ムービー・マンスリー2006年7月
TRICK劇場版2(ネタバレ)
仲間由紀恵をコメディエンヌとして開花させたシリーズの映画化第2弾。最終作という触れ込みで、確かにそれらしい終わり方になっているが、やっぱり続きが見たい気がする。ベタなギャグを連発するユーモア・ミステリぶりは健在。謎とき自体は、それほどたいしたことないが、遊び心に満ちていて楽しめた。クライマックスの片平なぎさは、2時間ドラマのセルフ・パロディか?(「嫌われ松子の一生」ではパロディどころか本人役だったし)野際陽子扮する母親が市の名を間違えて市長選に立候補したため全く得票できなかったが、それでもミスター・オクレには勝っていたというオチは笑えた。
ウルトラ・ヴァイオレット
ミラ・ジョヴォヴィッチのSFアクションということで期待したのだが、ハズレだった。主人公たちが具体的にどういう存在なのか、普通の人間が感染するとどうなるのか。基本的な設定がはっきりしないまま話が進んでいくので、派手なアクションを連発しても入り込めない。ストーリー展開も雑に感じた。なぜヒロインだけが圧倒的に強いのかも、何か理由づけがあったほうが良かったのではないだろうか。映像的には凝っているし、それなりに予算は掛けたのだろうが。同監督の前作「リベリオン」のほうが、まだしも楽しめた。
初恋
印象的な作品ではあるのだが、主人公以外のキャラクターが今一つ個性に欠け、物足りなさが残ってしまった。前半でグループの若者たちの生きざまに祭りの感覚が描けていれば、後半ちりぢりになっていく寂寥感がもっと出たのではないかと思う。三億円事件は確かに世間を大騒ぎさせたが、反政府的なイメージはあまりなかったと感じていた。映画では後日談が描かれて納得できた。白バイがトラックの幌を引きずってきたということは憶えてなかった。学生運動、前衛ジャズ、グループサウンズ等、当時の要素を取り入れてはいるが、時代の空気を表現しきるには至っていなかったように感じた。男たちがみんな若死にするか消息不明で、元気に生きていくのが女性だけというのは、ちょっと身につまされた。
カーズ
ジョン・ラセター監督の新作。一匹狼のレーシングカーが、時代の波から取り残された街で望まぬスローライフを味わって人生の転機を迎える、というストーリーはキャラクターが車という以外はありがちだが、やっぱり作り方がうまい。個々のキャラクターが実に生き生きしているし、レースの疾走感も見事に表現されている。ラストは脳天気そのものだが、時代の変遷に対する哀歓も盛り込まれ作品を味わい深いものにしている。車の虫やトラクターの牛というのは良かったが、もっと多くの動物車が登場していればもっと楽しくなったと気がする。車の猫とネズミがおっかけっこしてるとか。
ダメジン
2002年に撮影された三木聡の初監督作品。奇妙な人間たちが暮らす街を舞台にしたナンセンス・コメディ。企画段階のタイトルは「ほぼ乞食」だったとか。主人公は、真面目に働くなんてとんでもない、という三人組。中でも特にダメそうな温水洋一演じる25才の男が可笑しい。クライマックスのの人海戦術一人百万円強奪の銀行強盗はシンプルで妙に説得力がある。登場人物たちは、あまりフロにも入ってなさそうだし実際身近にいたら、ちょっと迷惑な気もするが、映画のキャラクターとしてはなかなか魅力的。エンド・クレジットで伊東美咲の役が幽霊だったと知って驚いた。
ブレイブストーリー
派手すぎない色調が良いし、アニメーションとしての完成度はかなり高いと思う。ストーリー展開は典型的なRPGタイプなのだが、その中で主人公が現実の生活では良いことばかりでなく、悲しいことや辛いことも受け入れなければならないことを悟っていくというテーマも悪くない。ただし出来上がった作品は、そつなくまとまってしまった印象で、感情に訴えてくるものに欠けていた。人気俳優やコメディアンを集めた声の出演は上手い人も下手な人もいたが、主要キャストは皆頑張っていたと思う。
2番目のキス
