行の手口も内部犯行なら誰でも良さそうなもので、システム開発者ならでは、という意外性には欠ける。見逃している「サイドウェイ」が好評だったヴァージニア・マドセンが花を添えていた。事件解決に協力するメアリー・リン・ライスカブは、キャラクター的には面白いのだが、銀行の重役秘書には見えないのが難点。
ブロークバック・マウンテン
アン・リー監督の演出は淀みがなく、1カット1カットを丁寧に取っているのが分かる。出演者も総じて良い。主演の二人だけでなく、絡んでくる女優陣も皆好演している。1960〜70年代、まだ同性愛が公けに出来ず、時にはリンチ事件を引き起こした時代、ということであれば最初からその気があったツイストはともかく、ノーマルだったはずのデルマーがいきなりズボンを下ろしちゃうのは唐突で不自然な気がした。その前に二人の友情→愛情が決定的に深まっていく事件を配せば説得力が生まれた気がする。ひたむきなツイストに対して、デルマーは逢瀬を侘しい生活からの現実逃避の場として利用しているようにも見え、その彼がラストで失った物の大きさを知るという展開は奥深いものを感じた。異論の多い今回のアカデミー作品賞、どちらも質の高い作品とは思うが、個人的には「クラッシュ」のほうが好みの作品だった。
タイフーン
韓国に拒否され行き場も一族も失った脱北者の復讐と、それを阻止しようとする軍人の戦い、という韓国映画ならではの設定に魅力を感じたのだが、完成度は低かった。冒険アクションとしても社会派ドラマとしても中途半端な出来で、ストーリーが大味。突っ込みどころも多い。タイミングよく二つの台風がぶつかるのも調子良すぎるし、個人の復讐に海賊の手下が文句も言わず命を賭けるのも不自然。ラストも腰砕けだった。チャン・ドンゴンは精悍で復讐者のイメージを出していたが、イ・ジョンジュのほうは線が細く冒険映画のヒーローというインパクトに欠けていた。派手な音楽を使って場を盛り上げるが、今回もどこかで聞いたような曲調が多かった。
雨の町
菊池秀行の原作は読んでいないのだが、ストーリー的にはあまり良く練れてないように感じた。演技面でもちょっと稚拙な部分があるのだが、現代に生きる物の怪を描いた怪談映画と捨ての雰囲気は良く出ていたと思う。いっそヒロインも物の怪にすりかわっていたことにして、家族を持つことが出来なかった主人公が、雨のそぼ降る町で物の怪たちと擬似家族をひっそりと営んでいくという結末にすれば、怪談版「惑星ソラリス」の趣きが出て面白かった気がする。
寝ずの番
津川雅彦の監督第1作でテーマが通夜というと、伊丹十三の監督第1作「お葬式」を思い出すが、こちらは落語家一家を描く群像劇なので、弟子や家族が個人の思い出話を語るという小咄集的な作りの作品になっている。艶笑的なエピソードが多いので好みが分かれるかもしれないが、さすがに粋さを感じさせる仕上がりと思う。顔ぶれも芸達者な役者が揃って楽しませてくれる。せっかく監督の顔で弔問客役に大物ゲストを揃えたのだから洒落たセリフの一つも喋ってもらえば良かったのに残念。
かもめ食堂
フィンランドで大衆食堂を開く女性を主人公にしたハートフル・コメディ。主人公3人とも個性を生かしたキャラクター作りをしている。特に小林聡美は「転校生」「やっぱり猫が好き」に並ぶ当り役ではないだろうか。1ヶ月間客なしで平然としているのは、さすがに現実離れしているように思えたが、主人公の持つ潔い性格の表れということなのだろう。もたいまさこのかもし出す得体の知れない雰囲気も面白かった。大きな事件が起きるわけではないのだが、人と人の触れあいの輪が次第に広がっていく様子が、ほのぼのとしたタッチで描かれ、良い気分にさせてくれた。店で出る料理が本当に美味しそうに見えるのも魅力。