ムービー・マンスリー2006年5月
ブラッドレイン
なかなか凝ったキャスティングということもあって期待したのだが、残念な出来栄えだった。イマイチ、キャラクターが立っておらず、ストーリーを追っているだけという印象が強い。そのため、一通り見せ場が用意されているにもかかわらず、盛り上がりに欠ける作品になってしまった。ヒロインのキャラクターが確立されていないのが致命的。ミシェル・ロドリゲスが裏切りに走っていく過程も、もう少しきちんと描くべきだったと思う。
Vフォー・ヴェンデッタ
近未来のイギリスを舞台に、独裁政権に復讐しようとする男の戦いを描いたノワールなのだが、中途半端な印象の作品だった。原作のコミックは知らないのだが、映画版のストーリーは「オペラ座の怪人」のなぞりという印象。ナタリー・ポートマンは熱演だが、見せ場がなくて気の毒。ストーリーも、なんだか都合よすぎる。ダークな雰囲気に徹したほうが面白くなったのではないだろうか。地道に捜査を続ける刑事を演じたスティーヴ・レイルズバックは印象的だった。良い部分もあるのだが、破壊工作を花火の打ち上げのように見せる演出で無理に美化しているのはどうも引っかかった。
チェケラッチョ
女の子にもてたいがためにラップを始めるという、正しい青春映画。主人公4人が溌剌と描かれているのが魅力。その他の登場人物も良く描かれていると思う。連発するギャグは、ハズしているものも多いのだが、それがかえって沖縄らしい(?)トボけた味わいになってたりする。残念なのはクライマックスのライヴが出来すぎで、説得力を失ってしまったこと。誰があんな演奏したのか。コーラスまで入ってるし。カラオケ使ったということなのか。録音しまくってたサンプリング音なんてオープニングのSE音にしか使ってないし。
デュエリスト
時代劇の刑事物。つまり韓国版捕物長なのだが、ひどく散漫な印象の出来。このところ好調のハ・ジウォンだったが、今回は役作りに失敗したのか、粗雑な面ばかり目立つヒロイン像になってしまった。次々と変装して捜査するのが前半の見せ場なのだが、結局何の成果も上げていない。事件の真相は上司の長官が全部教えてくれるし。カン・ドンウォンの美剣士ぶりはなかなか絵になっているが、キャラクター的には結局何を考えているのか良く分からない。敵味方に分かれた悲恋というテーマ自体取って付けたようで迫ってこない。敵に囲まれて絶体絶命、で画面が切り替わった刑事が、次には何もなかったような顔をしているのも、いい加減。
瞳を見ればわかる
イタリア映画祭で観た作品。最愛の娘が喘息で、ちょっと神経質になっているヒロイン。対照的に奔放で気まぐれだが、喉の手術で歌手生命が危機的状況にある母親。妻のしたいようにさせていたが、愛人が自分より年上と知って動揺を隠せない父親。ともすればバラバラになりそうで、実はしっかりとした絆で結ばれた家族を、時には明朗に、時にはシニカルに描いた小品佳作。ヴェテラン、ステファニア・サンドレッリをはじめ、皆良い演技を披露しているのだが、やっぱり子役にはかなわなかった。
聖なる心
これもイタリア映画祭で観た。先読みの出来ない展開の作品だった。父の後を継いで事業の拡大に邁進してきたヒロインが、一人の少女と出会ったことから人生の転機を迎える。ほのぼのとした交流が描かれていくのかと思いきや、少女はあっさり死亡。遺志を継いだヒロインは、ボランティア活動を始める。というわけで今度は一種の美談になっていくのかと思ったのだが、ヒロインの行動はどんどんエスカレートして狂気の淵へと沈んでく。演出にも力があり最後まで引き込まれた。実をいうと何がテーマなのか良く分からなかったのだが、きわめて印象の強い作品であることは間違いない。二転三転するヒロインの母親のイメージも作品に厚みを与えている。
リバティーン
破天荒な生き様の詩人をジョニー・デップが熱演かつ怪演している。豊かな才能を持ちながらも反社会的な行動を取らずにはいられない破滅性向の芸術家が力強く描かれている。国王にすら屈しない奔放ぶりが見事。つけ鼻のジョン・マルコヴィッチも面白いが、主人公をめぐる三人の女性も印象的だった。当時のロンドンの不衛生さがリアルに表現されていて、国王の背景で犬がフンをしてたりするのが可笑しかった。
海猿LIMIT OF LOVE
訓練生時代を描いた映画版第1弾。潜水士としての成長を描いたテレビ・シリーズ。続く今回は本格的なディザスター・ムービーとして仕上がっていた。下手なアメリカ映画より緊張感のある出来栄え。登場人物もきっちりと描かれ、ドラマに引き込まれた。邦画としては珍しいくらい骨格の太い娯楽作だと思う。残念なのは船外と船内で傾斜角度が違うように感じられたこと。それとエンド・クレジットでこれまでの名場面が流れるのは良いのだが、NGシーンや撮影風景まで流すのは良くない。最近この手法が多い気がするが(特にシリアスな作品では)DVDの特典映像あたりにしておいたほうが良いと思う。
トムヤムクン
内容的には仏像を象に置き換えた「マッハ!!!!!」のリメイクといった趣きだが、かなりスケールアップしており、なかなか楽しめた。体を張ったアクションは健在だし、次々と強敵が現われて飽きさせない。妙に入り組んだストーリーが未整理な印象を残すのが残念。もっと単純な展開にしたほうが良かったと思う。ジョニーとかいうチンピラはどうなったんだ?ラストは、オカマのボスが象の牙に貫かれて死ぬとかしたほうが、因果応報のイメージが出て面白かった気がする。
アンジェラ
リュック・ベッソン監督久々の新作はモノクロの小品。ドツボにはまったダメ男に天使が舞い降りて、というファンタスティックなラヴ・ストーリーなのだが、ハズしてしまった。この手の作品はシナリオの出来が決め手という気がするのだが、中途半端で、なんだか準備稿の段階で撮影してしまった感じ。会話が多いのだが、洒落たセリフがあるわけでもない。ストーリーとしてもファンタジーとしての広がりが感じられず、一貫性にも欠ける気がした。せめてクライマックスにハッとするような仕掛けが用意されているのかと期待したが、それもなかった。
陽気なギャングが地球を回す
特殊な能力(演説の達人というのは良く分からないが)を持った4人の銀行強盗を描く犯罪コメディ。映像的にはなかなか凝っているのだが、ギャグも含めてベタな部分もあり、スタイリッシュとまでは言えないのが残念。CGを多用したカーチェイスも、映像的には面白いのだが、臨場感に欠けるので迫力には不足している。ラストまで飽きずに楽しめるのだが、詰めの甘い部分もある。どうして大沢たかおが、黒幕の嘘を見抜けなかったのかも謎。
玲玲の電影日記
運命的な偶然からヒロインの過去が甦り、失われた家族を取り戻していく秀作。子供の頃に野外上映の映画を眺めたのと同様に、双眼鏡越しにしか両親を見ることが出来なくなっていたヒロインの心情に胸を打たれた。前半は二人の子供の交流を中心にほのぼのとしたエピソードが描かれ、次第に悲しみに満ちた展開となっていき、ドラマに引きずり込まれた。子役たちが魅力的だし、美しい母親のチアン・イーホンや朴訥な映写技師のリー・ハイビンも好演。人間でも犬でも不遇の死を迎えてしまう兵兵というのも可哀相だった。かって娯楽の王様だった映画がテレビの普及とともに斜陽を迎えたのは中国も同じだったのだなあと思った。