ファレリー兄弟の作品は、かなりエキセントリックなシチュエーションでも、ラヴコメとしてきちんとまとめあげているところが魅力。彼の特異な性癖や嗜好に振り回されるヒロイン、というのは実際にありそうなことだが、それをレッドソックス・マニアと設定したところがミソ。野球はあまり知らないのだが、それでもかなり楽しめた。詳しい人なら笑いどころも多いだろうと思う。今回はテーマについて丁寧に掘り下げて描かれているのだが、その分これまでの作品に比べてこじんまりした印象でもある。ジミー・ファロンは悪くはないのだが、アダム・サンドラーやベン・ステイラーなどのヴェテランに比べると、やや固い感じを受けた。
タイヨウのうた
青春映画としても恋愛映画としても音楽映画としても、完成度の高い作品。難病ものだけど清々しさを感じさせる作りで、無理に泣かせようとせずにすっきりしているのが良い。演出も丁寧なのだが、なんといっても歌と演技に新鮮な魅力を発揮したYUIによるところが大きいと思う。真摯な好青年を演じた塚本高志も良い。最後までサーフィンは上達しなかったが、早朝の海に通うサーファーゆえにヒロインの目にとまったという設定にも説得力を感じた。同様な病気を扱った作品としては野島伸司の失敗作「世紀末の詩」やブラッド・ピットの「リック」(こちらは好編だった)が思い浮かぶが、本作が一番好きになった。
サイレントヒル(ネタバレ)
原作となったゲームは知らないのだが、出来上がった作品はホラー版「ザ・セル」といった印象だった。一種のパラレル・ワールドを舞台になんでもありの展開。斬新な映像が魅力となっている場面もあるが、ストーリー的にはグチャグチャ。少女が実は人間ではないとか、かなりすごい話になってくる。もう少し整理して、集めた情報から真相が見えてくる展開にすればアドベンチャー・ゲームらしい面白さが出たのではないかと思う。ダーク・ナースの集団は不気味なのに、どこかユーモラスで良かった。
M:i:V
オリジナルの「スパイ大作戦」は、高予算で派手なスパイ映画に対して、低予算のテレビらしさを生かしたコン・ゲームとしてのスパイ戦をを描いて人気を博した。映画版は、ド派手な展開で「スパイ大作戦」というよりは、アメリカ版ジェームズ・ボンドといった印象になっている。とはいえ今回は、テーマ曲以外にラロ・シフリンのスコアが使われたり、本格的なコン・ゲームではないもののチーム・プレイでのミッションが描かれたり、ちょっとしたファン・サービスもなされている。全体的にすっきりまとまって、シリーズ中一番ストレートに楽しめた。この企画、作家性の強い監督より、職人監督のほうが向いているのかもしれない。「TRICK」に続いて最終作っぽい終わり方をしたが、どうなるのだろうか。まさか「トゥルー・ライズ」みたいな展開にはならないと思うが。
笑う大天使
神の御加護でなんでもありの豪快な学園コメディー。ストーリーはスチャラカ、コミカルなキャラクターの魅力で見せてしまう作品。主人公3人のキャラクターや、それぞれの家庭の事情が楽しく描けているのも楽しめた。クライマックスの格闘アクション・シーンは、意外なほど良く撮れていて、邦画のヒロイン・アクションとしては最高レベルではないかと思う。アクション演出にこだわりを見せる北村龍平監督のガン・クレイジー・シリーズも、ここまで達していなかった。ゆえに「伊賀野カバ丸」「コータローまかりとおる」の路線を継ぐ作品という印象を持った。(学園に向かう列車は、「ハリー・ポッター」よりも私立鶴ケ峰学園のモノレールを想起させたし)CGは全くCGにしか見えないのだが、この作品のマンガっぽい世界観(原作がコミックだからあたりまえか)には、それもありかなと思えた。
神の左手悪魔の右手
楳図かずおの原作は知らないのだが、映画は「奇妙なサーカス」「ブラックキス」「サイレントヒル」を超えて今年のストーリー・グチャグチャ度ナンバー1の出来。前半から強引な展開が目立つのだが、特に終盤は収拾がつかなくなってくる。事件が本当に起こったのかすらも判然としなくなってしまった。主人公の少年も、クライマックスにあんな登場のしかたをするなら電車に乗る必要はなかったのでは?とにかく細かい突っ込みどころはエド・ウッド並み。そういう意味では楽しめる作品かも。さすがに金子修介監督作品だけあってショック描写に手堅さを見せたが、スプラッター描写は生首のダミーとか人間の捻じれる特殊効果だとかがチャチすぎて興ざめ。「デスノート」の後編が、ちょっと不安になってきた。